人間に近いロボットと、ロボットみたいな人間…「不気味の谷現象」
「不気味の谷現象」 とは、元々はロボット工学における考え方の 概念 を言語化したもので、人間型ロボットの容姿やしぐさが段々と人間に似てくると親近感を覚えるのが、ある段階、一定の レベル を超えると親近感よりもむしろ嫌悪感が増し不気味に感じるようになる、しかしその後区別がつかないほどに人間に似ると、再び親近感がまた上昇するといった内容を指す言葉となります。
将来ロボットが限りなく人間に近づいた場合、人間と全く異なった形なら 「これはロボットだ」 と思え、また見分けがつかないほどそっくりならロボットなのかそうでないのか区別がつきませんが、その境界線、「人間っぽいけどどう見てもロボットだ」「ロボットだけど妙に人間っぽい」 という違和感が、奇妙で不気味に感じられる、時には恐怖すら抱かせる…というような意味になります。
森政弘教授により提唱された 「不気味の谷」
言葉と考え方は、ロボット工学者の第一人者、森政弘氏 (1927年2月12日〜) が、東京工業大学の工学部制御工学科教授時代の1970年に提唱した 「不気味の谷」 という概念により生まれました。 見た目が完全にロボット状態を好意的な感情的反応の最低値、見た目が完全に人間と同じ状態を感情的反応の最高値だとすると、人間への類似度が高くなるほど感情的反応は右肩上がりに上昇しますが、ある境界でいったん感情的反応が上記のような理屈で下がるので、その下がったポイントが 「谷」 になるという訳です。
人間に似せて作ったロボット 「ヒューマノイド」 は、全体としてそれと分かるくらい人間とかけ離れた形をしている時は、例えば目のようなレンズが顔に当たる部分に2つついている、その下に口のような音声発生装置がついているなどの特徴を、自分たち人間と同じ特徴を有するものとして好意的に捉え、親近感を持つものです。
しかし容姿や動作が人間にあまりにも酷似してくると、今度は逆にほんのわずかな目や口の動きの違い、それらのパーツの配置バランスの違いなどが 「違和感」 として目立つようになります。 ホンモノの人間でも、目の動きや表情の動き、顔色や質感に違和感があると 病気 や障害、あるいは死体などを連想して奇妙な違和感を覚えるのに、ましてそれがロボットでは、「なまじ人間の形をしていることにより、むしろ些細な違いが際立ち、強烈な嫌悪感を喚起する」 といった状況になりかねません。
実感を得やすい仮説ではあるものの、批判的な意見もある 「不気味の谷」
こうしたものは、博覧会や産業ショーなどに見世物として登場する人間そっくりなロボットを見た時とか、妙にリアルなデパートのマネキン人形を見た時などに、「気持ち悪い」 なんて印象や感情を持つ人も多く、素人にも分かりやすく実感として共感しやすい主張といえます。
しかしこの主張には反論もあり、「どんなに人間に似せても所詮はロボットなのであって、一度下がった親近感は二度と上昇しない」(谷ではなく、崖である) という主張や、「まだそのようなヒューマノイドが世の中に登場していない、あるいは登場し始めたばかりで感情的に慣れていないから拒否反応が起こるだけで、見慣れたら不気味さはなくなる」 との考え方もあります。 例えばいかにも機械の自動車だって、世の中に出たばかりの頃は馬車と比較して不気味だ、気持ち悪いと思われていましたが、今は親近感を持つ人が多いではないか、ロボットも同じだとの考え方ですね。
また 「不気味の谷現象」 の仮説の立て方に大規模な調査や統計手法がとられていなかったこともあり、「単なる思いつきの仮説段階であって、「ゲーム脳」 と同じ類の話だ」 との批判もあります。
コンピュータによる3Dキャラのリアルさの追求の結果…
「人間そっくりのロボット」 は、21世紀になった今もまだ実現はしていませんが、コンピュータグラフィックスによる3Dの キャラクター (バーチャル (仮想) な存在、例えば バーチャルアイドル など) では、ホンモノそっくりなものも、映画や ゲーム の登場人物として結構登場しています。 これらも、ほんのわずかな感情表現のぎこちなさ、筋肉のシミュレート不足やミスによる目や口、鼻や手足の動きの違和感から、「気持ち悪い」 なんて状況になっていますね。
「不気味の谷現象」 という言葉が、ロボット工学の専門用語というよりも、むしろ実写の再現のようなリアルな3Dコンピュータグラフィックスの映画やゲームの動画などで使われだしたのも、目にする機会が多く、実感として 「不気味だ」 と思うケースが多いからなのでしょう。 ロボット工学も日進月歩ですし、いかにもロボット風のロボットから進化した時、いずれ 「不気味の谷」 が深刻な問題として解決すべき課題となるかも知れません。
転じて、写真の人間離れしたありえない修正にも 「不気味の谷」
なおこれらの意味が転じて、実写の写真のありえない修整、俗に フォトショップマジック などと呼ばれる、女性の顔などの過剰にやりすぎたレタッチ (目を大きくする、鼻を高くする、口を小さくしたり、アゴをシャープにしたり…) を、「不気味の谷にはまってる」 などと表現する場合もあります。
元の面影が消えうせるほどの過剰な美容整形を 「サイボーグ化」 なんて揶揄することがありますが、写真の過剰な修整、人類じゃないだろってくらいの骨格無視の切り貼りも、ある種ロボット化のようなものなのかも知れません。 とりわけアダルトビデオや DVD のパッケージ、風俗店の看板や チラシ、アダルトライブチャットのパフォーマーの写真なんかは、もう写真というよりほとんど 絵 に近いですねw