焼肉ジュージュー美味しそう… 「シズル感」
シズル感といえば冷えたグラスに水滴 |
「シズル感」 とは、写真などでの撮影・表現手法のうち、「被写体の魅力が伝わる」「美味しさや新鮮さが実物を前にした時のように感じられる」 といったような内容を表わす言葉で、元々は広告宣伝業界で使われていた言葉です。
語源は肉などがジュージューと音をたてて焼けている様の擬音、「Sizzle」 からで、焼肉の美味しそうな香ばしい匂い、もうもうと立ち込める煙や音までが見る者にダイレクトに伝わるような写真、食欲を強く惹起する映像・音響表現などを表します。
広告などでは宣伝している商品の形や名称だけでなく、消費者の購買意欲を刺激する美味しさのイメージを伝えることが大切ですから、業界に 「シズル感」 のある 「絵作り」 ができる人 (「シズル職人」 などと呼ばれます) が大勢います。
例えば宣伝するものがビールの場合、キンキンに冷えたビールの美味しさを伝えるために、写真撮影でグラスに水滴をつけるなどですね。 スタジオでの撮影の場合、照明の熱で冷やしたビールや注いだグラスはすぐに熱くなり、また水滴なども瞬く間に蒸発してしまいます。 したがって撮影寸前に水滴を吹き付けたり、あるいは蒸発しにくいよう、水滴に混ぜ物をしたりします。
初期の頃の 「シズル感」 はこのように、単に商品を良く見せる撮影テクニックや音響効果に長けているといった意味が強かったものが、後には 「その商品がもっとも魅力的に見える場面を 設定 し、シチュエーション そのものを創造する」 にまで ニュアンス が拡張。 さらに写真やビデオなどの 画像 や動画などの映像だけでなく、そうしたイメージを強く喚起するキャッチコピーやフレーズ、文章 (テキスト) まで、その範囲が広がっています。
視覚で味覚を刺激する 「シズル感」
なお、冷えて水滴がついたグラスに注がれたビールや炭酸飲料水などの美味しそうな映像とか、新鮮で瑞々しい野菜や果物の映像などがしばしば 「シズル感」 の説明や例として頻繁に出され、また 「シズル感」 という言葉の語感が 「したたる」「しずく」 といった水滴を連想させる言葉であることから、「水滴がついた瑞々しい状態」「しっとりと濡れてつやつやしている状態」 などの意味で使っている人もかなり多く、「シズル感撮影法」 などを 「水滴を美しく撮影する方法」 などと誤解、もしくは混同されているケースもあります。
実際は、例えばビールの場合は、グラス同士が触れ合ってチンチンと鳴る音、栓を 抜く シュポンという音、グラスに注ぐ音や泡が盛り上がる様など、「ビールを飲む時に感じるあらゆる要素」 を多少誇張しながら分かりやすく魅力的に伝えることとなります。
同人界隈の 「シズル感」 と云えば…
同人 やら おたく 界隈 でのシズル感と云えば、やはり瑞々しくはちきれんばかりに輝く美少女の肌とか、水を吸ってきらきら輝く 水着 などがその代表でしょうか。 本来のシズル感の意味での 「やわらかそうな胸」「温かそうな肌」 とか、サラサラで顔を近づけたら良い香りがしそうな 髪の毛 などもありますが、紙やカンバスに描く 絵 にしろパソコン上で描く CG にしろ、技術がものをいう職人的な世界の言葉なのは、広告業界と同じですね。 Photoshop などを使って、シズル感を強調することに熱中している 絵師 さんなんかも結構いるものです。
イラスト 描きでは、構図やデッサン、色彩同様、こうした質感の表現は極めて重要なものです。 幾何学的、製図的なデッサンの正確さで視覚を 「納得」 させるのも大切ですが、やはり絵などは感覚的、直感的に魅力を感じてこその絵です。 感性と煩悩のままに現実世界を大きくデフォルメし、見る人の本能の中枢を直接刺激する描き方は、訓練だけではなかなか獲得できない、それこそひとつの大きな才能なのかも知れません。
元々 マンガ やCGなどの世界は、モノクロ や 16色 の時代が長かったですし、そうした限られた条件でいかに質感を表現するかが勝負でしたから、「フルカラー」 当たり前の時代となり、その真価がますます発揮される時代となっているのかも知れません。