数ある敬称の中でも便利すぎる 「○○さん」
「○○さん」 とは、名前の後に添えて敬意や親しみを表す敬称です。 苗字や名前はもちろん、ニックネームや職業名、役職名につけることもあります。 「さん」 には使うべき対象に性別や年齢、目上目下・既婚未婚の区別がなく、日本語の他の敬称 (様や君、氏、などなど) と比べても柔らかく感じられ、非常に使い勝手が良い敬称と云えるでしょう。
英語やフランス語といった言葉では敬称は名前や職名などの前につけ、また Mr. や Mrs.、Miss とか M.、Mme.、Mlle. といった具合に男女の区別や 結婚 の有無がある場合が多いのですが、日本語の 「さん」 は対象を選ばないため、フラットな使い方ができるとして海外でも日本語のまま 「SAN」 として使われるケースも増えているようです。 外国人による日本製 アニメ やドラマの ファンサブ (ファン が勝手に字幕をつけた動画) でも、セリフの 「さん」 が翻訳でもそのまま SAN になっていたりします。
ネットにおける 「女さん」「男さん」
2ちゃんねる といった 掲示板 では、書き込み で異性を指す時に 「女」「男」 や 「女性」「男性」 の代わりに 「女さん」「男さん」 とさんづけしてあらわすことがあります。 とりわけ男性が使う 「女さん」 にはかなり強めな揶揄や侮蔑の ニュアンス がありますが、「女」 では乱暴すぎるし 「女性」 では堅苦しいイメージもあるためか、よく使われる言葉となっています。 同じように 「男さん」 という言い回しを女性がすることもありますが、こちらも 「世の男ども」 のような批判的な意見で使われるケースがやはり多いでしょう。
より 露悪的 なものでは、「まんさん」「ちんさん」 という 性器呼び も見られます。 同質性の高いコミュニティにおける同じ 属性 への強い仲間意識、逆に異なる属性への排他的感情の中でしばしば見られるものですが、「まんさん」 の場合はもっぱら男性同士の場やミソジニー (女性嫌悪) の傾向が強い場や人で、「ちんさん」 は女性同士、あるいはフェミニストを自称したりミサンドリー (男性嫌悪) の傾向が強い人たちの間で見られると考えられているようです。
性器呼び自体は昔からありますが、ネットにおいて性器呼びが広がった原因としては、おおむね2ちゃんねるの同性愛サロン板で使われていた 「腐まんこ」(腐女子 の蔑称) からの派生であり、2005年前後をピークとするような やおい・BL を主な活動範囲とする同人系の板と男性同性愛系の 住民 の争いから生じて、後に VIP など無関係の板の住民が野次馬として参加して広がった印象があります。 「ま〜ん」 に関しては、男性器呼びの 「ち〜ん」 のアレンジだったような気もしますが定かではありません。
もっとも男性が多い板に女性が書き込んだり、逆に女性が中心の板に男性が書き込みをしてそれが気取られると、もうそれだけで 煽られ たり 叩かれる ような状況も生まれます。 匿名系の掲示板の場合、レス をどんな人がつけているかはわかりませんが、ちょっとした言葉遣いで性別が分かったりもしますから、その場の少数派である異性だと気づかれたくない余りに、過剰に露悪的な言葉遣いをするケースは多いようです。 また ネトゲ の チャット などで女性だとわかると うざ絡み してくる男性も少なくないので、保身のために男性のふりをする女性は結構いたりします。
同性の気にくわない人たちを異性のふりをして批判する行為 (例えば おたく が嫌いな男性による 「わたし女だけど おたくって キモい わ」 みたいな) もありますので、全てを 「男が女を叩いてる」「女が男を叩いてる」「差別だ」「いや逆差別だ」 などと短絡的に判断するのは危険でしょう。 このあたりは スイーツ(笑) なども同様です。
アニメの舞台で 「○○さんですか?」
一方、アニメや ゲーム といった コンテンツ のファンが、その作品の 舞台・聖地 となった場所に訪れると、作品名やその愛称にさんづけした言葉で表現されることが増えています。
例えば 萌えおこし で有名な マンガ・アニメ 「らき☆すた」 の舞台となった埼玉県鷲宮町では、やってきたファンというか おたく な人に対して、地域住民が 「らきすたさんですか」 といった声掛けがされたという話はよく聞きます。 ちなみに 筆者 も何度か訪れましたが、「アニメの方ですか」 とか 「らきすたの方ですか」 と呼ばれたことはありますが、「らきすたさん」 とは呼ばれてません。
同じようなことはその他の作品とゆかりの地でも見られ、例えば 「ガルパンさん」(アニメ 「ガールズアンドパンツァー」) とか 「艦これさん」(ゲーム 「艦隊これくしょん」)「刀剣さん」(ゲーム 「刀剣乱舞」)「ラブライブさん」(アニメ 「ラブライブ!」) あたりは、コンテンツの人気が社会現象を起こすほど高く、かつ息の長いものであるため、地域住民、とりわけ飲食店といった商売を行っている人たちから訪れたファンへ親しみを込めた呼びかけに使われることも多いようです。
「おたくさん」「腐女子さん」 と呼ばれるよりはコンテンツ名で呼ばれる方が 推し の地域民からの 愛 も感じられて嬉しいものですが、このあたりは四国で弘法大師ゆかりの霊場をまわる人を指す 「お遍路さん」 などとも近いニュアンスというか、ちょっと面白い状況です。