賞賛? 呆れ? 「日本人はイッちゃってるよ。あいつら未来に生きてんな」
「日本人はイッちゃってるよ。あいつら未来に生きてんな」 とは、外国人には全く理解できない日本人の 趣味 や熱気、活動などに対し、呆れながら冷ややかに見守りつつ揶揄したり、反対に感嘆・賞賛したりもする、独特の ネットスラング のひとつです。 単に 「あいつら未来に生きてんな」「こいつら未来に生きてんな」 だけの場合もあります。
理解出来ないもの (理解したくないもの) を 「古臭い自分には理解できない新しいもの」 と持ち上げつつ、実は批判するという言葉の使い方はよくあります。 古くは1980年代後半によく使われた 「新人類」 などがその代表でしょう。
この言葉は、そうした ニュアンス を持ちつつ、外国人の目や声を通して、おたく な趣味などを、「日本の恥だ」 と罵倒するような使い方がもっぱらとなっています。 しかしその後の使われ方や用途の広がりなどによって、意味も微妙にスライドしています。
謎の日本製アイテムを見せられた外国人が 「あいつら未来に生きてんな」
「日本人はイッちゃってるよ。あいつら未来に生きてんな」 の 元ネタ ですが、2006年6月16日に NHK の英語トークバラエティ番組 「英語でしゃべらナイト」 において、日本人の作ったおかしな アイテム (直接的には、明和電機の 「魚(ナ)コード」(魚の骨の形をした電源コード) を見せられ、インタビューで感想を求められたイギリス男性の反応からといわれています。
番組では日本語訳の字幕をつけていて、その字幕がこの文字列だった訳ですが、その後、この時のキャプチャ 画像 とされる画像が 掲示板 や画像掲示板などで ネタ への ツッコミ としてしばしば使われ、フレーズ自体も広く使われるように。
この広まりはしばらくしていったん収束しますが、2010年、初音ミク の東京でのライブコンサートにまつわる話題で、再びネタとして ネット の世界で頻繁に登場。 ミク効果で一気に火がつき、「日本人はイッちゃってるよ。あいつら未来に生きてんな」 というフレーズも流行語の扱いになっています。
初音ミクのコンサートを見た外国人が 「あいつら未来に生きてんな」?
Dream Harmonic - Corolla + Miku: Big Dream アメリカトヨタ (ToyotaUSA) の 新車キャンペーンに起用 (2011年5月6日) |
Google Chrome: Hatsune Miku (初音ミク) 検索大手 Google のブラウザ Chrome の キャンペーンCMにも起用 (2011年12月14日) |
ロンドンオリンピックの歌手投票で 1位を獲得 (2012年1月17日) |
初音ミクとは、2007年8月31日に発売された 「DTM」(デスクトップミュージック) 用の音源ソフトウェアです。
この初音ミクが、CG による立体映像で 会場 のステージに登場するライブコンサートが2010年3月9日に東京で開催 (ミクの日感謝祭)。 この様子をみた外国人の感想という触れ込みで、前述したイギリス人のキャプチャ画像などが再び頻繁に登場するように。
このコンサートの様子は 動画共有サイト YouTube などで流される一方、「訳のわからない架空のキャラに熱狂する日本人」 といった批判的なトーンで、主にヨーロッパのテレビや新聞などで話題として触れられていました。 その様子が日本で話題になった際に、文脈としてこのフレーズが、とても使いやすかったのでしょう。
当初は主に初音ミクの アンチ らが、「日本人として恥ずかしい」「日本の恥だ」 といった文脈で、ミクやミクの ファン らを 煽ったり、揶揄・罵倒する意味で使うケースが多かったのですが、ネタとしてファンの側も好意的に触れるケースもあり、後半はこちらに主軸が移った形です。
米トヨタCM起用、米ライブの成功、Chrome のCM…
こうした意味の変化は、その後実際に初音ミクの認知度や人気が海外で上がったのも大きいようです。 なかでも全米トヨタ・カローラのテレビCM起用を中心に、アメリカにも初音ミクが本格的に上陸したのは大きなニュースでした。
初音ミクは元々海外でも、日本のオタク文化に興味のある人達の間で話題になってはいたのですが、アメリカ・ロサンジェルスで 6,000人を動員したコンサート 「MIKUNOPOLIS 2011 in LOS ANGELES −はじめまして 初音ミクです−」 の成功などもあり、「結局アメリカ人も日本人と同様に、初音ミクに好意的じゃないか」 とのムードが強く漂うことに。
さらに2012年の Google のブラウザ、Chrome (クローム/ チョロメ) のCMに初音ミクが起用され話題となったり、日本のファンとは無関係に海外の初音ミクファンが 「ロンドン・オリンピックのオープニングで歌ってほしいアーティスト」 のアンケートに初音ミクを選ぼうと投票を呼びかけるなど動きも活発化 (海外の画像掲示板、4chan のユーザーらが中心で、それ以前までランキング上位を独占していた K-POP 韓流の ステマ へのアンチテーゼでもあった)。
「あいつら未来に生きてんな」 というフレーズも、半分は 自虐的 なギャグ、ネタだとしても、残り半分は良い意味で 「時代を先取りしていた」「俺達は未来に生きているんだ」 とのニュアンスに変化しつつあるといって良いでしょう (主に初音ミクファン、信者 の間ではありますが)。
こうした、本来は罵倒表現としてネットスラング化した後に意味がひっくり返ったものは初音ミクがらみではいくつもあるのですが (胸熱 や 引っくり返るよ、当然、ただ天 など)、これもそうした言葉の仲間入りといったところでしょうか。