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上手に嘘をついてリアリティ感アップ… 「ウェザリング」

 「ウェザリング」(Weathering) とは、模型やフィギュアなどに経年変化や使い古した結果生じる 「汚れ」 を、リアリティを高めるために施すことです。 「汚し塗装」 や英語の 「Weathering」 同様、「風化」 と呼ぶこともあります。

 例えば戦車や軍艦、軍用機といった ミリタリー な乗り物や鉄道車両などの模型は、作りたて・塗装したばかりではピカピカの新品状態であり、現実の車両などに比べるとキレイすぎておもちゃっぽいリアリティのないものになってしまいます。 現実世界の乗り物は、実際に使われることで雨風に晒される、経年劣化が生じるなどして、ボディ表面の塗装が剥げたり錆が生じたり汚れが付着することでしょう。

 そこで模型でもこうした 「使われ感」 を再現するために、あえて使い古したような汚れや塗装剥げ、錆や傷、へこみなどを施すようになりました。 ただし 「使い古したように見せるため」 なので、本当に汚すわけではなく、汚れ風や傷・塗装剥がれ風の塗装や加工を行うことになります。 傷や錆を塗装で表現することはチッピング塗装やデコボコ塗装、あるいはハゲチョロ塗装、 雨や油などが垂れた跡の再現はストレーキングなどなど、表現したいウェザリングによって様々な技法が存在します。

 なお本物でも一切の汚れなどない、ピカピカの新品状態が当たり前のものもあります。 例えば納車されたばかりの新車とか、走る前のレーシングカー、オートバイなどは、汚れている状態よりもピカピカの状態の方が再現する場合にふさわしい状況もあるでしょう。 その場合でも、マフラーやディスクブレーキ部分に焼き色を入れるなど、生きている実車ならではの表面変化を施すこともあり、この場合もウェザリングと呼ぶことが多いでしょう。

 模型単体での扱いはもちろん、とりわけジオラマ (博物館展示方式の情景模型) においては最重要な要素ともされ、いわゆるジオラマ模型における 「三感」(質感・距離感・量感) ではとくに質感に関わる重要事項として知られています。 ちなみに マンガ 「ドラえもん」 のエピソード 「超リアル・ジオラマ作戦」(1984年) においても、スネ夫が自慢のプラモデルをウェザリングの手抜かりによって質感のないペンキ塗りたてのおもちゃ扱いされるシーンが描かれています。

 一方、スケールモデルではなく、実物大の模型 (例えばモデルガンや模造刀など) や模型ではない実際の道具や建物を 「古いもののように加工すること」 もあります。 その場合はウェザリングの他、とくに 「エイジング」 と呼ぶこともあります。 例えば新品の服や家具などを年代物・アンティークに見せるために行う加工などは、もっともポピュラーなエイジングでしょう。

模型の 「造形」 ではなく 「時間」 と 「物語」 を演出するウェザリング

 模型は、スケールものにしろ実物大のものにしろ、実物の 「形」 や 「色」 を再現するものです。 一方でウェザリングは、模型に質感はもとより 「時間」 や 「模型の元となった実車などの過去や物語」 を再現するものと云って良いでしょう。 激戦を繰り広げた戦車なら泥だらけであちこち傷ついているでしょうし、古い機関車なら摩耗や風化によってすすけた汚れが付くでしょう。 またそれらを動かすために 現場 で必死に整備や手入れをした人々の仕事の痕跡も、外観に見られるかもしれません。

 ウェザリングはそうした 「模型の元となった乗り物・メカたち」 が生きてきた痕跡や物語を模型に加えるドラマティックな作業であり、やりすぎるとただの汚い模型になってしまうかもしれませんが、しっかり考証されたウェザリングは作品の奥行きやリアリティを何段階も引き上げてくれる魔法のテクニックとなるでしょう。

 またウェザリング処理にこれといった決定的な方法論は十分確立しているとは云えず、模型誌や模型展などを通じたテクニックの流行り廃りはあるものの、時代ごと・作者 (モデラー) ごとに、素材となる模型や表現したい方向性によって様々な技法や道具の使い方が編み出され、強いこだわりも生じやすいのがこの分野の持つ奥深い面白さでしょう。

 例えば軍艦などの場合、実物の全体が視界に入る距離で人間が見ても傷や錆などの細かい部分は直接目に入らないものです。 軍艦模型はおおむね 1/700 とか 1/350 というサイズのため、仮に0.2ミリのわずかな傷を 雰囲気 でつけても、実物換算で7センチとか14センチもの大きな亀裂が艦体に入っているのと同じになってしまい、海戦や事故の後の再現のような特別な意味が模型についてしまいます。 また実際の軍艦で塗装剥がれが生じて地金が見えても、いかにも金属風にピカピカと光ったりはしないでしょう。

 上手く嘘をついてリアルとリアリティを使い分け、歴戦による傷だらけの姿を説得力たっぷりに見せるには技術以上にある種のセンスが必要でしょう。 ウェザリング自体がしばしば模型作りの最終工程で行われることもあり、モデラーの力量がもっともよくわかる、それだけに手が抜けない大切で大きな要素だと云って良いかもしれません。

 ちなみに小さい子供が乗り物のおもちゃなどを 「ブーン」「ドドド」 などと口で音を出しながら手でガチャガチャ動かして遊ぶことを俗に 「ブンドド」 などと呼びますが、こうした遊びで傷だらけになったおもちゃや模型を 「ブンドドウェザリング」 とか 「天然ウェザリング」(単に模型を飾っていてついた汚れや古い模型の劣化も含む) などと呼ぶこともあります。

創作物における 「汚れ」 の表現

 SF作品や時代物作品では、衣装や小道具、舞台セットに、ウェザリングやエイジングの有無は極めて重要です。 しかし モノクロ 映画の時代はあまり画面効果も上がらず、現代ものや時代物はともかく、未来を描く SF 作品などでは、やたらとピカピカで無機質な都市や乗り物、道具などが出てきて、当時としては未来感を盛り上げるありふれた表現ではあったものの、あまり生活感やリアリティを覚えるものではありませんでした。

 その後、ピカピカの未来都市といった表現は好まれなくなり、よりリアル感が得られ説得力がある汚しが行われるようになっています。 こうした手法を取り入れた作品は様々ありますが、とりわけ黒澤明監督映画のウェザリング手法に倣ったと云われる 1977年の 「スター・ウォーズ」(Star Wars/ ただし未来の話ではない) や 1979年公開の 「エイリアン」(Alien)、1982年公開の 「ブレードランナー」(Blade Runner) あたりの表現手法は、大きな話題とその後の未来や近未来を描いたSF作品に極めて強い影響を与えることとなりました。

 例えば野山を駆け回る冒険家、敵と戦う兵士が、いかにも新品・おろしたての衣装や道具を身に着ていたらリアリティなどないでしょう。 とはいえ、単にボロボロに汚れていれば良いというわけでもなく (画面が汚くなる上、撮影の順番によって汚れ方の変化を矛盾なく行う必要が生じるなど、それはそれで映像作品などでは問題があるでしょう)、そこにどのように 「使い込まれた感」 を与えるのかは衣装や美術担当者の腕の見せ所でしょう。

 日本作品の場合、とくに マンガアニメ の実写版では、やたらと新品っぽい衣装になって 「まるで コスプレ だ」 などと ネガ比喩 で揶揄されることもありますが、このあたりはこだわりを持って取り組んでくれたらなとは思います。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2013年4月21日)
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