写真の一部を切り取って絵作り 「トリミング」
「トリミング」(Trimming) とは、写真や動画、画像 の一部を切り出すこと、余計な部分をカットして新しい画角で画面を再構成することです。
元々はスチル写真の世界において、撮影済みの写真の一部分のみを切り出して使うことを指す言葉でした。 銀塩カメラで撮影したフィルムを暗室で現像、プリントする際、一部分のみを切り出したり、プリントした後の写真をハサミで切り取ったりします。 その後はパソコンで フォトショップ などの写真加工ソフトウェアを使って一部を切り出したり、絵画 や イラスト の世界でも、既に完成した作品の一部を切り出すことをトリミングと呼ぶようになっています。
トリミングの、写真や絵画における考え方
写真撮影ではカメラを使って撮影した人、すなわちカメラマンが作品としての写真の 作者 であり、絵画で絵筆を走らせる 画家や 絵師 の場合も同様です。 作者がいなければ作品は生まれず、また完成もしません。 一方トリミングの場合は、作者が自分の作品に手を掛けるケースもあれば、既に一枚の写真、絵画として完成したものを、第三者が後から 「加工」 することも可能となります。
写真撮影にせよ絵画作成にせよ、作者は画角や画面全体の構成を考えて 「絵作り」 をしている訳で、作者本人が手を掛けるならまだしも第三者による加工・改変は、作者の意図を冒涜し、完成した作品を破壊するものだと強い批判を浴びる場合もあります。 また作者本人によるトリミングでも、写真撮影の際の臨場感やインスピレーション、絵画描写時の感覚を喪失させ、作品の持つ意味やメッセージを歪めるものだと否定的に扱われる場合もあります。
これは美術作品としての写真や絵画だけでなく、報道のための記録写真や、説明のための図案などでも同様でしょう。 ただし写真撮影や描写の時点で、制作意図に沿ったフレーミングは 「最初の作者」 によってされているので、その時点で 「真実をありのままに活写したもの」 とは言いがたく、論じても意味がないとの意見もあります。
なお写真にしろ絵画にしろ、奥行きのある作品の場合、トリミングすることによって画角が狭まり、結果的に奥行きが スポイル されるのは強く認識するべきでしょう。 また同じサイズの紙などにプリントする場合は、トリミング前のプリントに比べ、一部分のみを拡大することになり、画質が荒れるなどの問題もあります。
写真のトリミング例
トリミング前 | トリミング後 |
技術や機材を誇るための作品におけるトリミング
制作意図などとは異なった観点での、トリミングの難しさもあります。 例えば野鳥や航空機の撮影などでは、シャッターチャンスを辛抱強く待つ忍耐力の他、高価で大きな望遠レンズと、それを自在に使いこなすカメラマンの腕が必要です。 遠くの小さな鳥、高速で飛ぶ航空機を画面にバランスよく入れるのは難しく、逆にそれが上手くゆくと自慢の一枚となるでしょう。 トリミングしてしまうと、ある程度修正ができてしまうので、それがアピールできないという問題点があるのですね。
そのため、フィルムの時代はコマより大きな画角でプリントを行い、縁をあえて残して 「トリミングしていない」 のをアピールしたり、デジカメの時代になっても、未編集であるのを示すために Exif 情報を消さないなどの配慮をする場合もあります。
これは絵画でも似たようなもので、制作時にはデッサンもバッチリ決まったと思って描いたものの、後で画面の一部に修正不可能なほどのデッサンの狂い (プロポーションが明らかにおかしい) を発見した時など、その部分をバッサリとカットしてしまえば、見栄えはかなり変わるでしょう。 しかしこれでは根本的解決にならず、臭いものに蓋をしただけになってしまいます。
自分の作品をウェブサイト (ホームページ) や書籍類に掲載する時など、収まりが良いように一部を切るなどは頻繁にありますし、それ前提に広い画角で絵作りする場合もあります (不要なところは後で簡単に切れますが、存在しない必要な部分を後で付け足すのは面倒だったり難しいからです)。 またそうした用途用の フリー素材 などもあります。 しかし最初の段階からドンピシャと絵作りが決まった方が望ましくはあるのでしょう。