ここまで分厚いと人を殴り殺せるな… 「鈍器」
「鈍器」(どんき) とは、近接戦闘において人を殺傷できる武器・得物 やそれに類する道具のうち、刃がついていないものを広範に指す言葉です。 武器なら打撃系のものがそう呼ばれ、人類にとってもっとも古い手持ち武器であると同時に、刀や剣などのより強力な武器が登場した後でも、鎧兜などを装着して刃物を受け付けない敵に対して打撃を与えることで攻撃できるように工夫され使い続けられたものです。
ある程度の硬さと大きさがあれば何でも鈍器になりますが、身近なものでは金槌やバール (釘抜)、シャベル・スコップ、ガラス製の瓶や灰皿、野球のバットやゴルフクラブ、鉄パイプ、武器なら木刀や棍棒やメイス、ウォーハンマーなどがあります。
ただし一般に武器類の種別としてこの言葉を使うことは稀で、武器ではなく凶器、すなわち殺傷事件において犯人が危害を加えた道具・アイテム に刃がついていたかどうか、加害行為が切ったり刺したりなのか叩く殴るだったのかの区分として使われることが多いでしょう。
凶器の種類や加害方法の違いが警察発表やその報道でも必ず触れられるのは、それによって被害の程度をそれとなく示したり、加害者の被害者に対する殺意の強さを推し量ったり、計画性のあるなしといった悪質さを判断する重要な材料になるからです。 なお対義語は 「刃物」 あるいは日本ではめったにありませんが 「銃器」 などになります。
まるで鈍器のよう…コミケカタログの異名にも
「鈍器」 あるいは 「鈍器のようなもの」 は、日常生活ではまず使わないものの、殺傷事件の報道などでは頻繁に耳にする表現でしょう。 とくに大まかな道具の分類はできても具体的に何を使ったかまでは確定できない段階で用いられる 「鈍器のようなもの」 あるいは 「バールのようなもの」 の頻出ぶりはすごいものがあります。
コミケットカタログ |
これらが転じて、日常生活でも硬いもの、大きくて重いもの、あるいは本来は人を殴ったり殺傷することはできないようなものが何らかのきっかけでそのような状態になった際に、シャレや ネタ で鈍器とか打撃系武器、「人を殴り殺せる」 といった言葉で 露悪的 に表現することがあります。
ありがちなのは、例えば柔らかいものの代表格のような豆腐のうち、固くなった凍み豆腐を鈍器扱いしたり、大ぶりな大根といった振り回せそうなものを鈍器のように表現したりが代表的です。
おたく や 腐女子 の世界では、世界最大の 同人イベント である コミックマーケット (コミケ) で発行される、参加 サークル がリストになってまとめられたカタログがその代表でしょうか。 コミケカタログは参加するサークル数が増えるごとページ数も増え続け、年々分厚く重くなっています。 確かにこれで人を殴り倒せばただでは済まないでしょう。
またコミケカタログ以外の書籍でも分厚い本や雑誌を鈍器本と呼んだり、版型が小さくて分厚い辞書のような本をネタ的にレンガ本とかレンガ (建築資材の煉瓦) と呼んだりします。 これらも十分に人を殺傷する能力がありそうです。 この他、電話帳とか大型で広告だらけの分厚い女性向けファッション誌なども、冗談で鈍器と呼ばれることが多いでしょう。 とくに女性向けファッション誌はカラー印刷された広告ページが多く、上質な紙を使っているので重さも硬さもかなりのものです。
そういや一部の マンガ などで、物で人を殴る描写の際、擬音のように 「鈍器!」 といった文字を重ねるギャグもあったりしましたね (高橋留美子さんの 「うる星やつら」 とか)。
実際に鈍器本を創ることになったら…
同人誌は一般に 薄い本 (もっぱら 成人向け) などと呼ばれることもあるくらい、ページ数も少なく薄い本が多いものです。 一方で、何冊か発行した同人誌を一冊にまとめる (再録本 など) とか、多数のサークルが参加した大規模な アンソロジー とか気合の入った本を出すことになるなどした場合、200ページから300ページを超えるような分厚い本が企画されたり出されることもあります。 オフセット本 の場合、印刷会社 がどのくらいのページ数や厚さまでなら対応してくれるかは会社やそれぞれのサービス内容によりますが、ページ数はおおむね300くらい、厚さで背幅3センチ程度までが合理的な価格帯で選べる上限の場合が多いようです。
もちろん特別注文でそれ以上のページ数や厚みの本を出すこともできるケースがありますが (製本設備の関係上、これ以上は無理という上限が会社によっても異なりますが)、500ページとか3センチを超えるような本は費用もはね上がりますし、紙も良いものにしないと本の形が崩れたりもしがちなので、それ以上になるのなら上下巻のように分冊するのが一般的なやり方でしょうか。
1980年代から1990年代にかけての、いわゆる同人バブルの頃は、表紙 が厚紙のハードカバーで分厚い豪華本などがかなりありましたが (頒価も数千円みたいなすごいことになってました)、美術書と見まごうばかりの超豪華本ともなると、超大手はともかくそこそこの 大手 でも記念碑的な一大事業みたいな部分があるので (印刷所への発注額も数百万円から千万円越えの規模ですし)、お財布に厳しくても ファン なら是が非でも手に入れたくなったりもするものです。