ハリウッド映画の日本でのキャッチコピー 「全米が泣いた」
全米が泣いた (寐津菟かき子) |
「全米が泣いた」 とは、心から感動して思わず目頭が熱くなる、泣ける…なんて意味の言葉です。
ネット の 掲示板 などで使われる場合には、相手の 書き込み に同情したり、「気持ちはわかるよ」 なんて慰めの意味、「思わずもらい泣きした」 なんて意味で使われるケースが多くなっています。
ところでなぜ 「全米」 なのか…と云えば、アメリカはハリウッドで作られた映画を日本で公開する際に、日本の映画配給会社や広告代理店が、テレビコマーシャルや映画館の予告編、ポスター などに同じ言い回しのキャッチコピー 「全米が泣いた」(ほどの感動巨編) という煽り文句をよく使っていたからです。
似たようなものに 「全米が震えた」「全米が喝采した」「震撼した」「絶賛した」「笑った」「怒った」 なんてのもあります。 なお当然ですが、ここでいう 「全米」 とは、「アメリカの観客、オーディエンス(audience)」 となります。 つまり 「この作品はアメリカ中の観客から支持された」「感動的な名作であるのは保証済みですよ!」、みたいな意味になります。
数値で素晴らしさを保証できないから、ムードで…
実はこういった言い回し以外に、もっと古い言い方として、「全米で大ヒット」「全米で興行成績歴代一位」「観客動員数歴代一位」「全米で人気 No.1」 なんて言い方もありましたし、それは映画だけでなく、書籍やアメリカのホームドラマの地上波放送の時、さらには輸入品の通信販売の口上などにもしばしば使われていました。
「興行成績一位」 みたいな数値で大ヒットをあらわすのが、恐らくキャッチとしてはもっとも効果があり、またインパクトもあります。 しかしそこまでの大ヒットはしていないけれど、内容には自信がある…っていうか、仕事として宣伝しなきゃならん、などという場合に、客観的データではなく、「泣いた」「笑った」 なんてイメージの比喩で宣伝するようになったんでしょうね。
もっとも 「興行成績一位」 も、かつては 「歴代」 なんて分かり易いものだったのが、最近は 「封切後1ヶ月間の興行成績1位」 とか 「封切後一週間の観客動員数1位」 とか、あるいは 「100万ドル興行成績最短記録」 とか、条件を自分に都合よくして 「とにかくアメリカでは間違いなくヒットしてるんです! 信じて! ><」 なんて感じになってるんで、あまり信憑性もない感じですがw
「俺の中の全米が大声で歓声を挙げている…」 などと表現も
その後この言葉は 「とても感動した」「感動的な話でした」 なんてのを人に伝える時にも使われるようになり、さらに慣用句として定着すると、「俺の中の全米が泣いた」「俺の中の全米が、これは違うと叫んでる」 などというように、「全米」=「観客」=「俺の心」 のような言い回しの変移もされています。 しまいには 「全俺が泣いた」 や 「全米がアメリカ」 などと、元ネタ を知らないとさっぱり意味不明な言い回しも。
本当に全米は泣いているのか |
ひとつの言葉が流行り言葉となって、そこに含まれる個々の単語が意味を失い全体でひとつの意味となり、さらにそれを元に改変されると云う、流行語、とりわけ若者言葉、ネットスラング特有の言い回しとなっていますね。
なお発祥の場ははっきりしていませんが、「全米が泣いた」 というキャッチフレーズは、1980年代〜90年代初めから見られましたし、その大仰な言い回しはおかしみもあって、パソコン通信 の時代には散発的に登場していました。 しかし慣用句として定着して改変されるなどしたのは、インターネット の時代、とりわけ 2ちゃんねる の時代になってからでしょうか。 「VIP板」 などでは、「好きな女の子に告白したら即座に断られた」「街を歩いていたら、通りすがりの女子高生が鼻をつまんだ」「すれ違いざまに小さい声で キモッ っていわれた」 なんて書き込みに、
なおこういった、広告やテレビ番組のテロップなどに 「ありがち」 なフレーズを転用した流行り言葉にはいろいろなものがありますが、「○○はスタッフが美味しくいただきました」(食べ物を粗末にするような番組で、苦情を避けるためにその場で入れる 「食べた」 というアピール) なんてのもあります。