この程度のことは日常茶飯事なんですよ…みたいな
「○○ではよくあること」 とは、評判の悪い人や企業、地域、国などが起こした不祥事や犯罪などに対し、「あいつらならやりかねん」「あいつらにとっては、このぐらいは日常茶飯事だ」 などと罵倒する時に使う言葉です。 2ちゃんねる などでよく見かけるケースでは、例えば大阪で引ったくり事件などが起こった際に、「大阪ではよくあること」、青少年のよく分からない短絡的な犯罪を 「ゆとり にはよくあること」 などと見下すような感じで使います。
なお 「○○ではよくあること」 という言葉として単体で使われるケースがたいへん多いのですが、その後に 「○○は配慮してくれないと」 と続くケースもあります。 これは 元ネタ である書店万引き犯の事故死とその後の書店の対応の報道 (後述) と密接に絡んでいて、この言葉が生まれた頃にはセットになって使われるケースが大半でしたが、いつしか 「○○ではよくあること」 のみで使われる場合が多くなっています。
ちなみに単独使用の場合は、2006年1月25日に、所属事務所と給料の支払いをめぐる争いが起こり暴力沙汰にまで発展したアフリカ出身のタレント、ボビー・オロゴン氏の事件に際し、事件時に居合わせ争いを仲裁し、マスコミから コメント を求められたジョン・ムウェテ・ムルアカ氏が、「アフリカではよくあること」 とオロゴン氏を庇った際の云い回しが影響 (もしくはこちらの言い回しを直接の語源とする) しているようです。
つまり2006年以降は、「元ネタが2つある」(もしくは混ざった) 言葉ということになります。
○○ではよくあること、その使われパターン
アフリカでは内戦などよくある、(国連は) 配慮してくれないと
厨房には当たり前のこと、(むしろ回りの方が) 配慮するべき
DQNには良くあること、(それどころか) むしろちょっと良いニュース扱い
元ネタは、万引き犯に対する書店の対応を非難した 「おばさん」 の発言から…
「○○ではよくあること」「○○は配慮してくれないと」 の語源は、2003年1月21日に川崎市で起こった古書店での万引き事件の犯人である中学3年生の逃亡による鉄道死亡事故に際し、テレビの街頭インタビューに答えた中年女性のコメント、「子供相手の商売をしてるなら万引きなんてよくある。(書店は)配慮してくれないと」 に由来します。
「○○でよくあること」 のような云い回しは、「あるあるネタ」 のような形で ネット などが出てくる以前からありますし、「○○でありがちなこと」 という云い回しもあります。 しかし ネガティブ な出来事をレッテルのようにあげつらう使い方としては、この出来事が直接の元ネタと云って差し支えないでしょう。 また 「○○で」 と、「○○では」 とで、意味や使い方を区別する場合もあります (「○○で」 は、ありがちな出来事を並べて云う時にもっぱら使います)。
「川崎市万引き少年踏切死事件」 の後日談のニュース報道で 「配慮ババァ」 登場
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報道直後に作られた、「配慮ババァ」 のアスキーアート |
後に 「川崎市万引き少年踏切死事件」 と呼ばれるこの事件は、15歳の男子中学生が古書店で マンガ の本を6冊万引きし、それを店長が発見したことから始まります。
身柄を確保して諭していたものの、名前も何も喋らないために、やむなく110番。 店長が呼んだパトカーで到着した警察官に引き渡そうとしたところ、「乗ってきた自転車に鍵をかける」 などと嘘をついて逃げようとし、身柄を引き取りに来た警察官の手を払いのけ、制止を振り切って逃亡。
その際、追っ手を振り切るために店のそばの警報機が鳴り遮断機が下りている踏切内に遮断機をくぐって飛び込み、そこへちょうどやってきた京浜急行・青砥発三崎口行き快速特急にはねられて亡くなったというものでした。
その後この古書店には 「人殺し」 などという誹謗中傷の電話や手紙、来訪して直接云われたものなどがたくさん来て、責任を感じた店長が古書店の廃業を検討、そのむね張り紙 (閉店を告げる 告知 文は悲痛ながら理路整然としたもので、こうした理不尽な中傷に対する強い意思表示なのかな…って感じもしますが) をしたとの同月 31日のニュース報道に対し、該当インタビューのおばさんが登場することになったのでした。
書店は悪くないのに、なぜ 「配慮」 しなくてはならないのか
夕方のテレビニュースでこのコメントが流れると、掲示板 「2ちゃんねる」 で 「店長は悪くない」「なぜ被害にあった店側が配慮したり店を閉めなくてはならないのか」 などと批判が殺到。 この中年女性はその直後に 「配慮ババァ」 とネーミングされ、テレビ画面をキャプチャーした 画像 や、それを元に作られた AA が広まり、「盗人猛々しい」「こういうおばさんがいるから、子供が悪くなりのさばる」 などと叩かれることになりました。
筆者 もこのニュースは見ていましたが、書店閉鎖の元になった事故の時点で一番とばっちりを受けて かわいそう なのは電車の運転手と書店、その次が若くして亡くなってしまった少年 (親の教育の犠牲者) で、犯人である少年を取り逃がしてしまった警察と、そんな少年を育てた両親にもっぱらの責任があると思いましたが (ただし少年は 15歳なので、刑事責任能力を問える年齢、14歳以下の場合は問えない)、マスコミ、もしくはマスコミの目から見た世間はそうではなかったようです。 全てのマスコミ報道が少年に同情的、書店側に批判的だったわけではありませんが、書店側対応を非難する 「市民の声」 をことさらに取り上げていた報道については、「少年側に立った報道」 だったと云われても仕方がないでしょう。
あるテレビのコメンテーターは 「万引きは罪だが、死を持って償うべき重罪ではなかった」 などとまるで見当違いの意見を出す始末で (別に書店や警察が飛び込ませたわけじゃなく、少年が罪からの逃亡を図って自爆したわけですが)、「配慮ババァ」 さんもアレですが、マスコミの姿勢もかなりアレな感じがします。
ちなみに筆者がこのニュースで一番絶句したのは、報道で流れた少年の両親のコメントでした。 いわく、「書店の前を通るたびに辛い思いをしていた、閉店してくれたら嬉しい」。 被害者やご遺族を鞭打つつもりはありませんが、正直、この親にしてこの子あり、と云ってしまったら、云いすぎでしょうか。
親ですから子供の事を第一に考えるのは当たり前の話ですが、一昔前なら、少なくとも対外的には、「うちの息子が迷惑をかけて申し訳ない」 くらいの体裁は取っていたものです。 これら一連の報道を受けて、古書店側には激励の手紙や電話が殺到、古書店は廃業を思いとどまりいったんは店の継続を図ったようですが、その後やはり閉店してしまったとの情報もあります。
経営難で減り続ける書店、その小さくない理由に万引きが…
なお書店や古書店にとって 「万引き」 は死活問題で、全国で書店が廃業する理由の小さくないものに、「万引きによって利益が失われ立ち行かなくなった」 というのがあります。 本を一冊万引きされると、その損失を埋めるためには同価格帯の本を 20冊から40冊以上は売らないといけないとも云われています。 日に何冊も万引きされてしまうと、元々経営の苦しい小さい書店や、ご隠居したようなお年寄りが地域サービスを兼ね道楽のように営んでいた書店などは、もう商売が成り立ちません。
また万引きの規模も、「自分の欲しい本を盗む」「スリルを味わうために、あるいは 根性 試しに盗む」 だけではなく、「ブックオフなどの古書店に売って小遣いを稼ぐために数人で手分けしてごっそり盗む」 に変わってきています。 動機や盗む量はどうあれ盗むこと自体は同じですが、非行少年少女らに目をつけられた書店では、日に数十冊もの大量の本、それも売れ筋の本や高く売れる高額本、新刊本ばかりが狙われ盗まれるという悲惨な状況となっています。
親の子供のしつけの方こそに 「配慮」 して欲しいのは、何も書店ばかりではないでしょう。