同人作家というより、同人編集プロのようなサークルの同人誌
「委託編集同人誌」 とは、別の サークル の 同人作家 やプロ作家などに作品の執筆や寄稿を依頼、稿料を支払って 原稿 を集め、それを 編集 して作る 同人誌 の事です。 多くは アンソロジー本 のような体裁をとりますが、特定の作家の依頼原稿が集まると、その作家の 個人誌 を改めて出す場合もあります。
まだ オフセット印刷 の費用、コストが高く、印刷屋 (商業 印刷業者) さんとの交渉にもそれなりのノウハウが必要な時代、本格的な同人誌の発行が個人では難しかった時代には、比較的多く見かけた発行形態でした。 なおこういった同人誌を出すことに特化したサークルは 編集サークル、プロダクション型サークル などとも呼ばれていました。
現在もこれに似た同人誌はありますが、編集サークル自体は 印刷 のコストの低減、同人誌専門の 書店委託販売 を行っている同人書店の類似のサービスの普及もあり、あまり見かけなくなりました。 ネット の利用者が増えて無理して本を出さなくとも、オンライン専門 でそれなりに同人活動を楽しめる時代になったこともあります。
ただし前述した アンソロジー本 や 合同誌 などは企画の楽しさ、仲良し サークル同士で助け合って1冊の本を完成させる達成感もあり、こんにちでもよく見かける発行形態となっています。 何かを記念した企画本などは 「しっかりと形があるものに残したい」 という 需要 も強いのでしょう。
オフセット印刷本の黎明期に、商業誌をしのぐクオリティのものも
こういった形態のサークル、本作りは、結構歴史があります。
同人誌とは同好の士と 趣味 で作った雑誌・本のことですが、創作系 (二次創作 を含む マンガ や小説 (SS/ ショートストーリー) など) が作品形態の中心となった際、「絵 やストーリーが描けない」 という ファン たち (それまではもっぱら批評などをメインの活動としていた) が、「でも同人誌の編集や 印刷所 とのやり取りは得意だ」 と、編集業務に特化した形で本を作り始めたのがこうしたサークル活動登場の発端です。
また同人誌ブームの初期には、1人の作家が1人だけで同人誌一冊分の原稿を描くことが難しかったこともあり、複数の作家で原稿を持ち寄って一冊の本を作るのは、イベント ごとに 新刊 を出せるなど、作り手・受け取り手相方で一定以上の需要がありました (作家は断片的な原稿でも世の中に出せる、読み手は新しい作品が常に読める)。
同人誌を 頒布 する際の実費を超える金額での有料化、それも一般書籍と比べはるかに割高な価格帯での頒布の流れもありビジネスとして旨みがあるため、一時はこうした委託編集同人誌の数が増え、またそれをまとめる編集サークルの商業誌への進出 (下請け編集プロとして版元の雑誌コードを借りつつ一般書店に並ぶマイナーな 美少女コミック雑誌 を発行) などもよく見かけていました。 こうしたセミプロの編集プロは所在地が雑居ビルなどというのは少なく、ほとんどが責任者のアパートや自宅が作業場になっていたものです。
詐欺なのか、単にだらしないのか…同人ゴロ的な展開も
ただ中には、受け取った原稿を作家に返却せず稿料の支払いを渋ったり、ある種の 同人ゴロ 的な活動をする、悪い噂の絶えないサークルもありました。
意図的に詐欺行為を働く人もいたようですが、しばしば責任者がだらしなく、払うつもりだった原稿料や印刷代金を使い込んだり、どんぶり勘定で収支に失敗する場合も多かったようです。 しかし悪気があろうがなかろうが、関わった人が受ける被害は同じですし、たまったものではありません。 そうした人は元々気が弱いタイプが多いのか、漫画家や印刷所からの追求を恐れる余り、本業や学業を放り出し行方をくらますなどというのは、その世界にいると耳に入ってくることもありました (5年後、風の便りに田舎の実家で農業やってるらしい…なんて噂が流れたり)。
さらにごく極端なケースでは、同人 だの コミケ だのにほとんど興味のない、パチモノ、偽商品を作るような 「アダルトグッズ業者」 の暗躍もありました。 一部ではエロ本の自動販売機などに、こうした本が流れているような時代もありました。
ファン同士が原稿を寄せ合って作る記念本や研究本
一方で、大学の漫研やファンサークルのように、複数の人間が文字通り 「同人」 として集って原稿を持ち寄って作る編集同人誌もあります。 また何かのきっかけに、力のあるサークルが中心となって、サークルや同人作家を横断して原稿を寄せ合う記念碑的な同人誌が作られる場合もあります。 こうした本は前述の通り 「合同本」 などと呼ばれますが、こういうものが本来の委託編集同人誌の姿なんでしょうね。