姿は見えぬが音は聴こえる… 「音席」
「音席」 とは、ライブやコンサートにおいてステージは見えずに音しか聴こえない場所に 設定 された観客席のことです。 一般的にはステージ裏 (セット裏) の 配置 となり、見えるのは舞台装置の裏側のべニア板や骨組みだけだったりします。 ステージが見える位置の通常チケットが売り切れた後に、ステージが見えない席だと 告知 した上で追加発売されるケースが多いでしょう。
通常、音楽・コンサート専用の ホール や劇場、映画館などの文化活動施設は、ステージ前にしか座席が設置されず、このような場所に観客を入れることはありません。 しかし 武道館 や体育館、スタジアムなどのように、観客席がグラウンドやフィールドを取り囲むようにOの字型に配置されるスポーツ系の イベント会場施設 の場合、正面と裏面を意識したステージが構築されると、どうしても裏側の位置となる座席が発生してしまいます。
アーティストや興行主によっては、全くステージが見えず音響も定位が反転するなどかなり悪くなるステージ裏を嫌い、こうした場所の座席は使わないケースも多いものです。 しかし 「姿は見えなくてもとにかく 現場 に立ち合いたい」「会場の 雰囲気 だけでも味わいたい」 という熱心な ファン・現場組 の存在もありますし、無駄なスペースを減らして有効活用したい興行主もいますから、音楽市場が CD 販売からライブ体験重視に移る中、チケット販売されることも多くなっています。 なお料金は、通常の座席と比べてかなりの割安となるのが普通で、半額から 1/3 程度、場合によっては 1/5 といった安価な設定がされる場合もあります。
ちなみにチケットがどうしても取れず、やむなくチケットを持たないまま現地を訪れ、当日売りのチケット狙いやチケットを余らせた参加者と直接現地で交渉して余剰チケットを譲ってもらうなど様々な努力をしても無理だった人が、最終的にライブやコンサートが始まった後に会場周辺で漏れ聴こえてくる音に耳をそばだてる状態を 自虐的 に音席と呼ぶこともあります。
防音がしっかりしたコンサートホールなどでは外部に音はほとんど漏れてきませんが、スタジアムなどではかなり聴こえてきますから、こうしたセルフ音席で悔しさを紛らわすファンもそこそこいたりします。 まぁこれはこれで盗み聞きみたいなものなのでどうなんだという意見もありますが、その気持ちは 痛い ほど分かります w。
大型ビジョンの普及により、徐々に純粋な 「音席」 も減少
一方、大型ビジョンやディスプレイがショービジネスの世界で広く使われるようになり、またライブビューイング (ライビュ) のように離れた場所で大型ビジョンや映写スクリーンなどを使った鑑賞・観劇スタイルが普及すると、音席とされた位置にも、セット裏に設置する形の大型ビジョンが登場。 肉眼で直接アイドルや声優といった演者を見ることはできなくても、ビジョンに映し出された映像を見ることはできるようになりました。 こうした席はセット裏ビジョン席などと呼ぶこともあり、純粋な 「音しか聴こえない音席」 は減少傾向にあります。
また大型ビジョン設置のステージ裏席の場合、料金は純粋な音席と比べると割高で、通常料金の2割〜3割引き程度となります。 ステージが見えないのに高いじゃないかという気もしますが、大型ビジョンの機材レンタル料、案内のための人員配置などを考えると採算が取れる価格にはできず、席数によっては通常料金設定ですら完全に赤字になりかねないのが実情だったりします。 この場合は、どうしても現場に居たいというファンの切実な思いに対する救済策、やむにやまれぬ出血大サービスの一環だと考えて良いと思います。
ちなみに契約内容や機材の性能、時期にもよりますが、160インチから200インチレベルの LED ビジョンだとどれ程安くても1基設置で1日25万円から70万円ほど、ステージは極力ステージ裏の観客席寄りに後退させるので横に長くなり視界の関係で2〜3基設置が必要となり、それだけで100万円以上します。 実際はこの他、付帯する周辺機材や運送設置費、ステージ裏の最低限の化粧にも費用がかかるので、数百人を新しく入れてチケット代が回収できたところでギリギリのラインでしょう。
「ここにいたこと席」 といった呼び方も
なおこうした場所のことを ここにいたこと席 と呼ぶこともあります。 すなわち、ステージは見えないけれど 「現場にはいた」 ことを証明する観客席という意味になります。 またステージがギリギリ見えるか見えないかの 見切れた 状態の席 (本来は舞台横の袖や機材設置位置となる見切れ部分の席) を 見切れ席 と呼んだり、死角席、機材席、制作開放席などと呼ぶこともあります。
また音席や見切れ席ほど条件は悪くないけれど、一般席扱いでやや不利な場所にある席は、販売の際に 「※ステージが見えにくい位置となります」 などと註釈がつくことから、注釈付き席・訳あり席 と呼ぶ場合もあります。