出版社が運営母体の大手商用ホスト局の老舗、アスキーネット/ ASCII net
「アスキーネット」(ASCII net) とは、コンピュータ関連の書籍や雑誌を多数発行している出版社、株式会社アスキー (ASCII CORPORATION) が 1985年5月に開局した パソコン通信 時代の大手通信ホスト局のことです。 当初は無料のサービスを行っていましたが、後に有料化しました。
日本における 「パソ通」 時代の本格的な始まりは 1985年に電々公社が民営化しNTTが発足、大幅な 「通信の自由化」 により電話機の購入や取替え、パソコン通信用モデムの利用が可能になってからですが、アスキーネットはこの規制緩和で真っ先にサービスを開始した、商用パソコン通信ホスト局の文字通り元祖と云えるでしょう。
最盛期には PC-VAN や ニフティサーブ (NiftY-Serve) と共に、パソ通普及と文化発展を担った大手局でした。 他のサービス同様、電子メール (E-メール/ メール)、パソコン用各種ソフトウェアのデータライブラリや、テーマ ごとに分かれて情報や意見交換、会員同士の交流などを図る各種会議室 (電子掲示板 や チャット) などが揃っていました。
「ハイパーノーツ」 システムによる使いやすいボード
とりわけ肝心の掲示板システムには、「ハイパーノーツ」(Hyper Notes) と呼ばれる、他の商業パソコン通信局ではあまり一般的でなかったマルチトピック形式の電子掲示板 (BBS) を採用 (「あめぞう」 や 2ちゃんねる のように、利用者が勝手に話題のトピックを作ることができる)。
またテキストベースのゲーム、ローグライクゲーム (今でいう不思議のダンジョン系の RPG のようなもの) も人気の コンテンツ となっていました。 当時発行していた雑誌 「週刊アスキー」 などとの有形無形の連動企画や当初無料で若者が多数実験運用などに参加していたこともあり、独特の自由な 雰囲気、ノリ のよさを持ったホスト局でした。
後にサービスの拡充、会員数増大や内部構造の肥大化により4つのサービスに分割 (「アスキーネット ACS」「アスキーネット PCS」「アスキーネット DPI」「アスキーネット MSX」)、その後さらに再統一され、1990年代からの 「PC-VAN」「ニフティサーブ」 2強時代にも、独特の存在感を持って人気を得ていました。 閉局は 1997年8月24日です。
練習用掲示板 (junk.test) が人気に
パソ通ホスト局に限らず、どんなコミュニティにも独特のサービスや、本来は別の用途のものなのに利用者が目的外に転用して盛り上がったりの 「裏技」 的な遊び場があるものです (ニフティにおける 壁掲示板 など)。 アスキーネットの場合は、「練習用掲示板」(junk.test) が、まさにそれでした。
一定期間が過ぎると管理者によりデリート (消去) されるこの掲示板では、「書き捨てご免」 とばかりに脱線ネタや一発ギャグ、アスキーネットのシステム上の バグ 話やアスキー創業者 西和彦氏の悪口w、ちょっと危ないアングラチックな話題まで、様々な情報や 書き込み が飛び交っていました。 後の 「○○してみるテスト」 みたいな言い回し (○○とか言ってみるテスト) で、練習やテストのふりをして危ない話をしていたわけですね。
オープンチャットなどもそうですが、読んでいる人なんてごく少数なのに、惜しげも無くとびっきりの ネタ を 投下 してくれる人もいて、時間帯や集まった面子によっては、非常に楽しめる場所ともなっていました。 シグなどのように過去ログがきちんと保存されていた訳ではありませんが、一部の面白いネタはまとめられるケースもあり、そうしたネタを書き込むことで人気者となったり、ちょっとした有名人なども登場していました。 もっとも一般的にはこうした場での書き込みやチャットで出た話はあくまで 「ここだけの話」 であり、いちいち保存したり後で触れたり掘り下げるのは野暮という部分もあり、そのほとんど全てが失われてしまっているでしょうけれど。
アスキーネット ログイン画面再現
login: ******* Last login: Sun Mar 7 12:41:10 on ttyp2
** Welcome! This is ASCII-NETWORK **
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特筆すべき、Bio_100% の誕生
1991年、フリーソフトウェア 作者 として活躍していた alty氏、metys氏、羊男氏らが中心となって、フリーゲームソフトや 開発 環境 に関わる各種ツールなどを開発する団体として、「Bio_100%」 が設立されました。 後にグラフィックや音楽を担当する多士済々なクリエーターが参加し、このアスキーネットを活動拠点として、数多くのソフトウェアを開発しました。 有名なところでは、シューティングゲーム 「SuperDepth」 などがあります。
当時パソコン界を席巻していた NEC のパソコン、PC-9801 用のソフトを中心とした開発で、フリーウェアゲームソフトにおいて大きな影響力と足跡を残したといってよいでしょう。 この集まりは後に会社組織化し (1998年)、現在は 「ニコニコ動画」 を 運営 するドワンゴの株主となるなど (参加者らは、2001年8月25日の、いわゆる2ちゃんねる閉鎖騒ぎの際に、UNIX 板住人として負荷軽減に大きな役割を果たしたこともあります)、ネット やパソコン、ゲーム の世界に大きな影響を与え続けています。