主張は理解するが、その云い方が気にくわない 「トーンポリシング」
「トーンポリシング」(Tone Policing) とは、何らかの議論や論争が生じた際に、相手の主張や話の中身に対してではなく、口調や態度などをあげつらって批判することです。 「トンポリ」 と呼ぶこともあります。 もっぱら社会問題などを テーマ とした議論における論点ずらしの 詭弁 の一種、あるいは広義の 人格攻撃 のひとつでもあり、相手の発言を封じようとする抑圧行為を指します。
よくある例では 「感情的すぎる、もっと冷静に話せ」「そんな話し方では聞く気になれない」「口が悪すぎてドン引きだ」 などがあります。 また 「それじゃ誰も相手にしてくれないし賛同者も増えない」「ヒステリックに感じられてむしろ逆効果になりかねない」 といった、親切心や相手の事をおもんぱかったように見せかける、おためごかしな言い方による反論や抑圧もあります。
また反対論者側が勝手に独自の常識やルールを一方的に持ち出し、それに反しているといった詭弁を指すこともあります。 例えば 「反論するなら1分以内でしろっていったよね」「話が長すぎて聞いていて疲れる」「イエスかノーの二択で答えろって言いましたけど?」 みたいなパターンです。
言葉自体は昔からありますが、ネット、とくに ツイッター といった SNS で、主にジェンダー問題やフェミニズム関連の話題でよく使われてきたことから、2010年頃からはある種のフェミニスト用語のような扱いがされることもあります。
「女性はヒステリックだ」 とのステレオタイプの中で
この言葉がことさらにジェンダーやフェミニズムの文脈で出てきた背景には、一部のジェンダーやフェミニズムの女性論客が、時として理性的ではない過激で攻撃的、感情にまかせた 他責的 なものいいをしがちだった点があります。
もちろん差別や性被害などはあってはなりませんし、その被害に遭い抑圧されている当事者がつい声を荒げてしまうのは止むを得ない部分がありますから、意見や発言の本質部分ではなく枝葉たる言葉遣いにばかり文句を言うのは間違っています。 また感情的なものいいをする人は男女問わず存在しますし、キンキン声で泣き叫ぶようなヒステリー (解離性障害) が女性に多いのだとしても (実際に女性に多いという調査結果はあります)、逆に男性側にだって女性がほとんどしない大声での恫喝や暴力行為をする人がいるでしょう。 単に感情をコントロールできなくなった際の爆発の形が違うだけで、理性的な会話ができないのは女性だけに特有のものではありません。 この場合は 「女は感情的だ」 と言外に云うような反論にもならない反論を 「トンポリだ」 として無効化するのは議論の進め方として正しい姿でしょう。
しかし一方で、これらの話題や当事者に賛同・連帯していると自称する一部の人達が、ジェンダーやフェミニズム、あるいは人権や差別、ポリティカル・コレクトネス (ポリコレ/ 政治的な正しさ) と云った誰も反対できない倫理的正義の旗印を自らの他者批判や別方向の差別を行うための道具として利用し (ポリシーロンダリング)、意見とも言えないような聞くに堪えない誹謗中傷や罵詈雑言を正当化し、反論封じのために 「トンポリだ」(あるいは 「マンスプ (マンスプレイニング/ 男性が無知な女性にものを教えるような偏見を基にした態度や行為) だ」「差別だ」) を濫用する場合もあります。 売り言葉に買い言葉、詭弁に詭弁で返して何が悪いという考え方もあり、状況が見えにくくなっている部分もあるかもしれません。
問題発言・舌禍で、自分の態度だけを謝罪する詭弁も似たようなもの
トンポリとは意味が逆になりますが、比較的 ニュアンス が近い詭弁に、自らの問題発言などに対して発言の内容そのものではなく、「誤解を招いた」「説明不足だった」「言葉が足りなかった」「お騒がせした」 などと、発言の仕方や与えた影響に対してのみ謝罪するといったものがあります。 炎上 などが生じて本人が釈明や謝罪に追い込まれた際に、「発言内容は問題ないが言葉や態度がちょっと悪かっただけだ」 と問題を矮小化し、その態度の部分だけ謝ると云ったやり方です。
この種のごまかし・詭弁めいた謝罪は、日ごろ舌鋒鋭く他者批判などを繰り返し、自らは決して謝罪などしない人が最後の最後に行いがちなため、いわゆる 謝ったら死ぬ病 の罹患者特有の振る舞いとされることもあります。