行く手の何もかも破壊しながら突き進む濁流 「大海嘯」
「大海嘯」 (だいかいしょう) とは、本来の意味では大きな海嘯、すなわち海の波 （潮波） が壁のような形で河川を遡る （さかのぼる） ことです。 一般に河川の水は海に向かって下り流れますが、それが逆流するのはいかにも迫力のある事象です。 海水が切り立った垂直壁の状態 （段波） で押し出すので実際に破壊力もあり、堤防を乗り越えるなど洪水を招いて、周辺に甚大な浸水被害を引き起こすこともあります。
発生の原因は地形や地形による潮の流れ、潮の満ち引き、台風や発達した低気圧など様々で、いわゆる高潮による気象現象を通常は指しますが、時代や地域によっては地震によって発生した津波によるものでもそう呼ぶ場合もあります。
おたく用語の元ネタは 「風の谷のナウシカ」 の 「大海嘯」
一方 おたく の世界では、アニメ情報誌 「アニメージュ」 に連載された マンガ 「風の谷のナウシカ」（1982年〜1994年） で、怒りに我を忘れた巨大な王蟲の群れが、津波のようにありとあらゆるものを破壊し飲み込みながら突進し続ける状態を指します。
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| 怒り狂う王蟲の群れ 「大海嘯」 と、それを止めようとするナウシカ (C)1984 Studio Ghibli・H |
前述した自然現象の 「海嘯」 の大きいものを 「大海嘯」 と呼ぶこともありますが、今日わざわざ 「大海嘯」 と呼ぶ場合の直接的な 元ネタ は、この王蟲の群れを指すと云って良いでしょう。 また ゲーム 「ファイナルファンタジー」 に登場する幻獣 「リヴァイアサン」 の特技として同じ名前のものも登場します。
似たような現象や言葉に、前述した津波の他、イナゴの大群とか雲霞の群れ、飢えたネズミの大群 （ジバシリ （地走り） もありますが、いずれの場合もそれが起こっている真っ最中はもちろん、過ぎ去ったり収束した後にも様々な被害や 不幸 が訪れるもので、ある種の終末や破滅、大きなカタストロフを象徴する出来事だと云えるでしょう。
ちなみにナウシカの大海嘯の場合は 「大地の怒り」 とも喩えられ、一度発生すると誰も止められず、群れの王蟲が傷つき飢えて死に果てるまで続きます。 それが収まった後は王蟲の骸を苗床として、巨大な菌のような樹木の胞子が大地に根を張り成長します。 その後それが瘴気 （しょうき） と呼ばれる猛毒を空気中に放出し、人が生きていけない 「腐海」 に沈むことになっています （で、その腐海が実は…という流れです）。
様々な世界で転用される 「大海嘯」
このナウシカの作中 概念 が転用され、無数の人間が殺到する状態、極端な人海戦術などを、ネタ として 「大海嘯」 と呼ぶことがあります。 例えば コミケ などの 同人イベント で長大な 待機列 や人の群れがズゴゴゴゴと動く状態を指したり、迷惑行為である 「男津波」（コミケ 最終日 に発生する漢の波濤）、IT関連 の業界で巨大プロジェクトが 炎上 してヤケクソ気味に大量の素人集団を投入する様や、限定品 を求めて列をなす 転売ヤー の群れなどをしばしばこう呼びます。
またそうした状態を収めるためにナウシカのエピソードに倣って 「薙ぎ払え！」 とセリフをつけ足す場合もあります。 これは作中で自分たちのいる場所へ向かってくる大海嘯を一掃するため、ナウシカらの敵方の存在であるトルメキアのクシャナ殿下が復活させた巨神兵にプロトンビームの発射を命じるものです。 巨神兵がビームを放つとその圧倒的な火力は王蟲の群れを焼き払い、その場にいたクシャナの参謀クロトワも 「すげぇ…世界が燃えちまうわけだぜ」 と驚愕するものでしたが、無数に押し寄せる王蟲の前では一時しのぎにしかならず、結局ナウシカが身を挺して王蟲の怒りと暴走を止めるまでは、トルメキア軍も風の谷の民も大海嘯に飲み込まれることとなりました。
なお 「大海嘯」 といった呼び方や細かい描写の有無などは、マンガ版と アニメ版 ではかなり異なります。 いずれもおたくの基礎教養とも呼ばれる名作中の名作ですが、テレビで繰り返し再放送されているアニメ版と違い、マンガ版は未見という方もいるかもしれません。 機会があれば触れてみるのも良いでしょう。
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