隠れて他人の書き込みを読むだけでなく自らも発信 「浮上」
「浮上」 とは浮き上がること、水に沈んでいたものが水面から顔を出したり地面にいたものが空に舞うなどを指す言葉です。 転じて、目立たなかった人が頭角を現す、不遇のポジションから這い上がって目立つポジションにつくことを浮上と呼ぶといった使い方もあります。
一方 ネット の世界では、自身の ホームページ の更新や 掲示板 への 書き込み、SNS の 投稿 といった目に見える発信をしばらく行っていなかったものが、それらを再び行うことを指します。 「ROM として沈んでいたけれど浮上して発信する」 みたいな意味になります。
そこから派生する形で、日ごろあまり書き込みや発信をしない、ネットの利用率が低い人を 低浮上 と呼んだり自称したり、盛んに発信していた人がしばらくネットを休むと云った場合を沈降とか沈下、潜水とか潜航とか沈みますと呼んだり、いきなり浮上したと思ったら大量の レス や リプ をするような状況を急浮上と呼んだりします。
潜水艦が浮上したり沈下したり
この言い回しの元々は、他の一般的な日本語の使われ方と同様に、潜水艦の航法を模した言葉の影響からでしょう。 潜水艦が潜望鏡だけを上げて周囲を見渡すように、ROM (他人の発言を読むだけの人) が自らの姿を隠して他人の書き込みを読むだけといった姿と重ね合わせたものです。
一般に広く使われだしたのは パソコン通信 の時代ですが、それ以前にもアマチュア無線 (ハム) の世界でも熱心に電波を出して活動する人をアクティブ、そうでない人 (活動停止中の人とか、電波を出さず他局と交信もせず受信 (ワッチ) だけしている人、SWL) を低浮上とか活動再開を浮上したみたいに呼んでいたような気がしますが定かではありません。 アクティブの対義語は一般にパッシブですが、こちらは ミリタリー 以外の世界ではあまり聞いたことがないです。 とはいえパソ通もハムもミリタリーも、ほとんど同じようなタイプの人間が 趣味 にしがちなものなので、何らかの言葉の連続性はありそうです。
その後 ROM という 概念 は インターネット の時代になってあまり重要視されなくなりますが、浮上や沈降、潜水といった云い回しは残り、広く使われるようになったという経緯です。 ただし SNS、とくに ツイッター などではパソ通時代、あるいはパソ通と SNS の中間を埋めるような匿名掲示板的な文化とも世代的にも文化的にも隔絶した層も使っていますから、これらの言葉に連続性があるのか、単に 普通 の日本語と同じ使われ方なのか、あるいは2000年代以降に何らかの 元ネタ となる別の何かがあるのかは不明です。
なおネット上での活動頻度があまりに少ない人か、ある日を境に突然ネットでの発信が途絶えた人が、久しぶりにまたネットに投降することは 生存証明 と呼びます。 これらもパソ通の時代にはホスト局やコミュニティを問わず、広く使われる言葉や概念となっています。