生まれた時からデジタル情報機器とサービスに囲まれて育った世代…デジタルネイティブ
「デジタルネイティブ」(Digital Native) とは、生まれた時から、もしくは物心ついた頃から、デジタル技術やそれを活用したインフラや 環境 (ネット など) と、それに伴う 「ものの考え方」 などに取り囲まれて生活し、親しんできた人たち (世代) を指す言葉です。 別の言い方をすると、「デジタルオンリー世代」(デジタルのない時代を知らない世代) となります。
「デジタルネイティブ」 に近い似た言葉には、デジタル市民とか ネット住民、ネチズン、あるいは マルチメディア が流行語の頃の マルチメディア世代、IT革命 後の IT世代 なんてのがありますが、これらには 「出身地」「国籍」 とも云うべき個々人の出自が 概念 に含まれていません。
デジタル技術やネットを使ったことのない人、あるいはそういうものが存在しない過去の状態を知っている人が、後にそれを踏まえてデジタルを使うようになったケースと、「そもそもデジタルが存在する状態しか知らない、わからない」(過去の情報ネットワークや組織のありように一切影響を受けない) ケースでは、おのずとデジタルに対する考え方も違うでしょう。 つまり 「デジタルネイティブ」 は、「デジタル育ち」 ではなく、「デジタル生まれ」 とも云うべき概念で、それ以前の世代と決定的に違うと考えるべきかも知れません。
なお、ここでいう 「デジタル」 とは、もっぱらコンピュータや携帯電話などを使ったデータ通信と、そこで送受信されるデータそのものを表します。 つまりネットワーク上で展開される各種サービス (メール や チャット、ウェブサイト (ホームページ) や 掲示板、ブログ、SNS、検索による情報取得、動画や写真の 共有 のためのサイト、音楽や映像 コンテンツ の ダウンロード による販売、ポッドキャスティング、ゲーム、さらに 通販 など) と、それらから得られるメリットと生活様式を網羅的に指す言葉となります。
当然ながら時代を経るごとに 「デジタルネイティブ」 の比率が高まり、それは 「新しい価値観、社会のありようを作る」 という期待感、前向き、未来志向な時代の中心の世代として見られますが、旧来の価値観との衝突も避けられず、様々な問題を起こす可能性をも持っています。
デジタル世代と、デジタルオンリー世代とはどう違うのか
前述した通り、似たような概念、言葉としては、パソコン (マイコン) が一般家庭に入り込み、テレビゲームが流行し、1980年代に パソコン通信 が生まれ、1990年代に携帯電話の普及とデータ通信が始まった頃に、それぞれの時代で 「デジタル世代」 とか、「もう○○がない時代は考えられない世代」 のような文脈でかつて様々に取り上げられてきました。 その後これらサービスが出揃い子供でも手を出せるようになった1990年代末頃から、概念として本格的に提唱されるようになりました。
とりわけネット接続やメールの送受信が可能な携帯電話の普及がもっとも大きなファクターで、「子供の頃からそうした携帯電話 (と、そのネットワーク、サービス)」 が存在し触れてきた世代とそうでない世代との違いを際立たせる言葉となっています。
デジタルネイティブが大きく話題となった直接の発端は、ピーター・ソンダーガード氏の定義
言葉として現れたのは、2006年10月にアメリカ、コネチカット州スタンフォードに本拠地のある 「ガートナー社」(Gartner/ 1979年創設/ ICTアドバイザリ) のリサーチ部門の最高責任者、ピーター・ソンダーガード氏 (Peter Sondergaard) が、
「Digital Natives Lead Enterprise IT」(2006年10月20日)
「企業のIT革命をリードする「デジタルネイティブ」世代」
「Digital Natives Will Drive Web 2.0 into Your Business」(2007年9月20日)
「デジタルネイティブ」が導くエンタープライズ2.0」
などとの テーマ で、生まれた時からデジタル機器に囲まれ、物心付く頃から使いこなして来た世代、より狭義には、「ジェネレーションY (1980年以降に生まれた世代)」 で、インターネット によるインタラクティブ (双方向/ Interactive) なサービスを物心ついた頃から使っていた世代」 を 「デジタル・ネイティブ(Digital Native)」(デジタル世界の原住民) と定義 (2006年段階で、16歳未満) し、繰り返し主張。
またそれ以上の世代を 「デジタル・イミグレイト(Digital Immigrate)」(デジタル世界への入植者、移住者) とし、それに比べると 「デジタルネイティブ」 は 「新しい人類の登場に近い」 と論評。 新時代と新人類の分類をすると同時に、来る10年後の世界のIT業界の変化の予言を行いました。
この定義や話は、前後に他の有力企業やアナリストらも支持。 また Microsoft のスティーブン・アンソニー・バルマー(Steven Anthony Ballmer) なども支持した上で類似の概念を述べるなどし、「web 2.0」 などと一緒に日本でも当時話題となりました。 現在の 「デジタルネイティブ」 の直接の語源は、このピーター・ソンダーガード氏の公演が元となっています (言葉自体は、ガードナーのアナリストらが使い始めた言葉です)。
アナログをデジタルに 「翻訳」 するのではなく、最初からデジタルで思考
これらの言葉が大きなインパクトを持っているのは、旧来の 「デジタル世代」 が、しばしば既存の機器やサービス、システムを、アナログからデジタルへの置き換えのような感じで 開発 し、発展させてきたのに対し、「そもそもアナログレコード (さらには音楽CDすら) や写真フィルム、手紙を見たこともない、もしくは利用したこともない世代」 が、どう考えているかわからない…(逆に云うとこれまでとは全く違う可能性を持っている) との認識が、旧来のIT技術者や開発者、プランナーに強まっていることがあります。
とりわけ 「個人の情報発信」「不特定多数との双方向の情報発信」 については、ネットの登場以前にはほとんどその方法がない、もしくは極めてハードルが高かったので、「無料」 で 「手軽」 に、しかもほぼ 「リアルタイム」 で 「世界中に発信」 できるというのは、価値観の大転換です。
デジタルによりデータの複製が簡単になったのとあわせ、文字通り 「農業革命、産業革命に続く、人類第三の革命である、情報革命」 と呼ぶに相応しい大きな衝撃がありました。 「デジタルネイティブ」 は、これらの環境が 「あって当たり前」「ない状態が想像できない」 世代となります。
2006年段階では、まだ 「利用者」 に過ぎない彼らが (それでも既存サービスの、旧世代には思いがけないような利用法で、大きなインパクトを与えていますが)、今後 10年の間に 「開発者」「技術者」 として、「サービスを提供する側」 として成長した後に何が起こるのか、極めて興味深いテーマとなっています。
なお対義語、反対語としては、前述した 「デジタル・イミグレイト」(デジタル移民/ 入植者) か、もしくはデジタルと無縁の 「アナログ世代」 などが当てはまります。
一般的に 「アナログ世代」 などは、「古臭い頭の持ち主」 の揶揄のような意味で使われるケースもありますが、新しい古いではなく、連続性が失われるほどの価値観の違いを有する両者が、今後しばらくどのように反発したり歩み寄るのか、とても面白い時代になっているような気がします。
ビジネスの世界では、パソコンや携帯電話が使いこなせない人に、もう重要な仕事が任されることはなくなるでしょう。 趣味 の世界、文化や娯楽の世界では、どうでしょうか。 文章だけでなく、画像 も音楽も映像もゲームも、そして時間やお金でさえも、すべて同じ箱の中のコンテンツのひとつとなり、個人と大企業の違いもなければ、近所と海外の違いもない。 しかしリアル社会では厳然と、そうした垣根は残っていますし、今後も残り続けるでしょう。 その折り合いをどうつけて、垣根を取っ払う (あわせられるものは全てリアルをデジタルにあわせる) のか。 興味は尽きません。
2008年、NHKスペシャルで取り扱われ流行語に
2008年9月、NHKスペシャルで、「デジタルネイティブ」 をテーマに取り扱った番組が予定され、特設サイトも同年7月に開設。 話題となり、「デジタルネイティブ」 という言葉もますます広まっています。 NHKスペシャルが発端で専門用語が一般に浸透するケースは多いのですが、これもそのひとつになるのでしょうか。
もっとも、「デジタルネイティブ」 には、例えばメールや掲示板の 書き込み などがどういう仕組みで動くのか全くわからないし、わかる必要もない…との意味もあるのですが、これが転じて スイーツ(笑) や ゆとり などと同様に 「デジタルネイティブ(笑)」 などと改変されて罵倒用語、ネガティブ 用語になりそうな感じがすごくしますが…。