良い子ちゃんぶりたいのか、暗い情念によるものか… 「チクり」
「チクり」（チクる） とは、告げ口や密告、言いつけ、内部告発などの意味で使われる若者言葉のひとつです。 代表的なのは、学校でクラスメイトのいたずらを先生に告げ口する、言いつけるといったケースでしょう。 告げ口ばかりしている人は 「チクり魔」「チクリ屋」 と呼ぶこともあります。
若者言葉としては1970年代後半から1980年代前半には広がっており、類似の言い回しはさらにさかのぼるともされています。 言葉の 元ネタ には諸説あり、密告によって相手を不利な立場に追い込むことを 「チクリと刺す」 と表現したものとか、密告をする口 （クチ） を反対にして 「チク」 にした、あるいはヤクザや暴力団の世界で使われる 「チンコロ」（小型犬である狆 （狆ころ） から生じた小さく非力で臆病な小者、警察への密告者） が変形したものとする説もあります。 一方で、方言由来といった話もあります。
いずれにせよ当時人気のあった不良が登場する学園もののドラマや マンガ、ヤクザ映画や刑事もののドラマのセリフなどから広がったものと考えられつつも、直接の作品名などは特定できていません。
密告によって相手に致命的な打撃を与えることをチクリと刺すと表現する部分については、戦後最大の政治汚職事件とも呼ばれる有名なロッキード事件の際の 「ハチの一刺し」（裁判で検察側証人として重大な内部告発をした人物の記者会見での発言） に由来するとの話もあります。 しかしこれは1981年の出来事でちょっと時系列的に合わないものの、チクリと刺すが先で 「ハチの一刺し」 は単に後から出てきたとする考え方もあるかもしれません。
報告や内部告発なのか、それとも単なる裏切りか
告げ口自体は、「そもそも告げ口されて困るようなことをする方が悪い」 という当たり前の前提があります。 一方で、「先生に影でこそこそ言いつけるくらいならその場で直接本人に注意すればいい」（それができる状況かどうかはともかく） との反論もあります。
いずれにせよ大人や社会と子供たちの間では異なる価値観やルールが存在することもありますし、友達や仲間を裏切って自分だけ良い子に思われようとする行為は、子供たちのルールの中ではとても嫌われるものとなりがちでしょう。 また仲間同士のものであっても、一方の味方をしてもう一方を裏切る行為には違いなく、あまり褒められるものだとは思われない部分もあります。 やっぱり 「陰でこそこそ」 のイメージが嫌われるのでしょう。
もちろん犯罪行為とか重大な裏切り行為などがあった場合、しかるべき大人や警察、不利益を受ける人に事実を告げることは何ら責められることではありません。 企業などの不正に対する内部告発も、社会正義にかなう行為でしょう。 黙っていることで問題が悪化したり、罪をなすりつけられる恐れがあったり、黙っている自分自身に良心の呵責が生じることだってあります。 そもそもチクりを受けがちな人が、不正行為を行う人、不良やつっぱり、ヤンキー、あるは 自己中 な人といった、一般的に社会から疎まれがちな人だったりもして、その評価は様々かも知れません。
子供の頃は正直さや率直さこそが 正義 や美徳だと思って行動する人もかなりいますし、ある種の障害などにより、裏表がなさ過ぎて見たまま感じたままを口にする、暗黙の了解や前提、文脈がわからない、よく理解できない、マイペースすぎて嘘やごまかしができないといった特徴を強く持つ人もいます。 それぞれは個性の部分なのでどちらが良い悪いでもありませんが、本音と建前の使い分けはある程度の年齢になれば誰でも無意識にやってしまうものなので、それができない場合は周囲から浮いてしまったり、いじめ を受けたり人を遠ざけることにもなりがちです。 先生や周囲の大人の歓心をかうための意図的・優等生的なそれならともかく、個人の性格や障害などに起因する場合は、本人もかなり辛いだろうなというケースは多いかもしれません。
それ以外の 「チクリ」
なお先端が尖ったものが体に当たって痛く感じる、言葉にとげがあるといった状態を 「チクリ」 あるいは 「チクチクする」 と表現することもあります。 昔からある 普通 の日本語で、告げ口をあらわす 「チクり」 とどう関係しているかは前述の通り不明です。 また他人を傷つける言葉を ちくちく言葉 と呼ぶこともあります。
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