自分が生まれるずっと前…モノクロ…まさに 「戦前」
「戦前」 とは、日本語の本来の意味で云えば戦争の前、とくに日本においては第二次世界大戦 (WW2/ 太平洋戦争/ 大東亜戦争/ 15年戦争/ 先の戦争) の前のことです。 先の大戦をどう定義するかにもよりますが (後述します)、おおむね 1941年 (昭和16年) 12月7日の旧日本軍によるアメリカ真珠湾への攻撃と宣戦布告以前の時代を指します。
一方、ある種の若者言葉や 同人用語・おたく用語 における ネタ 的な使われ方もあります。 その場合はおおむね 「近現代における自分たちが生まれる前のとてつもなく古い時代の話」「ギリギリその世代の人間が生きているが、戦争と云う極限事態を挟んで現在とは分断されたような大昔」「写真や映像が モノクロ の時代」 との認識がされる言葉でしょう。 すでに歴史ではあるけれど、その当時を知る者やその当時の様々な事件や物語の当事者が存命していてギリギリ完全な歴史になる以前というか、そのあたりの時代ということになります。
とりわけ映像作品や コンテンツ においては、「画面がモノクロ」(非カラー) というのはとても大きなポイントで、例えばモノクロ時代の アニメ や特撮番組、初期の携帯ゲーム機や携帯電話の液晶画面がモノクロなのを指して、シャレで 「戦前」 と呼ぶような使われ方もあります。 似た言葉に 昭和風とか昭和テイスト もあります。
実際はほとんどのモノクロアニメや特撮は、あるいは当然ながら携帯ゲームや携帯電話は、戦後もかなり過ぎてからのものです (逆に戦前にカラー映画などもあったり)。 また戦前にしろ昭和にしろ数十年単位の言葉であり、とくに昭和と平成あたりは文化的なあれこれがかなりシームレスに移行していた部分もあり、この言葉を2000年代前後以降にネタとして使う人がいつ頃生まれたのか、古い文化にどのくらい親しんでいるかによって相当な温度差があります。
なおカラー写真やカラー映画、カラーテレビなどが一般にも広く普及したのは日本においてはおおむね1960年代後半から1970年代にかけてであり、戦後20年ほども経た時代となります。 1960年代あたりに生まれたいわゆるおたく第一世代にとっては子供の頃の自分や家族の写真や楽しんだコンテンツにモノクロは少なくなく、「古い時代のもの」「親や祖父母の世代のもの」 との印象はありつつも、「モノクロ = 戦前」 といった大雑把すぎる印象は皆無でしょう。
一方で1980年代から1990年代にかけてともなると、マンガ といった雑誌・書籍類や新聞といった印刷物を除けば、日常からメジャーなモノクロの娯楽作品や視覚情報はほぼ消えます。 例外中の例外は初期のアーケード用ビデオゲーム (ブロック崩しとかインベーダーゲームとか (主に1970年代後半) やゲーム&ウォッチ (1980年) といった簡便な携帯型ゲーム機、各種カラーの家庭用ゲーム機を踏まえた上で登場した任天堂の 「ゲームボーイ」(GAME BOY/ 1989年) あたりでしょうか。
この時代、パソコンやポケベル、携帯電話も一部でモノクロのものが中心となっていましたが、これらは順次カラー化され、この時代以降に物心がついた世代は好んでモノクロ映画などを見る人でなければ、目にするモノクロ画像や映像は戦前戦中の記録が相対的に増えているでしょう。 これが 「モノクロ = 戦前戦中」 といった 雑 な印象が強まる結果になったのかも知れません。
で、実際の戦前って、いつ頃の、どのくらいの時代?
先の戦争や隣接する様々な戦争・紛争については、それぞれの定義や評価、あるいはそれに伴う開戦日も様々で、文脈によっても変わってきたりします。 第二次世界大戦で云えば真珠湾は1941年ですが、1939年9月1日にはドイツを中心に同盟国 (枢軸国) がポーランドに侵攻し、その後ソ連も参戦、さらにイギリス・フランスがドイツに宣戦布告したことで始まりましたし、日本においては中華民国との紛争 (満州事変) から戦争に至った 「日中戦争」(1937年) や 「15年戦争」、それに加えて米英を中心とする連合国との争いともなった 「太平洋戦争」 といった 概念 もあり、それぞれで呼び名も参戦国も戦域も開戦日もバラバラです。
また開戦日以前とは云え、あまりにさかのぼって明治時代や江戸時代にまで至ると、それぞれは明治や江戸時代と呼ばれ、あまり 「戦前」 というくくり方で語られることは少ないでしょう。 一概には云えませんが、日清戦争 (1894年7月25日〜1895年4月17日) を経て日露戦争 (1904年2月8日〜1905年9月5日) を終え、1941年の真珠湾へと続く間、最大限長くてせいぜい明治末期から大正、真珠湾までの30年間前後、一般的に支持される定義では五・一五事件 (1932年) から真珠湾までの約10年弱の間、軍部が力を持ち太平洋戦争へと突き進む時代のみが戦前と呼ばれると云えるかもしれません。
なお日清・日露戦争においても戦前戦中戦後がありますが、この場合は混乱を避けるためにそれぞれ 「日清戦争前」 とか 「日露戦争前」 と戦争名をつけて呼ぶことが多く、単に 「戦前」 と呼ぶことはほぼないでしょう。