転売を防いだり、新刊を多くの人に当日行き渡らせるための販売制限
「一限」(1限/ いちげん) とは、コミケ などの 同人誌即売会 において、自身の 同人サークル が発行する 同人誌 などの 頒布 (販売) に際して、購入者1人につき 「1冊」(1部) 限りとしますという 「頒布制限」 のことです。 「友達の分と2冊ください」 はできません。
「同人誌」 の 頒布数 の飛び抜けて多いサークルを、一般に 大手サークル、あるいはその 配置 の場所から 壁サークル などと呼びますが、大量に同人誌を頒布し、しばしば 完売 で希望者全員に行き渡らせることができないこれら人気サークルが、イベント会場 に押し寄せる大勢の購入希望の 一般参加者 らに 「協力を求める形」 でお願いするケースが多い販売方法ですね。
なお客商売の世界では、「一見」(いちげん)、あるいは 「一見さん」 というのがありますが、こちらは 「初めての客」 という意味で、対義語は 「常連さん」 となります。 独特の 雰囲気 や顧客層の絞込みをしている高級レストランや料亭、飲み屋などでよくありますが、この場合は 「既存客の誰かに紹介を受けて行く」「常連さんと一緒に入店する」 ことで、初めてのお客さんも利用することができるようになります。
シャレっ気を持って、こういった ニュアンス で 「同人誌」 などを頒布するサークルもあるにはありますが、一般的には 「1部 限定 の略」 が、「いちげん」 の普通の使い方でしょう。 なお、こうした販売制限のない場合には、「制限なし」 と呼びます。 一部の大手サークル以外は、販売制限はないのが普通ですが、大手で制限がない場合には、とくに 「制限なし」 と呼んで区別する場合もあります。 ついでに、2部限定の場合は2限、3部限定なら3限となります。
購入を希望する人は、事前にサークルの販売可能数は調べておきましょう…
イベント会場の 現場 での混乱を避けるため、新しく頒布数制限を始める場合には、事前にサークルが 運営 する ウェブサイト や ツイッター などで 告知 するケースが多いようです。 また当日は、サークルスペース において 売り子 が 「1人1冊までの販売となっておりまーっす!」 などとお知らせしたりします。 いざ自分の番が来てから 「知らなかった」「売れ」 は通りません。 購入を希望する人は、事前にサークルの販売可能数はしっかり把握しておきましょう。
ちなみに 「再度行列に並び直してもう一度買う」 ってのは実質的にOKの場合が多いようですが (仮に禁止しても顔を覚えていられない…ってのもあるんでしょうが)、「並び直しも禁止」 のサークルもあります。 発覚すると、ある種の出入り禁止 (うちのサークルは、あなたにはもう二度と同人誌を売りません) になる場合もあります。 無用な トラブル を避けるためにも、事前に情報はしっかりチェックしましょう。
共同購入と転売ヤーとのハザマで苦悩する大手サークル
大手サークルには、そのサークルの 新刊 (そのイベントに合わせて発行された新しい同人誌) を手に入れようと、イベント開始から購入希望者が殺到します。 その際に、販売数制限を設けるケースはかなり昔からありますが、一般参加者らが複数人で手分けして同人誌を購入する 共同購入 というパターンがあり、これは購入希望者が楽できるだけでなく、「無用な混雑、長蛇の並び列による無駄な時間の短縮」 という点では、サークルやイベント側にもメリットのある話でした。
例えば3人組の共同購入 グループ があって、それぞれが1人3冊ずつ同人誌を購入して後で分配するとしたら、計算上は待ち時間も列に並ぶ人の数も 1/3 にすることができます。 従って販売制限を設けるにしても、「新刊は1人3冊まで」 というような制限は、割とポピュラーなものでした。
人気サークルの新刊などは、オークションで高値転売されることも…
しかし同人誌を買い取り販売する専門店の出現とその人気や、1990年代末のヤフーオークションなどの登場により、オークション禁止 (オク禁) を訴える一方、1人あたりの販売数を抑えていわば 「実力行使」 のような形で 転売 を防ぐ方法も取られるようになりました。 これは、最初から転売して金儲けをするのが目的の 「転売ヤー」(転売屋) が増えたこと、オークションなどで自身のサークルが 設定 した販価からかけ離れた高値取引が広まり、サークルのイメージを悪くしたり、自分たちの預かり知らないところで金銭トラブルが発生するなどを防ぐ意味があります。
初期の頃は、同人誌専門店が動員したアルバイトなどが手分けしてサークルを回って新刊を買いあさったり、それによって売り切れて在庫がなくなり、並んでいた一般の ファン に渡す本がなくなるなどのトラブルが発生していましたが (長時間並んだ挙句に売り切れで同人誌を買い損なったファンは、「どうして1人に何冊も売るんだ」 などと、サークル側に詰め寄るケースもよくありました)、その後 書店委託 もポピュラーになり、同人サークル 側も最初から会場売りの分と委託販売分を分けて発行したり、持ち込んだりするようになり、こうした混乱はあまり起こらなくなりました。
しかし業者とまではいかない、一部の素人的な転売が横行 (罵倒語の 厨 を接尾して 「転売厨」 などとも呼びます)。 近年は、それらの排除のために 「1人1冊のみ」 の 「1限」 は、増える傾向にあります。
同人サークルやその 同人作家 は、何より 「本当に自分の作品を欲しいと思ってくれる人」、そして 「実際にイベント会場で並んで買ってくれる人」 に、できるだけ手渡したいと思っています。 この販売制限は、そうしたサークル側の気持ちの表れや強い意思の表示ともいえます。