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殺すリスト

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復讐したいという気持ちの捨て場、代償として… 「殺すリスト」

 「殺すリスト」 とは、自分が気にくわない人、むかつく奴、許せない人間に対し、「あいつはそのうち絶対に殺してやる」 などと心の中でリストアップしたり誓うこと、あるいはそれを日記やメモなどに記す行為のことです。 「絶対殺すリスト」 とか 「復讐リスト」「処刑リスト」「宝くじに当たったら外国人マフィアに始末を依頼するリスト」 などと呼ばれる場合もあります。

 もちろんこうしたリストを心の中で作ったとしても、それを実行することはありません。 子供の頃に圧倒的な力を持つ相手 (いじめっ子や不良、上級生、学校の先生や世の中の大人など) に理不尽な仕打ちを受けた時、悔しいし反撃したいけれど怖くてできない時などに、腹立ちまぎれに行う心理的な代償行為なのでしょう。 リストに記して 「今すぐに反撃はしないけれど、そのうちやってやる」 と心に誓うことで、相手を許したり泣き寝入りすることなく、反撃を先送りして心の平穏を何とか保つ 「弱者の知恵」 のようなものです。 また怒りや憤りを心の中にため込まずにいったん外に出すのは、心理的にも効果のある対策だとされています (外在化)。 酒の席で仕事の愚痴をこぼすとストレス解消になるみたいな話ですね。

 一方、こうしたリストを心に秘めたり日記などに記すだけでなく、口外して何らかの脅しとして使う場合もあります。 「お前は俺の殺すリストに入っている、せいぜい夜道には気を付けることだな」 といった言い回しです。 これも単なる弱者の負け惜しみ、空威張りに過ぎない場合もありますが、不良・ヤンキーなどが格下相手に戦うのが面倒な場合に、言葉だけで相手を屈服させるための脅し文句として使う場合もあります。 この場合は 普通に 脅迫罪になります。

 対義語は 「土下座リスト」 となります。

いじめられっ子などが心の中で反芻する 「殺すリスト」

 こうした行為や考え方は、内向的な性格だったり、腕力や議論あるいは口論に自信がなく、感情や怒りを内に秘めるタイプによくみられるものです。 学校で理不尽な暴力や いじめ などの被害に遭った時など、授業中に 「リストに入れてやった」「いざその時が来たら覚えておけよ」「どうやって殺すかな…まずは死ぬ寸前まで痛めつけて、そのまま死んでしまってはそれで終わりになるから急いで病院で手当てさせて元気になったらまた死ぬ寸前まで痛めつけて…それを延々と繰り返して…」 などと凶悪な 妄想脳内 で巡らす人は少なくないでしょう。

 またこうした 「根に持つタイプ」 が 根暗 などと呼ばれ流行語となった80年代頃には、彼らが内に秘めた恨みの感情記録を 「処刑リスト」 や 「復讐リスト」 を作っている」 などとして面白おかしく広げるような話もありました (「〇〇リスト」 といった言い回しはそれ以前からありましたから、どのあたりが発祥なのかは不明です)。

 なお 「殺すリスト」 という言い回しが広がった直接的な 元ネタ とも云えるのは、1983年から2003年まで連載され実写版映画も大ヒットした マンガ 「ビー・バップ・ハイスクール」(きうちかずひろ/ 講談社/ 週刊ヤングマガジン) だと思いますが、この作品自体が言い回しを造語したのかについては不明です。

 前述した通り、処刑や復讐を接頭した 「〇〇リスト」 といった言い回しはそれ以前にもありましたし、殺すという言い回しも子供はわりと簡単に口にするので、ネット もない時代、記録に残らない形でローカルな言葉としてどこかで発生し広がっていた可能性がかなり高いからです。

 ちなみに登場したのは同作 主人公 の中間と加藤が前日に揉めた城東工業中退の柴田ほか7名に突っ込み柴田一人を狙い撃ちにして叩きのめした後、仲間に向かって 「お前も俺たちの 「殺すリスト」 に入っとるぞ…」 と中間が凄むシーンとなります。 後日仲間3人と偶然再会した際にも 「殺すリスト」 が使われ、さらに殺すリストの前にいじめるリストがあることも示唆されています。

 蛇足ですが 筆者 は小学校時代に似たようなリストを作成し、その後紆余曲折あって悶絶級のヘマをしでかし、この種の言葉には強烈なトラウマというか 黒歴史 が存在しているので、あまり触れたくなかったりします。

「あいちトリエンナーレ2019」 で 「殺すってリスト」

 一方、2019年になり SNS ツイッター において、似た言い回しである 「殺すってリスト」 が話題となる中で、「殺すリスト」 という言葉も広がることに。 これは2010年から3年ごとに愛知県で開催されている国際芸術祭 「あいちトリエンナーレ2019」 とその中の 「表現の不自由展」 が展示物を巡り様々な議論を呼び 炎上 のような状態となる中、それ以前に行われた同展示会芸術監督の津田大介氏が批評家・哲学者の東浩紀氏と行った対談の際に出たものでした。

 動画で配信された対談の中では、自分の芸術監督就任にアート業界から多数の異論が出たと述べる津田氏に対し、東氏がそれは誰なのか実名を出していこうと執拗に 煽り、「検索して 「こいつらが批判してきました」「絶対に忘れない」 みたいなリストにしよう」 と提案。 それを受けて津田氏は冗談っぽく 「あいちトリエンナーレが決まった時に、津田がやるんだったら絶対つまんなくなるだろうってツイートした人を全部もちろんリスト化していて、殺すってリストに入れている」 と発言。 これが 切り抜か れて揶揄されたものでした。

 全体の文脈から云えばこれは単なる 露悪的 なジョークであり、人によっては 「ああ自分も子供の頃にそんなリスト作って留飲を下げたこともあったな」 と感じられる程度の些細な話です。 しかし 「表現の不自由展」 が政治の場も含めた大騒動となる中でこの発言もクローズアップされ、批判的に広がることに。

 そもそも子供の頃に弱者がこっそり心に秘める殺すリストと違い、津田氏も東氏も論壇やメディアにおける発言力が極めて高い著名人・実力者・インフルエンサー であり、彼らから 「実名を出すかもしれない」「それをリスト化されて 晒される かも知れない」 と示唆されるのは、批判する側には 「今後の活動に何らかの支障が生じるかもしれない」 との言外の圧力、恫喝を感じさせ、異論を封殺するかのような態度だととられても仕方ない発言でもあります。 もちろん他人を名指しや個人が特定できる形で批判する以上は自分が同じように批判されることも覚悟すべきと思いますので、この発言を問題視してことさらに騒いでいる方も 党派性 に基づく皮肉や意趣返し以上の意味はないのかも知れませんが。

 「表現の不自由展」 にはその後の展開も含め様々な意見があります。 展示内容に対する批判や、その批判に対する対応への批判もあり、一部では 「展示会が過度な批判や妨害に晒され 表現の自由 を脅かされるその後の展開を含めて現代アートだ」 などとしたり顔で指摘する論客もいます。

 筆者は展示内容に不快感も覚えるし、この展示内容からその後実際にあったネットでの批判が起こるであろうことは誰でも簡単に予想ができることで何の意外性も新規性もなく、単に幼稚な挑発で分断と憎しみを招いただけであって、これこそが真の現代アートだなどと賞賛する人の気が知れませんが、それも含め表現の自由の範疇の活動で問題もないと思っています。 それはそれとして、もともと津田氏や東氏に批判的な意見を持つ人がネットには多かったこともあり、「殺すリスト」 が2019年8月頃からちょっとした流行語にもなったのでした。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2019年9月2日)
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