青春時代を思い起こさせる画面効果… 「思春期エフェクト」
「思春期エフェクト」 とは、中学生から高校生くらいまでの若者が中心となり、いかにも学校生活をイメージさせる服装や場所を舞台に、キラキラと美しく透明感や清涼感があり、かつ前向きなひたむきさ、寂しさや孤独、儚さ、不安感などを見るものに感じさせるテイストでまとめられた イラスト、あるいはそうしたイラストで多用される 「視覚効果 (画面効果) =エフェクト」 を指す言葉です。 しばしば エモい と好意的に評価されることから 「エモエフェクト」 あるいは 「青春エフェクト」 と呼ぶこともあります。
もう少し具体的な云い方をすると、学校を舞台にしたストーリー重視の美少女ゲーム (エロゲ) のパッケージ絵や ライトノベル (ラノベ) の表紙絵などに2000年代頃から増えたような絵柄や 雰囲気 となります。 人気アニメ監督である新海誠さん、細田守さんや、アニメスタジオのユーフォーテーブルらのアートワークに代表されるような、アニメ・ゲーム調で おたく っぽい絵柄の雰囲気を持ちながらもそこまでおたくっぽくはない、明るく爽やかで、でも不安定で切ない、透明感のある塗り方とか、画面の一部あるいは全部に用いられるエフェクト (デジタル機材を用いたアニメ制作現場で 「撮影処理」 と呼ばれる、素材を一つの画面にまとめて照明や美術、空間表現、特殊効果などを駆使して全体を仕上げる工程) といっても良いかもしれません。
なおこうした絵柄を 「青春絵」「思春期絵」「エモ絵」 や、「新海誠風」「細田守風」 と表現する場合もあります。
胸の奥がキュンとするような、切ない感情を呼び起こす
イラストに登場する キャラ は一人 (孤独の暗示)、もしくは仲間・友人・恋人などと一緒 (他者との絆) に描かれますが、ごくまれに家族や親戚 (田舎の祖父母など) が選ばれることもあります。 ただし家族や親戚が描かれる場合は、中心となるキャラは小学生になったり、小学生の頃の追憶を伴う中高生になったりもします。
背景として描かれる場所は学校の教室や廊下、図書室、体育館、屋上や校庭、あるいはいかにも夏休み中っぽい海や山、草原、逆に登下校の最中を思わせる街中や公園、ゲームセンター、自分の部屋 (子供部屋) などなど、中高生が日常目にするもの、訪れる場所が大半です。
ただしありふれた日常を舞台としながらも、そこには ファンタジー っぽい空気感もかすかに漂っており、キャラなどに比べ背景そのものは実写風というかリアル感を重視した精緻な描かれ方がされながらも、色使いは独特な場合が多いものです。 実写トレスや実写加工したものも多いですが、これはエロゲやアニメの制作予算上の都合による簡易的な背景作画の影響が元になってはいるものの、次第にデジタル時代の描き方として様式化し洗練されたものです。
天気は白い雲が浮かぶ真っ青な晴天が多い印象ですが、夜明けや夕暮れ、夜、雨や雪の場合もあります。 ただしいかなる場合でも、あまりジメジメとした暗い感じにはならず、透明感や清涼感は失いません。 服装は セーラー や ブレザー などの 制服 や ジャージ などで、持ち物は学校指定のカバンなどですが、自転車や部活用の道具 (楽器ケースなど) を抱えていたり、携帯やスマホを持っていたりもします。 また電柱や電線、信号機や踏切の遮断機、横断歩道やガードレール、郵便ポスト、自動販売機といった日常目にするものも、意図してことさらに取り入れます。
こうした絵柄や絵の テーマ は思春期の若者に好まれがちですし、そんな時代をとっくに過ぎた大人、中高年の社会人にとっても思春期や青春時代、それも自らが渇望しながらついぞ得られなかったりもしたであろうあれこれが、ふいに胸の奥でゆっくりと頭をもたげるスイッチになったりします。 「明るく輝く青春時代」 一方で 「うじうじと思い悩んだり素直になれなかったり不機嫌だったり想いがすれ違ったり」 そして何より 「仲間との語らいや初恋・片思い・失恋・初体験・別れ」。 その記憶は無意識に蓋をして隠していた古傷だったり大切な大切な宝物だったりします。 もっとも青春なんてものは、その時期そのタイミングでは自分に当てはめては考えられず、「あの頃は青春だったな」 などと後でやっと気づくものなので、同じ思春期・青春エフェクトでも、受け取る側の世代などでだいぶ印象は異なりそうです。
なおこうしたイラストに文字を入れる場合は、細めの明朝体やサインペンでさらっと書いたような細めで手書き風のフォントが多いかもしれません。 また文字はやや横長で、右上に向かってちょっと傾いていたりすると、より 「らしい」 感じになります。
描きやすく評価もされやすい絵柄ゆえに、ありきたりな表現扱いも
後年こうした絵柄があまりにあふれると 「ありきたりな絵柄だ」「陳腐だ」 と否定する人も増えるものの、多くのおたく・非おたくの心の奥に、計り知れない正負ダメージを叩きこむ 「強い吸引力」 を持つものと云えるでしょう。
ちなみにこうした絵柄は見る側だけでなく、描く側からも、絵柄の好みや流行り廃りの影響だけでなく、技術的にとっつきやすく、好まれる傾向があります。 エフェクト機能に頼りすぎた絵を俗に 「エフェクト絵」 などと呼びますが、Photoshop やクリスタなどの お絵描き グラフィックツールのエフェクトを上手く使えばわずかな手間で大きな画面効果が得られますし、デッサンの狂いや塗りの下手さをごまかせたりもします。 背景も写真の加工で済むので、一から自分で描くよりかなりお手軽です。
なおエロゲやラノベの他、イラスト SNS 「pixiv」 でよく見かけるテーマや画風・ありがちなエフェクトから 「ピクシブ絵」 のイメージを強く持つ人もいるようです。 前述した細田守さんや新海誠さんが提示した絵柄は人気がありますし、その二番煎じも 商業・同人 問わずとても盛んで一大勢力といって良い状況です。
キラキラした青春はどこに…胸の奥が痛くなるエモいものたち
ちなみにエフェクトの技法とかアニメやイラストなどとは全く関係がありませんが、「思春期エフェクト」 が与える効果と似た ニュアンス の効果を心理的に与えるものに、大塚製薬の 「ポカリスエットのCM」 シリーズや コカ・コーラ社の 「I feel Coke のCM」 シリーズがあります。
これらは受け取り側の年代によって出会い方も感じ方も様々ですが、もっとも心に来るのは、小学生くらいの 「まだ夢いっぱいの子供、がきんちょ」 の時に出会い、「自分も中学や高校に上がったらこんなキラキラした青春を送るんだ、素敵な仲間や恋人と出会って充実した毎日を過ごすんだ」 などと夢想し、いざ実際に中高生になってみたら冴えない青春時代を送る羽目になり、その後社会人になって再び目にして 「もう戻れない、自分が手に入れられなかったキラキラした青春」 に焦燥感や挫折感、あるいは諦観に胸が締め付けられる時でしょう。 これらは青春コンプレックスなどと呼ぶこともありますが、大丈夫、みんなそうですよ…。