言葉の広がりとともに意味も変化 「見切れる」
「見切れる」 とは、動画・映像、あるいは 画像 などにおいて、本来映り込んではいけないはずの人や物が映り込んでしまうことです。 例えばテレビ番組などで、誤ってカメラの前を横切る裏方のスタッフが映し出されてしまったり、撮影中に映してはいけない場所にカメラを向けてしまったようなケースを指します。 ただし現在は、「よく見えない・映らない」 といった意味で使うこともあるでしょう。 例えば集合写真で端っこの人が画面からはみ出したり切れている時に 「見切れてる」 といった使い方です。
言葉の元になっているのは舞台や映像制作の 現場 で使われていた 「見切れ」 という舞台装置や道具 (大道具) のことで、観客に見せたりカメラで撮影する場所と、そうでない裏方部分とを区別して隠すためのものでした。
例えば演劇の世界で使われる 「切り出し」(舞台を見る観客の視線に舞台袖や裏方部分が入らないよう、舞台後方や両脇などに背景の一部や飾りとして設置する板など) や 「張り物」(木の 枠 に布や紙を貼ったもので、使い方は切り出しとだいたい同じ) などが、見切れと呼ばれます。
「見えること・映ること」 から 「見えないこと・映らないこと」 へ
元々は純粋な業界用語でしたが、テレビのバラエティ番組などでスタッフが見切れたのをお笑い芸人が 「見切れてる!」 などとギャグや ネタ としていじってフォローしたり (そしてスタッフはすぐにフレームから外れる)、ライブやコンサートといった音楽系の イベント などで、ステージが見えない場所にある席を 「見切れ席」 として販売するようになると、それらを目にした演劇や専門用語に不案内な 一般人 の間にも 拡散。 ただし本来の意味である 「裏方が見える・映った」 との意味ではなく、「一瞬だけ横切ったけどよく見えない」「ギリギリ見えない、映らない」 といった逆の意味として広がることになりました。
「見切れ席」 という存在自体は演劇の世界では昔からあるのですが、単に舞台がほとんど、あるいは全く見えない席との意味ではなく、舞台袖で準備や出番待ちをしている役者さんやアーティスト、スタッフなどが見えてしまう (あるいは普段なら見えない裏方部分が見られる席) という本来的な意味で ファン も使っていたりもしますから、どのあたりのタイミングで意味の逆転が生じたのかは不明です。
他にも 「完全見切れ席」(見切れしか見えず舞台は全く見えない) とか 「機材席」 とか 「死角席」「音席」「ステージ裏」「ここにいたこと席」「立見席」「後方立見」 とか、ジャンル や 会場・ホール によって同じような場所の呼び名がいろいろあります。 「見切れ」 という文字のイメージが、「よく見えない」「画面から切れてる」 をシンプルに連想するからなのでしょうか。
誤用言葉としてネットでは国語辞典的なツッコミがされることも
こうした経緯もあり、「気の置けない = 油断ならない」 のような誤用言葉の代表格として、ネット の 掲示板 (とくに演劇系の専門板など) でうっかり 「見えない・映らない」 の意味で使うと ツッコミ を入れられることもあるようです。 もっとも、本来の意味とは異なる意味として広く使われるようになった言葉は他にもたくさんあり (しかもだいたい反意語になったりもする)、これだけ普及した以上は、言葉の変化や異なった使い方が増えたと認めるのがスマートなのかなという気もします。 国語辞典的に誤用をあげつらって どや顔 したり マウント を取るのもあれですし。
ちなみに 筆者 は子供の頃から 8ミリシネとかビデオとか映像関係の 趣味 を持っていたので、演劇関係に興味を持った際に 「見切れ席」 という表現を初めて見た時は、そのまま 「裏方席」 かな?と認識しました。 しかしそうでなければ 普通に 「ステージが見えない席」 だと受け取っていたかなと思います。
「情けは人のためならず = 人に情けをかけてはいけない」「目を細める = 不機嫌になる」「破顔 = 怒って 鬼 の形相になる」 とか、本来の意味からズレたり正反対の ネガティブ な意味になる勘違いしがちな誤用言葉はたくさんあります。 文字のイメージや使う人の変移などで変化し続ける言葉を、あれこれ探して経緯を見るのも楽しいものです。