心を揺り動かされる… 「エモい」
「エモい」「エモ」 とは、英語のエモーショナル (Emotional) から転じた 「Emo」、もしくは日本語の 「得も言われぬ」 を略した若者言葉の形容詞で、感動して心を動かされること、とりわけ切なく感傷的で心の奥底を突かれるような、魂を揺り動かされるような大きな感動を表現する際に使われる言葉です。
「〇〇はエモい」 といった使い方をしますが、強調する場合は 「超エモい」 とか 「めっちゃエモい」「エモ死ぬ」 などの他、「エモエモ」「エモエモのエモ」 といった言い重ねで表現する場合もあります。 また本来の意味や ニュアンス からはだいぶ異なる言葉でありながら、賞賛の意図で使う 「ヤバイ」 などと同じか、その上位互換的な使われ方をするケースも増えています。
「一言で言い表せない複雑な感動」 を 「エモい」 の一言で言い表せられる便利さ
「エモい」 の語源については大きく2つの説があります。 ひとつは、音楽の世界で使われていた言葉 「エモ」 が俗語化したというものです。 通説では1980年代にアメリカのロックシーンで広がった 「Emo」(エモ/ イーモウ) という ジャンル の名称から派生されたとされ、その後ジャンルを離れ、似た傾向を持つ音楽に対しても 「エモい」 といった使われ方がされるようになり、さらに対象を選ばなくなったという流れです。 なおジャンル名としての 「Emo」 は、エモーショナル・ハードコアとも呼ばれ、メロディを強調した楽曲、繊細な心の動きや気持ちを表す歌詞や歌い方から、この名で呼ばれるようになったものでした。
一方、音楽の 「エモ」 と多少のつながりがありつつも、日本語の 「得も言われぬ気持ち、感動」 の 「得も」 から派生したという説もあります。 エモいと親和性が高いニュアンスの感情表現として、ノスタルジックな懐かしさ、温かみ、物悲しさ、哀愁、透明感、尊さ などがありますが、これらが胸中にある時に感じるものが 「何とも言えない切なさ、心に染み渡るような感動」 すなわち 「得も言われぬ気持ち」 であり、ネット で音楽のエモいなどと混同したり 解釈 違いで混ざりつつ使われるようになったとの流れです。
いずれにせよこの言葉が流行した後に意味するものはほとんど同じであり、音楽や アニメ といった エンタメ から美しい風景、イラスト、人が頑張る姿などなど、感動するもの全てに当てはめ、それによって心が震えた、テンションが上がったといったニュアンスで使われるようになっています。 「一言で言い表せない複雑な感動」 を 「エモい」 の一言で言い表せられる便利さが、この言葉がよく使われる理由でもあるのでしょう。
「ポプテピピック」 で 「エモ〜〜〜い!!!」
ウェブコミック配信サイト 「まんがライフWIN」 にて2014年11月29日より連載されているナンセンス4コマ マンガ 「ポプテピピック」(大川ぶくぶ/ 竹書房) で、両手を上げた謎のポーズをとるピピ美に対し、ポプ子が1コマ目と4コマ目で 「エモ〜〜〜い!!!」 とだけしゃべる回があります ([1-7] ポプテピピック セカンドシーズン【1】/ 2016年3月20日)。 独特の毒気や 煽り でネットを中心に絶大な人気を誇る 作品 だけに、一部ではこの言い回しも使われるようになっています。
SNS で共有されたり、「今年の新語 2016」 に取り上げられたり
ネットでの使い方としては、言葉自体は2000年代中頃からと比較的古くからあり、SNS でも2007年中頃からその後の使われ方と同じような使い方が増え始めています。 大流行するきっかけとなったのは、2010年代に入る前後に SNS の ハッシュタグ として度々使われ 共有 されたこと、エモい気分を惹起し 概念 を説明しやすい 思春期エフェクト のような映像表現が人気となったり、少女漫画 「アオハライド」(2011年1月) あたりから同じくエモいイメージがある手書き文字風のフォントが復権して流行したことなど、様々な要素があります。
元々一部の 界隈 ではそれ以前からかなり盛んに使われてもいましたが、それが若者や新しい言葉を使う層に浸透したのが2010年あたりで、さらに 「ポプテピピック」 での 「エモ〜〜〜い!!!」 や、とりわけ 2016年の 「三省堂 辞書を編む人が選ぶ 「今年の新語 2016」(2016年12月5日) の第二位に選ばれニュースになったことなどがきっかけとなり、一気に一般層にもこの言葉が広まったのでしょう。
「今年の新語 2016」 では、新明解国語辞典風の解説として、「エモ・い (形)〔emotionを形容詞化したものか〕〔音楽などで〕接する人の心に、強く訴えかける働きを備えている様子だ。「彼女の新曲は何度聴いても━ね」 と紹介しています。 これがネットニュースなどを通じて バズ り、一気に認知度が高まって使われるようになった部分もあります。
ちなみに同じように 「得も言われぬ感動」 すなわち 「言葉にできない感動」 を意味するものに (語彙)・(語彙力) といった ネットスラング もあります。 「ヤバイ」「スゴイ」 といったありきたりで陳腐な 感想 に接尾する形 (例えば 「ヤバイ(語彙力)」) で使われ、語彙が少なくて感動を言葉にできないとか、感動のあまり語彙を失ったといった意味となります。