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土下座

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もうこれ以上の謝罪はできません… 「土下座」

 「土下座」(どげざ) とは、その文字の通り土 (地面) の上に直に坐り、両ひざ・両手、さらに頭を地面に着けて平伏・拝伏すること、礼 (お辞儀) を行うことです。 日本においては礼式のひとつとされ、座礼の最敬礼とほぼ同じものとして扱われます。 ただし室内で行われる座礼と地べたに突っ伏すような形となる土下座とは、意味や ニュアンス はだいぶ異なります。

 元々は古代インドにおいて、仏教の五体投地の原型とされる行為から生じたとされます。 高貴なるものに対する最敬礼の仕草であり、服従または拝礼の意を表わすために相手の足元にひざますき、頭を地につけて両手で相手の足に触れるといった行為となります。

 その後こうした礼式は中国にも伝わり、その後日本にも伝わったとされますが、服従や礼拝のために地に身体をなげうつといった行為は古今東西を問わず普遍的に見られるものなので、どのあたりが発祥でどう伝わったのかは定かではありません。 中国にもそれ以前から最上位の礼として存在しますし、魏志倭人伝によれば、日本でも卑弥呼の時代にはすでに行われていたとの話もあります。

 ちなみにヨーロッパなどでは、ひざまづいた上で相手の足にキスをするといった形になる場合もありますが、これも中国などで類似行為が行われていたとの記録があります。 またイスラム教徒が1日に5回、メッカの方角 (キブラ) に向かって身体をなげうつサラート (礼拝) も良く知られるものでしょう。 平伏叩頭となる礼拝のこの姿勢はサジダと呼ばれます。

時の権力者に対する土下座

 日本においては、封建制の時代に時の権力者に対する最上級の礼として行われることが慣習化していました。 ただし同じ封建制でも、日本と中国、およびヨーロッパや中東では考え方や制度が異なり、しばしば封建制を裏で支える宗教やその影響力も異なり、それに伴って礼法や式典の作法や礼儀も異なります。

 戦国時代まではいくら自分たちが住むクニの領主と云えど、別にどこかですれ違っても道の端に避けて座ったり手をつくことはあっても土下座まではしていませんでしたし、隣のクニの領主など、農民にとってはどこ吹く風といった風情でした。 江戸時代になり大名行列に対する農民や町民の土下座が生じますが、これも将軍と御三家に対してがせいぜいで、大名同士の序列に基づくあれこれはあったものの、農民町民にそんな義務や義理もありませんでした。 さすがに行列の前を歩いて横切るなどは無礼だとされましたが、いきなり無礼討ちされることも滅多になく、また先を急ぐ産婆さんや飛脚は特例として横切ることが許されるなど、かなり緩やかなものだったようです。

 むしろ土下座という形や名称が、神仏への礼以外である種の 「特別な態度」 として強く認識されるようになったのは、農民町民といった平民同士での、謝罪やそれに伴うあれこれからなのかも知れません。

 ちなみに幕末の1862年8月21日に、薩摩藩の大名行列を横切ったイギリス人が薩摩藩士によって無礼討ちされた生麦事件が発生します。 これが発端で後に薩英戦争 (1863年8月) が起こるほどの大事件でしたが、イギリス人が度重なる制止も聞かず乗馬したまま列に割って入りそうな状態だったため生じたもので、別に土下座をしなかったからとか、日本が野蛮な国だったからという訳ではありません (現代だって、大統領や首相の車列に制止を振り切って車が突っ込んできたら、日本以外の国なら 普通 に発砲されたり致死的な制止を受けかねない行為でしょう)。

謝罪や誠意を示すための土下座

 現在土下座と云うと真っ先に思い浮かぶのは、結婚 の許しを相手の親に貰うといった人生に関わるような大きな願い事とか、謝罪や何らかの誠意を示すためのものでしょう。 とくに謝罪のための土下座は、現実世界でもしばしば用いられるだけでなく、マンガ などでも謝罪の一つの形としてよく用いられ、言葉や姿態を定着させ続けている大きな原動力のひとつでしょう。

 実際のところ、どのくらいの頻度で土下座が行われているのかは分かりませんが、日本の場合、室内は靴を脱いで上がる場であり、室内において行われる座礼ではない実質的な土下座 (地面に直ではないので形だけ) は、結構多いのではないかという印象もあります。 しかし大の大人による土足地面での直の土下座は、さすがに見たこともやったこともないという人が多いのではないでしょうか (筆者 もないです)。

 土下座自体には大した意味はない、謝罪している風のポーズだけだとの辛辣な意見もあります。 しかし礼法としては最上位であり、これ以上となるともはや切腹 (自決・自裁) しかなく、「これ以上の謝罪は存在しない」 ものでもあります。 これはつまり謝罪している方による 「これで許してくれないならこちらにも覚悟があります」 の最後通牒でもあり、土下座された方も、「これで許さなかったらただでは済まないな」 という強いプレッシャーを受けることにもなるでしょう。

 またそうした、ある意味では倫理的な 「攻守逆転」 を嫌って、相手が土下座しそうになったらすぐに 「それはいいですから」「そういうことをされても意味ないですから」 などと手を伸ばして相手が土下座をしないよう体を押さえたり頭を上げさせるなどはわりと目にするところです (これは見たことがありますし、制止されるのを織り込んだパフォーマンスといった面もあるのかなと)。 現代でも土下座があるとすれば、子供の いじめ や不良同士のケンカの後の力の誇示、あるいはせいぜい不良っぽい悪質クレーマーの不当要求くらいでしょう。

 このあたりは日本的な 「水に流す」 といった文化とも関係があり、「謝罪より先に何が問題だったかの検証と再発防止策の提示をしろ」 とか 「何らかの経済的な損失が発生したなら、その賠償を行うことが謝罪であり償いだ」 との合理的・西洋的な考え方とは相容れない非合理・精神論的 なものでもあります。 とはいえ大の大人に土下座をさせたという意味は現在でも決して軽くはなく、一方がそれをした時点でもう一方が精神的にも倫理的にも追い詰められかねないという点は面白いものです。

 なお ネタ や冗談としての土下座の場合、どちらがより謝罪しているかの競争が生じて土下座合戦になることもあります。 その場合、土下座よりもっとすごい土下座として 「土下寝」 という表現もあります。 座るのではなく地べたにうつ伏せで完全に寝転ぶような状態を指します。 マンガなどの場合は地べたに埋まるような描写もあります。 お互いにより低くを競うのですね。

創作物における土下座

 土下座には、相手への尊崇の念の提示や謝罪の他、徹底した屈服・服従もイメージします。 従って屈服・服従を強制するという意味での使われ方は様々な創作物でも見られるものです。 中でも 18禁 な作品における 全裸土下座 はその究極のものと云えるでしょう。

 一方、謝罪の意を示す方の究極の土下座と云えば、「賭博黙示録カイジ」(福本伸行/ ヤングマガジン/ 1996年〜1999年) に登場した焼き土下座、およびそのための器具 (焼き鉄板と土下座強制機) が挙げられるかもしれません。 「口先だけの謝罪など謝罪のうちに入らない」 との帝愛グループ総帥 兵藤和尊によって、借金を返さない者、失態を犯した部下、賭博で負けた相手などに 「心からの謝罪」 を身をもって行わせるための儀式であり、真っ赤に焼けた 鉄板 の上で額を鉄板に擦り付けた形で、10秒間以上の土下座が要求されます。 ここから転じ、ネット では 「心から謝罪せよ」「罪を償え」 との意味で、鉄板 (あるいは焼き鉄板) が おたく用語 として使われることもあります。

 ちなみに筆者は昔、雑誌の 編集 で仕事をしていた際に、とある 印刷所 のミスによって関係者に室内で座礼をすることになったことがあります。 室内だし自分以外にも編集長と印刷所の偉い人、編集者もう1人がいて全員で頭を下げたので切羽詰まったものでは全くありませんでしたが、自分に非がない座礼はわりと気が楽と云うか、むしろ他人のミスのために頭を下げる自分にちょっとカッケーみたいな、自らの行為に酔う部分もありました (たぶん土下座でもできたと思う)。 最終的にはお金で解決となりましたが、怒り怒髪天な相手も謝罪を受け入れ、裁判になることもなく穏便にことが済んでいました。

 あとどうでもいい話ですが、昔交際していた中学時代のクラスメイトと同窓会などで会うたびに、二次会あたりの酔い加減で共通の友人に当時の話を毎回ぶり返され、その都度元彼女に土下座して許してもらうのが恒例になっています (自分の名誉のために申し添えれば、信頼を裏切ったみたいな重い話ではないです)。 こと土下座に関しては、あたしの人生は結構恵まれている感じがします。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2009年12月11日)
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