ゲームそのものをプレイするより面白い?… 「リプレイ」
「リプレイ」(Replay) とは、同人 や おたく の世界では、ゲーム のプレイ記録 (コンピュータゲームなどの 要電源、テーブルゲーム (卓ゲ) などの 電源不要 問わず) や、実況、あるいはそれらを元にした 二次創作作品 のことです。 ゲームプレイ誌上ライブ、アフターアクションレポート、プレイレポートと呼ぶ場合もあります。
例えばあるゲームをプレイした時に、そのゲームの攻略の様子を淡々と客観的事実として述べたり、臨場感たっぷりに文章や イラスト、マンガ で情景ごと再現したり、そのゲームに登場する キャラクター や ユニット (擬人化 されるケースもあり) の心理描写を加えたり、ゲームの プレイヤー (本人そのままの場合もあれば、ゲームキャラと境界線があいまい、もしくは一体化したり、別の人物や アニメ のキャラクターに差し替えてあったりもする) の一喜一憂を作品に取り入れる場合もあります。
作品形態としては、プレイヤーと GM (ゲームマスター) による会話や状況説明などにより構成されますが (台本形式、戯曲形式とも呼びます)、前述のように、よりゲームの世界に踏み込んで、プレイヤー視点ではなくプレイヤーが演じるキャラクター視点での、世界観 とルールを使った独立したひとつの物語のような形になっているものも数多くあります。
テレビ番組の事件報道などでおなじみの 「再現VTR」 などにも近いイメージですが、ゲーム関連の同人の ジャンル、カテゴリ では初期の初期から非常に人気のあるもので、リプレイの文章による二次創作 (SS) やマンガが発端で 商業 作品化して大ヒットしたり、ライトノベル などと融合して新しい潮流を作ったり、同時に各ジャンルでプロ作家が多数生まれるなど、極めて影響力の大きい作品スタイルと云えます。
なお、これらとは全く異なる 概念 として、SFの 設定 としてのリプレイもあります。 登場人物が過去にタイムリープ (意識が過去の自分に戻る) し、未来の記憶を持ちながらその後の人生を再び歩む (人生をやり直す) ような設定で、日本においては筒井康隆氏のSF小説「時をかける少女」(時かけ/ 1967年刊) の人気を中心に、広く親しまれるようになった物語形式です。 アメリカのSF作家、ケン・グリムウッド氏の「リプレイ」(1987年/ 日本では新潮社より) ともども時空物の一つとして、リプレイ物とか過去転生物 (ただし本人に転生する場合のみ)、時間ループ物 と呼ばれる場合もあります。
戦争の記録〜戦記から、擬似戦争ゲーム〜リプレイまで
リプレイの原型は、歴史上実際に起こった戦争の記録でしょう。 こうしたものは 「戦記」 と呼ばれますが、敵と味方がどう相対しいかに戦ったのか、その経過と行方はどうなったのかを、人類は古代から書き記しています。 当事者に向けた記録もあれば、第三者、傍観者や後世の人間に向けたものもあります。
その後、戦争を模したゲーム (将棋やチェスなどの、チャトランガ系のボードゲーム) が登場すると、それらのゲームの経過と結果を同じように書き記すようになりました。 これらは 「棋譜」(きふ)、それを用いた最善手の検討などを感想戦とも呼びますが、対局者が行ったお互いの打ち手を対局再現の形で記入した記録は、淡々とした事実関係の羅列だけであっても、名勝負ともなればそのゲームのルールを知るものにとっては手に汗握る面白い 「作品」 ともなります。
こうしたものは、同じゲームを行い自分も強くなりたい、より良いプレイヤーになりたいと望む者にとってはある種の 攻略 情報、ノウハウの 共有 との 「実用性」 があります (初心者向けのルール説明なども含む)。 その一方、対局者のどちらかを応援したり、もしくは 感情移入 するなどし、スリリングな勝負の行方を楽しむ読み方もあるでしょう。 それに伴い、厳密な棋譜や感想戦には使われないものの、読み物として対局内容そのものとは無関係な対局風景、対局者の心理描写や人間模様などを解説の形で付加したり、特定のプレイヤーに焦点を当て、そのプレイヤーの戦歴を時系列にそって取りまとめる記録などもつくられるようになりました。
これらは勝負事となるスポーツの試合などでも同様で、その場にいない人、観客、傍観者、あるいはどちらかの陣営の ファン に向けた 「実況」 の再現ものとして、大昔から人気のある コンテンツ として登場し、愛されてきた作品となります。
シミュレーションゲームから、テーブルトークRPGでリプレイが人気に
こうした 「戦いの記録」 は、戦争をより複雑に娯楽のためのゲームとして再現したシミュレーションゲームのプレイ記録や、シミュレーションゲームと関係が深い テーブルトークRPG (TRPG) などでも盛んに作られるようになりました。 これらのゲームが生まれ日本より一足先に発展したのはヨーロッパ、ついでアメリカですが、様々なゲームの様々なリプレイが、ゲームファンのための参考資料や導入の案内役、同じゲームを楽しむ同好の士のための読み物、コンテンツとして広まります。
日本では、TRPG のリプレイを発端として1980年代に入り人気となりましたが、まだ新しい文化であった TRPG の遊び方を未経験者や初心者に紹介する目的を持っていたり、当時人気の欧米 TRPG の世界観に大きな影響のあった ファンタジー の紹介なども兼ね、冒険ファンタジーという新しいジャンルを切り開き、単独で楽しめる作品的な独特の形に発展して行ったのが、リプレイなのでした (後述します)。
リプレイと同じように 「ゲームプレイ」 を外野で楽しむ創作物
ゲームの対局過程そのものを娯楽として楽しむものは、戦前 から将棋や囲碁の対局を扱った読み物もたくさんありますし、マンガに関しては1960年代には青年コミック雑誌に単独のマンガが登場、1970年代に入ると、いわゆる 「麻雀劇画」 の専門誌も発行されています (1975年 「漫画ギャンブルパンチ」(竹書房)創刊)。
TRPG のリプレイは、単に勝ち負けを競うウォーシミュレーションや将棋や囲碁、麻雀などのゲームとは似て非なるものではありますが (とくに麻雀は実録物は少なかった)、作品中のプレイヤーに性格やキャラ付けを行ったり、ゲームの経過そのものを創作することはないにしても、ドラマチックにするため記述に起伏をつけるなど、受け取り手が作品から受け取る醍醐味や面白さは、とりわけ初期はかなり近い印象があります。
日本でテーブルトークRPGの本格的リプレイ作品が登場、大ヒットに
ロードス島戦記 灰色の魔女 水野良/ 角川文庫/ 1988年 |
ソード・ワールドRPGリプレイ集1 盗賊たちの狂詩曲 山本弘/ 富士見文庫/ 1989年 |
こんにちのオタク的リプレイ作品や文化を考える上で、決して無視できない大きな作品が登場したのは1986年でした。 作品名は 「ロードス島戦記」(グループ SNE) です。
それ以前にも、まだ日本であまり知られていなかった TRPG を広める意味で、遊び方や楽しみ方をリプレイの形で紹介した専門雑誌の特集記事や連載記事は、1980年代初頭から存在していました。 例えば 1984年の 「トラベラー」 のリプレイ 「トラベラーをアドベンチャーする」(TACTICS) や1985年の 「ローズ・トゥ・ロード」 のリプレイ 「七つの祭壇」(シミュレイター) などは、リプレイのフォーマットや 界隈 の 雰囲気 を創った大きな存在でしょう。 しかしノベライズされ書籍化されて大ヒットし、その後のリプレイ作品、その他のジャンルの作品にも大きな影響を与えた作品といえば、やはりこの ロードス島戦記 になるでしょう。
この作品は元々、傑作 TRPG として人気のあった 「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(Dungeons & Dragons/ D&D/ 1974年) のプレイ日記として、パソコンゲーム雑誌、「コンプティーク」 に載ったものでした (D&D 誌上ライブ 「ロードス島戦記」)。 単発の掲載ではなく、キャンペーンプレイを連載の形で毎号掲載していました。
ノベライズされ文庫化されたロードス島戦記は、初期の頃のものは雑誌連載されたものとは異なり、版権 の問題でダンジョンズ&ドラゴンズから オリジナル で新しく作られた 「ロードス島戦記コンパニオン」 で再度プレイされたもののリプレイとなっていましたが、角川スニーカー文庫 (後に富士見ドラゴンブック) により刊行され、文庫リプレイの元祖となっています。
その後はゲーム化したりマンガ化、アニメ化、映画化もするなどメディアミックス展開をしつつ、この世界を強力に牽引することになります。 一方で、古典的で正統なファンタジー (ハイ・ファンタジー) とされる作品群を好む 古参 のファンタジーファンからは、いわゆるSFの世界における古参・新参 の軋轢などと同様に、これらの作品群が多少冷ややかな見られ方はしていたかも知れません。
「ソードワールド」 のリプレイで、人気は不動のものに
「ロードス島戦記」 雑誌掲載の後、その面白さから評判となり、他のゲーム雑誌に類似の コンセプト のリプレイ作品も次々に登場しています。 なかでも 「ソードワールドリプレイシリーズ」(ロードス島戦記の世界観を継承した国産 TRPG 「ソードワールド」 のリプレイですが、ゲーム発売前の新商品紹介として連載を開始、大人気に) や 「ナイトウィザードリプレイシリーズ」(声優によるリプレイで、書籍化の際は CD によるドラマもついていた) など) は、リプレイの可能性を広げた点で忘れられない作品と云えます。
これらの作品は確固としたジャンルとしてリプレイを確立する一方で、書籍化後は実際にゲームをプレイしている熱心なファンだけでなく、興味があるだけのファン、ゲームをよく知らない人にまで世界観やキャラの魅力から小説として読まれることとなりました。 以降は様々なタイトルが、主にラノベ文庫から刊行されることになりました。
こうした書籍が好評を得た理由としては、ひとつには ファミコン (Family Computer/ 1983年7月15日発売) などの家庭用ゲーム機で登場した RPG の人気により、冒険ファンタジーが人気のジャンルとなっていたことがあります。
またいかにもゲーム的なスピーディーでコミカルなストーリー展開のライトノベルが多数出版され人気となっていたこと、コンピュータゲームの RPG や TRPG と密接な関係を持つ ゲームブック の人気が1980年前後から盛り上がっていたことなど、ファン層がかぶったり近い作品が全体で相乗効果をもたらした点があります。 俗に1980年代はオタク黄金時代とも呼ばれますが、まさに時代が求めた作品だったのでしょう。
TRPG はその後、コンピュータゲームが盛り上がり、また卓上ゲームの人気の中心にトレーディングカード (トレカ) が踊り出る中、その勢いを徐々に失ってゆきますが、ゲームから離れライトノベルのいちジャンル、読み物として固定したファン層を獲得したリプレイは、その人気を維持し続けています。 近年は TRPG もまた復権しつつあり、その行方は注目でしょう。
TRPG 以外のゲームリプレイ
この当時、筆者 の周りにも TRPG やそのリプレイを書いたり描いたりするファンがいましたが、それ以外のゲームのジャンルも盛んでした。 例えばファミコンゲームで大ヒットした 「プロ野球ファミリースタジアム」(ファミスタ/ 1986年12月10日/ ナムコ) を仲間と熱心にプレイするのが流行り、おのおの自分のチームやキャラクター (選手) にあれこれ設定をつけ、試合結果や選手紹介、マンガや小説などを詳しくノートにつけて、肉筆回覧誌 の形の 同人誌 を作っていました。 持ち回りでスポーツ新聞や号外まで作っていたものです (どんだけ暇だったんだよ…)。
また競馬ゲームも大人気で、「ベスト競馬・ダービースタリオン」(ダビスタ/ 1991年12月21日/ アスキー) でも、ファミスタ同様に熱の入った同人活動が活発に行われていましたし、仲間と一緒に遊ぶゲームだけでなく、ソロプレイのゲームでも、例えば信長の野望や三国志などでプレイ日記の延長として戦国武将に様々なキャラ付けをした歴史ゲームリプレイ同人 (乾き物 のゲーム版) などが、よく創られていましたね。
リプレイというと、商業展開した TRPG の文章によるリプレイばかりが目立ち、それのみに目が奪われがちですが、まだ ネット もない時代、地域や学校ごとに色々なゲームで様々な人が、ゲームを楽しみながら草の根の創作活動も楽しんでいました。 それはとても素晴らしいことだと思います。 もっともそれを職業としていない限り、暇がある学生のうちが華の同人ではありますが。
動画によるプレイ実況…新しい時代のゲームリプレイ
リプレイとは記録や再現といった意味ですが、楽しみ方としてはリプレイそのものとも云えるゲームの遊び方が2000年代に入って盛り上がっています。 ピアキャスやポッドキャスト、動画共有サイト (ニコニコ動画) などでの、ゲームプレイの 「実況」 です。
当初は素人が リアルタイム で動画を配信する方法が限られていて、録画によるリプレイなどもありましたが、その後ネット 環境 の進歩などにより、リアルタイムでのゲームプレイの配信などが人気に。 いわば、30年の時を経て、誌上ライブ (擬似ライブ) がネットライブ (リアルタイムライブ) になった格好です。
単にプレイするだけではなく、プレイヤーの個性を全面に打ち出したり、クソゲー と呼ばれるようなゲームを お題 に選んだり、難易度の高いゲームで高得点を叩き出したり、さらには 「ゲームに不慣れな 妹 にプレイさせてみた」 のような ネタ 企画を盛り込んだりと、趣向を凝らした面白い動画配信などが数多く行われ、その世界の有名人のような人まで現れています。
筆者は2010年に SEGA の 「PSOBB」 をプレイしていたのですが、パーティーのうちの一人がプレイの様子をニコニコ動画でライブ配信し始め、その人はその世界では知名度がある人らしく、ニコ動であれやこれやと コメント がされていたのは見ていて笑いました。 他人の配信を見たことはありますが、まさか自分が…またすごい時代になったものだと感心してしまいました。