作品を持ち寄って作る花束…アンソロジー本
「アンソロジー本」 とは、もっぱらひとつの共通 テーマ で集められた、複数人の マンガ や小説 (SS/ ショートストーリー) などの 作品 によって構成された単行本や 同人誌 のことです。 「アンソロ本」、あるいは単に 「アンソロ」、音楽作品などの場合は 「コンピレーション」 などとも呼びます。
アンソロジー本でもっとも多いのは、例えば原作のある 二次創作 の 同人作品 で、同一の アニメ やマンガ、あるいは同じ キャラ、同じ カップリング の作品ばかりを集めた本になります。 個人で発行する場合もありますが、通常 同人 の世界でアンソロジー本と呼ぶ場合は、複数の 同人サークル や 同人作家 がそれぞれ共通のテーマで描いた作品を持ち寄って1冊にまとめたり、共通テーマで競作するような同人誌となります。
二次創作の権利関係で云えば、同人作家やファンが集まって作る 「非公式アンソロ」 や、元ネタとなる作品の版元・権利者の許諾を得て作る 「公認アンソロ」(実質的な公式アンソロ)、および版元・権利者が直接作る 「公式アンソロ」 などがあり、それぞれ同人の場で発行したり、商業出版 のルートに乗るものもあります。
なお 「アンソロジー」(Anthology) の直接の語源はギリシャ語の花束や花輪からきています。 転じて詩集や句集のようなものを指す言葉として使われるようにもなり、定着した言葉だったようです。 言葉として使う場合は、作品テーマをアンソロジーに接頭するケースが多く、例えばアニメのアンソロなら作品名+アンソロ (セーラームーンならセラムンアンソロ)、あるいは ジャンル を接頭して使ったりします (例えば BL ならBLアンソロ)。
編集プロや、商業出版などの出現で広がりました
こういった出版形式は、委託編集同人誌 のように、編集を専門に行うセミプロのサークルの活動や、完全に 商業 ベースの版元 (マンガ出版社) や編集プロダクションなどが単行本形式で作るものから広まりました。
またこうした書物が作られるようになったのは、同人誌の人気が高まり、印刷費に対して採算ベースの売り上げが見込めるようになってからですが、一昔前までは、商業印刷 (オフセット印刷 など) はかなり高価で素人が手を出しにくいものだったので、一部の人気サークルが 美少女コミック誌 や、同人の専門誌やアニメ雑誌などで作品を執筆していることもあり、同人系のマンガやSSとして盛んに出版されていました。
その後、商業印刷が手軽になると、そのジャンルで大きな影響力や人望・人脈を集めているサークルや作家などが中心となり、豪華な企画ものの同人誌として取りまとめるケースも増えてきました (合同誌 などとも呼びます)。 参加人数やサークルが多い大規模なものともなるとページ数が数百に及ぶような分厚いものもあり、俗に 鈍器 と呼ばれるほどのどっしりとした本になることもあります。
アニメ雑誌などの別冊ふろくとしても、小規模のものが登場
90年代に入ると、アニメ雑誌などの別冊付録として、アンソロ本のような小冊子がおまけにつくことも多くなり、アンソロ本を積極的に刊行する大手版元も出現。 エロ からギャグタッチの4コマものまで、様々なアンソロ本が書店にならぶようになりました。
なおエロなアンソロ本では、セーラームーンのアンソロジー本が書店に並んでいるのをセラムン ファン の子供を持つ親が目撃し、当時ちょっとした騒ぎになったこともあります。
公認アンソロジーや公式アンソロジーも
また雑誌の付録用の企画といった 「公認のアンソロジー」 だけでなく、コミカライズ (漫画化) とはまた異なる形で、元ネタの版元・権利者が直接 「公式アンソロジーコミック」 などを発行するケースも増えてきました。
こうしたコミカライズや公式アンソロジーは、そのジャンルで人気や実力のあるプロ作家や同人作家が 公式 から選ばれて執筆発行するケースが大半ですが、「公式の仕事に携わった以上、権利的にグレーだったり、非エロ作品のエロな二次創作はやるべきでない」 との契約や倫理的な考え方から、参加した後に同人誌が出しづらくなって苦悩したり、公式からの名誉あるオファーを涙を呑んで蹴る場合もあったりします。
「表紙詐欺」? アンソロジー本の持つ避けられない問題
複数人で作る本だけに、購入する場合には、しっかりと中身を確認することが大切でしょう。 例えば10人で作った本で、その10人の作家としての創作 レベル や 絵 の傾向などが同水準・同傾向ならあまり問題にならなくても、一部の参加者だけレベルが高くて 表紙 などに美麗な イラスト を描いていても、他の参加者の大半が低レベルで中身がスカスカだった場合には、表紙だけを見て購入すると期待を裏切られガッカリするものです。 買った後に 「表紙に騙された」「表紙だけが立派な テンプラ本 だ」 などと怒りを覚えるケースもあります。
本を作る側からすると、一番絵の上手い人に表紙を任せるのは当然でしょうし、そこに 「表紙で騙そう」 といった意識など持ってないケースも多いのですが、買ってガッカリした方はそうは受け取りません。 同人誌の表紙にアンソロ本であることを明示するのは当然として、例えば自分の スペース にやって来た購入希望者に 「アンソロ本ですが、それでよろしいですか」 などと一声かけるなどは、後々の トラブル を避けるためにも、あって良いかも知れません。