似た文字に変えたり誤変換したり… 「香具師」
「香具師」(やし) とは、「奴」 という意味の ネットスラング の一種です。 元々は 「奴」 だったものを、カタカナで 「ヤツ」 に。 この 「ヤツ」 と似た文字となる 「ヤシ」 に変化して、ヤシで変換候補となる 「香具師」 が、当て字として使われるようになりました。
ネット の 掲示板 を中心としたコミュニティでは、キーボードの打ち間違いや打ち変え (みかか式 など)、あるいは近似文字との差し替えや子音の変化、母音の省略とか、誤読、誤変換 や 「略語」、伏せ字 や ローマ字略語 など様々な用語、隠語 (ジャーゴン) が作られています。 この 「香具師」 もその典型的パターンのひとつとなります。
同じ意味の変換言葉に 「椰子」 や 「野師」 などもありますが、読みで2文字なのに漢字で書くと3文字になる 「香具師」 は面白みがあり、またあまり一般的な言葉でもなかったことから、2000年前後に アングラ系 の匿名掲示板 「あやしいわーるど」 で使われるようになり、そのまま 「あめぞう」、そして 2ちゃんねる へと伝播、広くネット上で使われるようになりました。
一般的には 逝ってよし や 氏ね、漏れ などとともに、初期の典型的な 2ちゃんねる用語 の代表格となっていて、2000年代中ごろともなると使われる頻度は激減したものの、ネットスラング関連の話をしていると一度や二度はかならず触れられる、特徴的な言葉ともなっています。
「香具師」 本来の読み方は 「こうぐし」
「香具師」 の本来の読み方は 「こうぐし」 で、意味は 「香具」(香炉などの仏具や薬、茶器や縁起物) を扱う人、商売人や業者の意味となります。
「人」 や 「屋」 ではなく 「師」 が使われているのは、その昔、そうした物品を 「行商」 の形で店舗を持たず座にも入らず勝手気ままに各地を放浪して売り歩くスタイルが広く行われ、「店舗を持たず行商や道端で簡易露店を開いて商売する人」 の意味で使われる 「野師」(やし/ 現在の的屋 (テキヤ) と混同して使われるようになったからのようです。 つまり 「香具」 と 「野師」 が一体化して 「香具師」 となったわけですね。
なお 「野師」 の語源としては、薬の行商をはじめて行った人物、「弥四郎」 の名前から来たとの説、野武士が食い詰めて行商するようになって 「野武士」 → 「野師」 となった説などもあるようですが、言葉が生まれたフィールドはだいたい同じような場所からのようです。 ちなみに薬の行商と云うと、1600年代に始まった富山の薬売りが有名ですが、実際の薬行商、薬種商の始まりはもっと古く、室町時代 (1338年〜1573年) 程度にまではさかのぼるとされます。