孔明の罠/ 待てあわてるなこれは孔明の罠だ/ 同人用語の基礎知識

「孔明の罠」三国志由来の故事ではなく、御大横山光輝先生の名セリフです

　「孔明の罠」とは、しばしばパニックや混乱を伴う予想だにしない大きな事件や状況の変化、何か裏がありそうな極端な出来事、怪しいながらも、いかにも飛びつきたくなる絶好の条件、即決したくなる余りの好待遇、好都合などに対して、「落ち着け！」と注意喚起するような意味の言葉です。　「待て、あわてるな、これは孔明の罠だ」「そんな事は無理だ」などと云う場合もあります。

　「孔明」とは古代中国、三国時代（いわゆる三国志の時代）の蜀漢、劉備配下の軍略家（軍師）、発明家、政治家として名高い「諸葛亮」（181年～234年）の字（あざな）です。　つまり「孔明の罠」とは、諸葛孔明が敵軍に対して行った知略溢れる戦術のことを敵軍が評して呼んだセリフ、あるいは孔明の日ごろの余りの智謀ぶりに恐れおののき、存在しない「孔明の罠」の妄想に縛られ身動きが取れないような状態などを指します。

「孔明の罠」、元ネタは横山三国志のセリフから…

　直接の元ネタとしては、漫画家、横山光輝（1934年６月18日～2004年４月15日）の作品、「三国志」（1971年～1986年/ 潮出版/ 希望の友/ 少年ワールド/ コミックトム）において、魏（曹魏）の軍師、司馬懿仲達（179年～251年）が発したセリフ、「待てあわてるなこれは孔明の罠だそんな事は無理だ」に由来します。

　蜀と魏、孔明と仲達、両陣営軍師の激突は智謀合戦として名高く、横山三国志においても見せ場のひとつですが、そこで諸葛孔明の張り巡らせた策略、罠を強く警戒する司馬懿仲達のセリフ、「待てあわてるなこれは孔明の罠だそんな事は無理だ」は他の多くの名セリフと共に同人やオタク、ネットの界隈で頻繁に引用されるようになり、使い勝手が良いので定型句化しました。

　また様々なケースに当てはめても使われ、例えば職場の上司が忙しい時期の有休をなぜか認めてくれた時などに、「待て慌てるな、これは上司の罠だ、そんな事はありえん」などと使ったりもします。

　横山三国志ファンの間では昔から使われているセリフですが、面白みのある言葉としてネットの時代となると三国志の話題から離れても頻繁に触れられるようになり、とりわけ２ちゃんねるや「ふたばちゃんねる」などの掲示板で頻出。　また 2000年代後半には「ニコニコ動画」などでも流行語、「タグ」（見出しキーワード）として繰り返し使われリバイバルし、横山三国志を知らない世代にも言葉として広まっています。

まさに 20世紀に生まれた「孔明の罠」

　三国志がらみの故事の成句や諺には、この「孔明の罠」と密接な関係がある、「死せる孔明、生ける仲達を走らす」なんてのもありますし、「泣いて馬謖を斬る」「三顧の礼」「白眉」「水魚の交わり」「桃園の誓い」「脾肉の嘆」などなど、数百年にわたって日本でも使われているような言葉、関連するものが数限りなくありますが、「孔明の罠」は横山光輝の造語からの慣用句とも云え、新しい時代の新しい言葉とも云えるでしょう。

　なお横山三国志のセリフや擬音などを出典とする言葉には、「げえっ！関羽」（赤壁の戦いに敗れ逃げ出した曹操が、待ち伏せしていた関羽と鉢合わせした時に驚きのあまり発したセリフ）、ジャーンジャーン（進軍や攻撃開始の銅鑼の音）、「むむむ」「何がむむむだ」（李恢が馬超を説得する時に畳み掛けたセリフ）、なども、頻繁にネットやオタク界隈で使われる言葉となっています。

改造マリオのプレイ動画で頻出する「孔明の罠」

　「改造マリオ」とは、任天堂のゲーム、スーパーマリオシリーズの作品の一部のデータを改造したもので、ゲーム内のグラフィックやマップ構成、配置オブジェクトなどを改造して新しいステージを作ってしまうものです。　多くの場合、鬼畜な内容（難易度が極めて高い）となっていて、これを友人にプレイさせ、悶絶する様子をリプレイ動画として発表するのが「ニコニコ動画」などで流行しました。

　その際、「いかにも怪しいブロック」や、いかにも釣りっぽいステージ構成（思わずジャンプしたくなるけど、隠しブロックがありそうな場所）などを評して、「孔明の罠」と呼ぶようになりました。　こうしたこともあり「孔明の罠」は、「ニコニコ動画用語」（ニコ動用語）と認識している人も多いようです。

諸葛亮いわく「他にやる事はないのですか？」

　諸葛亮がらみの言葉ではこのほか、KOEI の歴史ＳＬＧ「三國志」のゲーム内でのセリフ（軍師としてのプレイヤー（君主）への助言）をＡＡ化しアレンジした「他にやる事はないのですか？」や、ゲーム「恋姫†無双～ドキッ☆乙女だらけの三国志演義～」（2007年１月26日/ BaseSon）の登場キャラ諸葛亮（朱里）の発売前の雑誌の紹介記事で使われたセリフ、「はわわ、ご主人様、敵が来ちゃいました！」などもあります。