同人用語の基礎知識

ファンのジレンマ

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好きなのに、好きなままにしてくれない… 「ファンのジレンマ」

 「ファンのジレンマ」 とは、何かの熱心な ファン (特定の コンテンツ やタレントなどが好きな人) が、好きな対象物の 「周辺」 に違和感や不快感を覚え、その結果、しばしば持たざるを得ない深刻なジレンマ (相反することの板挟みに陥って苦しむ) のことです。

 もっともわかりやすい例でいえば、「この作品は大好きだが 作者クソ」「この ネトゲ の熱心な プレイヤー だが 運営 はクソ」「タレントの大ファンだが所属事務所はクソ」「チームを応援してるが監督やオーナーはクソ」「商品は好きだがメーカー企業や開発者はクソ」 といったケースで生じる 「ファン心理の葛藤」 でしょうか。

 作者や運営、事務所や監督、企業などが善良で好ましく信頼できる、あるいはせめて人畜無害・無色透明で気にならない存在ならば、何ら問題なく好きな作品や ゲーム、タレント、チーム、商品を心から応援し、購入し、楽しむことができるでしょう。

 しかしそうでない場合には、どうしても作者や運営といった周辺の顔や影がちらついてしまい好きなものに没頭できなくなる、自分が作品やゲームといった成果物に払ったお金や敬意、評価が、結果的に嫌いな作者や運営などの懐を潤し、意に反して彼らの実績や評価を高めることに貢献し、支持してしまう状況への苛立ちにつながります。 どんな作者や企業でも、長所もあれば短所もあるわけで、要はそれらのバランスやファンの対象物に対する愛情次第と云えますが、それが好ましくない方向へと偏ったとき、ジレンマが無視できない大きさで迫ってきてしまいます。

作者の人間性と作品の価値は別、とは云うものの…

 当たり前の話ですが、クリエイターだって一つの人格を持った人間であり、別にコンテンツの 製造機 でもなければ、自分に都合の良い 萌え を無限生成してくれるだけのシステムでもありません。 幻滅するのは勝手だとして、それを分かった上でもやっぱり限度を超えた場合にはイライラが募り、かといって好きだからどうしても対象物のファンをやめられない状況にも陥りがちで、こうした強いジレンマは、多くの人が一度や二度は何となく経験したことがあるものでしょう。

 例えば作品と作者の関係で云えば、「作家の人間性や思想と、彼が生み出した作品そのものの価値は別だ」 という考え方もあれば、「いやいや、作家の人間性や思想がどのような形であれ結実したのが作品なのだから、両者の評価が別になることはありえない」 という考え方もあります。 それぞれが完全に別物なら、著作権 の中にある著作人格権の存在意義だっていくらか怪しくなってしまいます。

 こうした考え方は、人格が破綻し常識がない悪人でも優れた作品を生み出した例が歴史上いくらでもあること、作者本人の思想とは正反対のメッセージを持つ優れた作品も過去にたくさんあること、逆に人格も経歴も立派な非の打ち所のない作者がつまらない作品、魅力のない駄作、時には醜悪な作品を創るケースがあることから、「作者と作品の評価は別にすべき」 との意見にまとまりがちです。 そもそも非凡で斬新、個性的な作品を生み出すような人は、それまでの 「常識的な考え方」 からは外れた思考や性格を持っているケースも多いでしょうし、後世における作者の名前や功績といった記憶は、研究者でもない限り結局のところ作りだした作品によって語り継がれるものでしょう。

 また有名な作家や漫画家、タレントらが不祥事や警察沙汰となる罪を犯したからといって、それが作品そのものの価値と密接な関係があるもの (盗作とか捏造とか) でなければ、その作品までを全て一律に同罪にするのは無理があるでしょう。

 とはいえ、作品なりタレントなりとは直接関係がないであろう付帯するストーリー、例えば 「作者が幼いころ経験した苦労が作品のベースとなった」 とか 「売れるまで必死に頑張った」「ファンやお客様のために考え抜いた」 などが、作品やタレント、商品の付加価値としてプラスに扱われるケースが少なくない点を考えれば、それとは逆のマイナスパターンの時に負の作用をもたらすのは当然ともいえ、そう簡単に割り切れるものでもないでしょう。 また犯罪行為を肯定・礼賛するような作品を発表していた作家が、作品と同じような罪を犯した場合に、「作品と作者は別」 という意見に説得力があるかどうか。

 さらにタレントと所属事務所の関係で云えば、所属事務所が非道でファンはもちろんタレントをないがしろにする管理を行っていた場合、応援したりお金を払うことでその管理方針を肯定し、タレント本人をむしろ苦しめる結果になっているのかも知れないという不安もあります。

ファン同士の考え方、立場の違いから、争いになることも…

 もちろんファンが一枚岩ではなく、それぞれ異なった意見を持っている場合がありますから、あるファンが非だと思う対応が、別のファンにとっては是だと思われているケースもありますし、信者) のように、対象物に関わるものは何でも全面的に肯定する人だっています。 ファンが集う ネット掲示板 やコミュニティでは、そうした人たちが考え方や立場の違いから言い争ったり、ファンではない アンチ がファンを装って 煽っ たり 荒らし たりもして、混沌とした状況に陥るケースもあります。

 ファンとして対象物を 「好きになる」 というのは、理屈ではなく感情の問題だったりします。 また ファン歴 が長いと人生の大切な一部になっていたりもするので、気持ちの上で割り切れないこうしたケースは、難しく切実な問題だとも云えるでしょう。 是々非々で関わる、それが無理なら見ないふりをするのが精神衛生上も良いのでしょう。

 なお自分自身はファンのジレンマを克服し、「作品と作者は別」 と割り切ることができたのに、それができない自分以外のファンがネットなどで罵詈雑言をまき散らし大暴れして見ていて辛い、という立場もあります。 ツイッター などの SNS では同じ作品が好きなファン同士がつながっていますから、そうした情報を遮断するのも難しく、視界に入ってはどんよりすることもあります。 一言で云えば 「ジャンル雰囲気 が悪くなった状況」 なのですが、最終的にこの状況になって、なんとか踏みとどまっていたファンもジャンルから離れてしまうケースが多いかもしれません。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2005年10月6日)
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