クルマや店舗を萌えキャラで包み込む… 「ラッピング」
「ラッピング」 とは、何かを包み込むこと、例えば包装紙で商品などを包むことを一般に指します。 一方、おたく の世界においては、マンガ や アニメ、ゲーム の キャラクター が描かれたフィルムやシート類を、航空機や電車、クルマ、船舶など各種車両のボディや建物の外観に、まるごと覆う形で貼り付けた状態のことをこう呼びます。
「ガールズ&パンツァー」 ラッピングバス (茨城交通) |
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない。」 ラッピング車両 (千葉モノレール) |
「ラブライブ!サンシャイン!!」(スクフェス) ラッピングトラック (アドトラック) |
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない。」 ラッピング車両 (au 移動基地局車) |
「ラブライブ!サンシャイン!!」 ラッピング船 (あわしまマリンパーク) |
「ガールズ&パンツァー」 ラッピング店舗 (サークルK・サンクス コンビニ) |
「とある科学の超電磁砲」 ラッピング自販機 |
「艦隊これくしょん」 ラッピング店舗 (ローソン) |
「ラブライブ!サンシャイン!!」 ラッピングレンタカー (日産レンタカー) |
通常は広告の掲示媒体として賃貸される公共交通機関の車体が多いのですが、アドトラックと呼ばれる荷台に大型広告を載せたトラックの専用掲示部分なども、しばしばラッピングの対象としてよく見られます。
また同じような手法で制作された 痛車 (いたしゃ) と呼ばれる個人所有のクルマやバイク、自転車などにも、この言葉がしばしば使われます。
これらはいずれも広く注目されることを目的に行われ、それぞれラッピング車両とかラッピングカー、あるいはラッピングバス、ラッピングトレイン、ラッピング店舗などと個別に呼ばれる場合もあります。
店舗を包む、一色に染める
なお本来の 「ラッピング = フィルムやシートで包み込む」 という言葉のイメージから離れ、コンビニやファミレスといった店舗などに多数のノボリ (幟/ 金太郎旗) やキャラクターの大型POPなどをズラリと並べて掲示したり、鉄道駅の構内の柱や壁に広告類を集中大量に貼り付ける場合も、広義でラッピングと呼ぶ場合があります。広告を印刷したフィルムやシートで包むだけでなく、「埋め尽くすように表示すること」 それ自体がラッピングと呼ばれているんですね。
こうした大規模な広告手法や プロモーション は日本では1960年代から存在し、海外でも 戦前 から様々なラッピング的広告が登場していました。 しかしそれまでは 「全面広告」 の他には 「ジャック」 と呼ぶケースが一般的であり、後にはラッピングとの言葉や 概念 の混濁もあるようです。
大ざっぱに言えば、対象物全体を覆うような表示をするのがラッピング、それを含めた複合的で集中大規模な掲示がジャックといった区別はあるようですが、誤用や類似の概念である広義の 「看板車」 の存在を含め、用語としての使い分けに厳密なルールがあるわけではありません。
萌えキャラの描かれた 「ラッピングバス」
ラッピング広告や個人が自家用車の車体に大きく イラスト などを描くことは、おたくの世界以前から数多くの事例がありました。ただし大型のフィルムやシート類に比較的安価で大規模な印刷、あるいはカラー印刷が可能になったのは比較的最近で、ラッピングという言葉は使われていませんでした。 それまでは塗装で直描きしていたり、単色の 色 フィルムを切り貼りしたカッティングシートの活用がその主なものだったこともあり、包み込む形ではなかったのですね。
おたくの世界や世間一般でことさらにラッピングという名称が頻繁に使われるようになったのは、2000年前後に数多くのバス車両などが車体に全面広告を行う、いわゆるラッピングバスが登場し、メディアがこの言葉を頻繁に使用するようになってからでしょう。
元々バスの車体には広告用のスペースが取ってあるものでしたが、2000年4月から始まった東京都の都営バスの車体広告は、車体全体を包むように大きなものだったこと、初期の頃から おたく となじみのあるマンガやアニメ、ゲームのものが多く ネット などで注目を集めたことで、ラッピングという言葉を広く定着させる理由ともなりました。
なおバスをはじめとした公共交通機関でこうした大規模な広告が行われるようになったのは、人が集まる起点となる場所にあるというプロモーションに有利な点もさることながら、乗車料金などの増加があまり見込めず、経営的に広告収入が重要な利益の柱となっている点が大きいからです。
また同時に、アニメやゲームの広告が初期の頃から多かったのは、鉄道やバスといった乗り物関係は、おたくな人が好むものでもあり、また地域をピンポイントで狙える広告でもあるので、広告主が集まりやすいという傾向もありました。
こうした コラボ は2010年代以降から急増していますが、広告を掲載する側、出稿する側、見る側ともに、萌え な観点で相乗効果が表れたといった感じなのでしょう。
単なる広告から、コラボ企画や町おこし (萌え起こし) として
こうしたラッピングによる広告やプロモーションは、表示されている作品タイトルやキャラクターの 供給 側がそれらを 告知 するために、広告主として出稿したものがその大半でした。 しかしその後、おたく文化の盛り上がりと共に、通常の広告とは異なる、交通機関や各種店舗とのコラボレーションの形で質量ともに大きく発展することに。こうした分野で交通機関による タイアップ やコラボが初期段階から極めてスムーズに始まったのは、夏休みなどに各鉄道会社が旅客獲得のために行うコンテンツとの協賛企画、例えば 「ドラえもん列車」 のようなものが昔からあり、取り扱う部署やノウハウをすでに持っていたからでしょう。 また複合的な取り組みも、複数の駅や拠点を周ってもらうスタンプラリーなどをかねてから実施して人気を集めていました。
その後は交通機関だけでなく店舗や自治体主導による観光施設なども巻き込んで行われるようになり、単に広告として訴求するだけでなく、それ自体が見て楽しめる観光の対象となったり、作品の ファン らがその場に参加して楽しむ イベント の出し物のような形になっています。 期間的にも一般の広告と違い、数か月から数年に及ぶようなものもあります。
とくに物語の 聖地・舞台 における 萌えおこし では、こうした車両や建物は、目玉扱いともなる 定番 企画の一つでしょう。 これらは、NHK 大河ドラマとのタイアップ企画などが昔から有名ですが、それがマンガやアニメやゲームにも、支持する層の増加と共に、波及した形なのでしょう。