日本ではほとんど普及せず、お隣の国のネット民を指す場合が多い 「ネチズン」
「ネチズン」(Netizen) とは、ネット市民という意味の言葉です。 すなわち、ネット (パソコン通信 や インターネット) を積極的に利用している人、単に情報を受取るだけでなく、特定の 掲示板 や ブログ、SNS、動画共有サイト、チャット などの 「コミュニティ」 を中心にネット世界に属する人たちのような意味になります。
「ネチズン」 発祥とされるニュースグループを 主催・運営していた Michael Hauben 氏のサイト 「The Netizens Cyberstop」 |
言葉の成り立ち、元ネタ は、そのまんまですが 「ネット」(Network)+ 「市民」(Citizen) となり、1990年代にアメリカのコロンビア大学で初期のインターネット利用によるニュース グループ において、名称に 「net.citizen」 が登場。
さらにこの 「net.citizen」 が Michael Hauben 氏によって省略され、「Netizen」 とされたのが (1993年)、そのルーツとも云われています。
ことさらに 「市民」 という言葉が使われたのは、パソコン同士を結んだネットという世界を、新しい世界、これまでにない平等で自由な世界だとした上で、参加者が距離や時間、立場などに関わらず互いにフェアなポジションで繋がり合う、そうした意識を持って参加したいとの前向きで肯定的な意味が強く込められています。
日本では普及しなかった 「ネチズン」
ネットに何かを接尾して新しい 概念 を言語化するケースはたくさんあります。 ネットとエチケットを結びつけた ネチケット などもそうですし、ネットの中でだけ女性のふりをするオカマを ネカマ、ネットでの友達を ネトモ などと呼ぶのもそのパターンの一つです。
日本でも1990年代にはパソコン通信や初期のインターネットが徐々に広がりはじめ、こうした言葉がアメリカから持ち込まれたり日本でも作られたりしましたが、ネチズンに関しては、あまり広がりませんでした。
パソ通の時代はそれぞれのホスト局が独立し、会員同士の相互乗り入れなどは原則として実現しませんでしたから、ホスト局にちなんだ名称になったり (例えば NiftY-Serve なら ニフの人 など)、インターネットの時代なっても 2ちゃんねる のユーザーを 2ちゃんねらー (ねらー) と呼ぶなど、ネット全体のコアなユーザーを呼ぶ言葉が使われなかった事情もあります。 またネチズンという言葉の耳障りがよくないとの理由も小さくないでしょう。
その後、2ちゃんねるを中心として様々なネットサービスを横断して利用する人たちを ネット住民・ネット民 といった用語で呼ぶことが広がり、ネチズンはほとんど使われることのない言葉になっているといって良いでしょう。
何かと話題のIT大国 韓国のネットユーザーをあらわす代名詞に
「ネチズン」 によって執筆され、大統領選挙に 大きな影響を及ぼした韓国の市民ニュース サイト 「OhmyNews」(2000年) |
一方、お隣の国、韓国では、ネットで意見表明する人たちをネチズンと呼称することが定着。
これが日本にも伝わり、韓国の ネタ (しばしば強い反韓感情を伴う) を扱う場で、韓国のネットユーザーを侮蔑的に指す言葉としてネチズンが多用され、2000年代中頃には ネガティブ、揶揄の ニュアンス を含む 「韓国の反日でうるさいやつら」=「ネチズン」 といった使い方が、ある種の ネットスラング (ネット用語) として広く定着するようになっています。
これはひとつには、韓国のニュースサイトなどで、韓国内の反日にまつわるニュースなどでネチズンを好意的に扱い言葉を使い続けていたこと、2000年に 運営 を開始し、後に大統領選挙における盧武鉉氏 躍進の原動力となったのがネチズンだったことを日本の一部マスコミなどが極めて好意的に伝えていたことに、日本のネット民の多くが嫌悪を覚えていたこともあります。
こうした感情を持つ人たちが、左翼的な人たちが好んで使う 「◯◯市民」(例えば地球市民) という言葉を元々強く敵視している状況もあり、すっかり 「負の名称」 として、ネチズンが定着してしまったのでした。