「薙ぎ払え!」 どうした化け物! さっさと撃たんか!
「薙ぎ払え!」(なぎはらえ) とは、不快なもの、見るに堪えないもの、邪魔なものを目の前から一掃したいと思った時に発する言葉です。 とりわけ対象に選ばれるのは数が多いもの、群れをなしているもの (例えば 転売ヤー の行列とか、交通渋滞、おたく による長大な 待機列 とか群衆とか) で、「まとめて焼き払ってしまえ」 みたいな意味になります。
元ネタ は映画 「風の谷のナウシカ」(1982年〜1994年) において、物語の終盤に 主人公 ナウシカと彼女が住む風の谷の民と敵対していた軍事大国トルメキアの軍司令官、皇女クシャナ殿下が発したセリフからとなります。 作中では 「薙ぎ払え!」 の他、「焼き払え!」 もあります (後述します)。 なお以下のセリフの説明は背景を含めてなるべく必要最低限にしたつもりですが、ネタバレ を含むので未見の方はご注意ください。
王蟲の群れを焼き払うにはこれしかない… 「巨神兵」
かつて世界を焼き尽くした力を持つ巨大な人型生物兵器 「巨神兵」。 この巨神兵の胚をペジテ市から奪って輸送中だったトルメキアの輸送船が、猛毒によって人が住めない 「腐海」 に住む巨大な虫 (蟲) に襲われ不時着しようとしたものの失敗し、風の谷に墜落します。 トルメキア軍司令のクシャナはそれを回収するため風の谷に派遣され、軍事力によって多数の死傷者を出して谷を支配下におきます。
クシャナ殿下と巨神兵、このシーンは 「どうした、それでも世界で」 のあたり (C)1984 Studio Ghibli・H |
一方、トルメキア軍に攻められたペジテの民は、蟲を利用してペジテに駐屯するトルメキア軍を追い払おうと、大量の蟲を誘導して町ごと襲わせていました。
巨神兵の胚を本国へ輸送することを断念したクシャナは、風の谷で巨神兵を完成させることにしますが、巨神兵が風の谷にあることを知ったペジテの市長は、蟲の中でももっとも巨大で攻撃力の高い王蟲の群れ (マンガ では 大海嘯 と呼ばれる津波のような大群) を風の谷に誘導して襲わせることにします。
風の谷では軍事的に支配された上、トルメキア軍によってもたらされた腐海の元となる胞子が木々を蝕み、谷を守ってきた森を焼き払う結果となって怒った民衆が蜂起。 駐屯するトルメキア軍と対峙し双方で戦火を交えようとする時に王蟲の群れが押し寄せます。 クシャナは王蟲の群れを止めるには巨神兵を使うしかないと判断し (今使わずにいつ使うのだ)、まだ不完全な状態の巨神兵を無理やり投入しますが、その際に巨神兵に向かって叫んだのが、この 「薙ぎ払え!」 なのでした。
ちなみに巨神兵がビームを放つとその圧倒的な火力は王蟲の群れを文字通り焼き払い、その場にいたクシャナの参謀クロトワも 「すげぇ…世界が燃えちまうわけだぜ」 と驚き、トルメキア兵は万歳を叫ぶほどでした。 しかし無数に押し寄せる王蟲の前ではほんの一時しのぎにしかならず、二発目を撃ったところで頼みの巨神兵はもろくも崩壊 (腐ってやがる…早すぎたんだ)。 トルメキア軍も風の谷の民も王蟲の群れに巻き込まれ、結局ナウシカが身を挺して王蟲の怒りと暴走を止めるのでした。
「焼き払え!」 と 「薙ぎ払え!」
ところで巨神兵が王蟲の群れに向かってプロトンビームを発射するシーンでは、「薙ぎ払え!」 だけでなく 「焼き払え!」 を先に使っています。 巨神兵に一発目の発射を命じるセリフは 「焼き払え! どうした、それでも世界で最も邪悪な一族の末裔か!」 であり、その後二発目を命じるセリフが 「薙ぎ払え! どうした化け物、さっさと撃たんか!」 なのですね。
なぜ後半の 「薙ぎ払え!」 の方ばかりが人々の記憶に残りクローズアップされがちなのかは不明ですが、語感的には 「焼き払え」 より 「薙ぎ払え」 の方がかっこいいし特徴的な感じもしますし、それで印象に残りやすかったのか、あるいはその後に続くフレーズも含めて ネタ として使い勝手が良かったからなのか、詳細は不明です。
有名すぎるくらい有名な作品ですし、作品中でも極めつけに印象に残るシーンなので、同人 の世界では様々な 二次創作 や パロディ も創られています。 イラスト などに描かれる場合は、キャラ が正面を見て右手を水平か胸の高さ程度に上げて叫ぶポーズ (焼き払え! のシーン) となります (ここに引用掲示したスタジオジブリの 公式 絵は、その後のシーンです)。
有名なシーンのセリフが、元ネタとは微妙に語句や使うタイミングが異なる形で流行語化するケースはよくあります。 例えば同じジブリ作品でいえば、「火垂るの墓」 の 清太のセリフ 「節子、それドロップやない。おやじきや」 なども、実際のセリフとはだいぶ言葉遣いが異なっていたりします。