デジタルによる情報インフラの恩恵に浴せる人と、そうでない人たち
「デジタルデバイド」(Digital Divide) とは、デジタル技術やそれを活用した通信インフラや 環境 (インターネット など) がないために、それらを持っている人たちに対して得られる 「情報」 の量や質、速度が劣ってしまうこと、あるいはそれによって生じる社会的、経済的な 「格差」「不利益」 のことです。
多くの場合、その原因は 「貧困」 であったり、新しい技術についてゆけない年齢的 (高齢者など)、身体的 (視聴覚の障害者など)、教育水準もしくは言語的 (文字が読めない) なハンディキャップなどとなりますが、「デジタルデバイド」 によって情報を持つものはより豊かになり、そうでない人、情報弱者 などはさらに貧困になってしまったりして、その格差が拡大する問題があります。
IT (Information Technology) が声高に叫ばれた1990年代末から 2000年代初頭にその 概念 が紹介され、当初はインターネットが一足早く普及したアメリカなどで、ネット の接続環境を持っている人と、そうでない人との、所得格差 (就職情報などの収集に差がでる、デジタル技術を持つ者とそうでない者とで就業後の賃金格差が生じる、など) が問題となりました。
その後、多くの先進国でそれなりに個人パソコンや個人向けネットインフラが整い始めると、今度は先進国と発展途上国との間の格差も、大きくクローズアップされることになりました。
「IT」 の普及により、「仕事そのもの」 が大きく変容
とりわけこの 「デジタルデバイド」 が深刻なものと捉えられるようになったのは、「IT」 の広まりにより業務の効率化が進み、新しい雇用が生まれる一方、既存の仕事や雇用やその 「価値」 が大きく減ってしまう、それによって失業したり所得が大きく減る人がでてくるのが、明白となったことでした。
例えばごく単純な分かり易いケースとして、事務員の仕事などが挙げられます。 事務作業などは、かつては給料日ともなれば事務員が手分けして膨大な現金の仕分けと給料袋への封入、給与明細や支払い表の発行などをしていました。 しかし 「IT」 化が進むことにより、給与は銀行に オンライン で直接送金できるようになり、また給与計算や明細の発行、支払い伝票の作成なども、表計算ソフトや会計ソフトなどで少人数で簡単に素早く行えるようになりました。 結果、パソコンが使えない事務員は仕事を失い、事務という職種そのものの人員も大きく削減されることとなりました。
もちろんパソコンのハードウェアの製造や、ソフトウェアの 開発 スタッフや技術者など、新しい業態、雇用の創出もありますが、それまでソロバンや電卓で事務作業をやっていて失業した人がそれらの業務につくのは現実的ではありませんし、製造業や流通など、多くの 「人手でやる仕事」 も、「IT化」 により人的コストの削減を行うようになっています。
こうした、既存インフラや業務の 「IT化」 により、格差は急速に広がり、とりわけ 2000年頃には、先進国首脳会議などでこの 「デジタルデバイド」 が話し合われることとなりました。 以降先進国では国家プロジェクトとしてデジタルインフラの整備と、デジタル技術の裾野への浸透を図って格差解消に努め、途上国も先進国の支援などを受け、格差の穴埋めを行うようになっています。
日本はデジタルデバイドがある国? 規制や既得権で進まない新情報サービス
国が貧しくて情報インフラが整わない、国民の所得が低くてそれらを利用できない…というのがデジタルデバイド、情報格差の基本的な考え方ですが、例外もあります。
例えば日本は経済的には十分に豊かで各種情報インフラ普及率も先進国でトップクラスでありながら、ネットを利用した コンテンツ 配信、情報往来など一部の分野で欧米に著しく立ち遅れている状況もあります。 既得権やアナログ時代の慣習、中間業者による過度の 著作権 の保護や利益の分配の慣例などがそのまま生き残り、規制や様々な押し付けルール、使いにくい独自規格、割高で使いにくいソフトやハードなどによって、健全な情報取得や情報発信が妨げられるケースです。
日本における音楽のネット配信や、テレビ放送のネット対応、電子出版 (デジタル書籍) の立ち遅れや割高な価格の 設定 は、他の先進国と比べ、2000年代を通じて極めて深刻な格差状況になっているといって良いでしょう。 アメリカなどでは音楽はネットで簡単に、しかも安価で手に入れられますし、テレビなども多チャンネルを気軽にネットで楽しめます。
電子書籍・電子出版 (電子ブック) では、1990年代の MS Book Shelf の時代には、CD-ROM 供給 の電子書籍には積極的だったものの、「インターネット」 と専用端末を本格的に利用する時代となると一気に減速。 2000年代となり、欧米ではアマゾンの電子端末 「Kindle」(キンドル) やソニーの 「VAIO X」(リーダー)、Appleの 「iPad」 などが、それぞれ膨大な書籍を 電子化 して安く便利に読むことができます。 しかし日本では出版社が電子化の取り組みを2010年1月になってやっとはじめ、具体的な検討と実験をまだやっている状態です。
これらは、今すぐには大きな影響を与えないとしても、10年のスパンで見たら日本人の情報取得、教養の醸成に、欧米と比して大きな負の影響を与えかねません。 新しい情報技術、インフラが出るたびに、常に新しいデジタルデバイドが生じる可能性があります。 そしてそれは豊かさや教育水準以外の理由で、新たに拡大する可能性があるのです。