どうせあの葡萄はすっぱいから… 「認知的不協和」
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| べ…別に食べたくないし どうせおいしくないし (有明いく子) |
「認知的不協和」(Cognitive dissonance) とは、相反する矛盾した考えや行動が同時に存在することで生じてしまう違和感や不快感、ストレスなどを指す社会心理学用語や 概念 のひとつです。 例えばダイエット中なのにカロリーが高いものを食べたくなってイライラする、つい食べてしまって後で罪悪感を覚えて気分が落ち込むなどが代表的です。
そして人はこの不快感やストレスを解消するために、矛盾する考え方をその時の気分で都合よく修正したり、行動に屁理屈をつけたり 詭弁 を弄して正当化したりします。 先ほどのダイエットの例でいえば、食べなくて済むように 「この食べ物はどうせ不味いのだ」 と思い込もうとしたり、食べた後に 「これは昨日食べたものよりカロリーが少ないからセーフ」「明日からまた頑張ればいいや」 と自分に言い聞かせたりなどです。
こうした現象はアメリカの心理学者レオン・フェスティンガーによって直接的には1957年の 「認知的不協和理論」 で提唱され、広く知られるようになりました。 イソップ童話の 「キツネとすっぱい葡萄」 にならい、すっぱい葡萄理論などと呼ぶこともあります。 もちろん人が生きていれば様々な矛盾に向き合う必要がありますし、食べてはいけないのに食べたくなる、お金がなくて買えないのに欲しくなるといった思い通りにいかない 日常 の小さな葛藤や現実の厳しさもあります。 それらとは心の中でそれぞれが折り合いをつけていくしかありません。
なお直近のお笑いの ネタ でいえば、サンドウィッチマンの伊達みきおさんの持ちネタであるカロリーゼロ理論 (小さい食品にはカロリーは含まれないため、0kcal である」「柿の種のような小さい食品にカロリーが含まれているわけがない」 や、そこから転じた食べたいものを食べるための論理破綻した屁理屈があります。 マンガ だと 「ドカ食いダイスキ! もちづきさん」 第4話で、高カロリーなものを大量に食べる 主人公 もちづきさんがコンビニで夜食をありったけ買ってしまう時のセリフ 「ある」のがいけない!!!」 もあります。
ダイエット程度なら笑えても、社会問題化まですると…
人は矛盾に満ちているし、人によっては日々の生活の中で理不尽に感じられる状況や 環境 に 晒され、時として理屈よりその時の感情が行動を支配することもあります。 それによって過ちを犯したとしても、健康な人の美容を気にしてのダイエット程度なら笑い話の範囲でしょう。 しかしこれが他者を巻き込んだ トラブル に発展したり、何らかの社会や政治の問題と リンク したり、他責・他罰的な 意見として社会に広まると、笑い話では済まなくなることもあります。
例えば自分は優秀なのに上司から冷遇されているとか、頑張って仕事をしているのにちっとも生活が楽にならないといった場合に、上司を悪魔化したり社会や政治に責任があると感じて憎悪するなどは、それが的を射ている場合もあれば、自分の能力不足を棚に上げた単なる逆恨みや責任転嫁の場合もあります。 その考えの行きつく先には、「あんな上司は殺されても当然だ」「こんな社会、壊してしまえ」 といった、何らかの行動を起こす暗い未来が待っているかも知れません。 とくに思想とか宗教、信念、価値観などアイデンティティにも強く関わる部分では妥協も譲歩も消化もできずに鋭く対立して、最悪の結果を招くかも知れません。
何らかの矛盾や困難に直面し、頭の中が混乱したり心ならずも 言行不一致 に陥ることはあるでしょう。 全てを自分の中で消化できれば良いのですが、まだ精神的に未熟な子供には難しいですし、大人でも気分が落ち込んでいる時、体調不良などで 認知負荷 に耐えられなくなったり知的能力に制限があって 認知が歪む こともあるでしょう。
他人に迷惑や危害を及ぼさない範囲で外部に責任を放り投げてしまうのも、それはそれでストレス解消の一つのやり方です。 居酒屋で上司の悪口で盛り上がったりもよくある話です。 しかし SNS で毎日のように 病的 なほど 強い言葉 で他人を誹謗中傷する、暴力沙汰に走るなど、何らかの行動に対する押えられないほどの衝動や生きづらさを感じたなら、なるべく早く専門の医療機関などにかかるようにした方が良いでしょう。 そのまま放置すると本人が苦しむだけでなく、周囲に 害悪 や 呪い をまき散らし、あるいは犯罪に起こす原因にもなりかねません。
ビジネスシーンではマーケティングに活かされることも
マーケティングの世界では、こうした人間の矛盾する行動を心理学的に分析し、プロモーション に活かす考え方や施策もあります。 購入するかどうか迷っている 顧客 に対して何が理由で迷っているのかを把握し、心に秘めている不安や葛藤を解消するような訴え方をしたり、一度購買した後に 「この判断は正しかった」 と思ってもらえるよう、アフターサービスを充実させて次の購入を促しリピーターとして育てるなどが代表的です。
逆にこれが上手くいかないと、顧客の建前やキレイごとに振り回されて ニーズ の判断を誤る結果となります。 例えばアンケートでダイエットを意識している客が多いからとヘルシーなメニューを用意したら、それは単なる建前でたいして売れないなどがありがちなケースです。 客は嘘をついているわけではなく、アンケート時点ではそう思っているけれど、いざ目の前にヘルシーな料理とカロリーが高いけれどおいしそうな料理があれば、前述のように都合のよい言い訳をして後者を選んでしまうというわけです。 これは俗に サラダマック現象 と呼ぶこともあります。







