おたくをフルボッコ? TBS 「ふーん、ご立派ですね」
「ふーん、ご立派ですね」 とは、慇懃無礼に人を小バカにするような ニュアンス の言葉です。
ある種の ネットスラング となりますが、一般的にも丁寧で褒めるような言い方で相手をバカにする、くさすような表現としての 「ご立派ですねぇ」 なんて使い方がありますから、元ネタ 以前に 普通 の日本語ではあるのですが、ネット 上の 掲示板 やコミュニティでは2007年後半から、主にマスコミ (マスゴミ と呼ぶことも) に対する揶揄、罵倒表現としてよく使われるようになりました。 「ふーん」 がなく、単に 「ご立派ですね」 と云う場合もあります。
TBS 「アッコにおまかせ!」 で 「ふーん、ご立派ですね」
深夜アニメと捏造報道で人気のTBS |
使われるようになった発端ですが、TBS系列のテレビ番組 「アッコにおまかせ!」 の2007年10月14日昼の放送 「教えて!ルーキーワード 巷で密かな大ヒット」 の特集ビデオの内容からとなります。
この日の放送では、DTM (デスクトップミュージック) 用音源ソフトウェア、初音ミク (はつね みく/ 2007年8月31日発売) を取り上げていました。 騒動は、取材VTRで自宅を訪問し取材した愛用者であるミクユーザーを、まるで珍獣かのように扱い、変わり者の物珍しい オタク を嘲笑しバッシングするような内容としてまとめていたことに始まります。
この ファン は mixi のミクコミュニティの人物で、ミクに自作の歌詞を歌わせ、自身は仲間とともに楽器を演奏して ユニット のような形で放送にVTR出演しました。 その際、部屋に ゲーム の キャラクター の ポスター (ToHeart2/ 向坂環) が貼られていて、それを 俺の嫁 と呼んでいたり、ライブ衣装として セーラー服 や メイド服 があったこと (わざわざ演奏とは別に異性装の コスプレ 姿を撮影して静止画で紹介) していたこともあり、番組ではミクそっちのけでこの興味深い人物を面白おかしくクローズアップするような内容に。
最後に 「でー、普段は何を?」 とナレーションの形で職業を訊かれたこのユーザーが、「コンビニでアルバイトを (しています)」 と返答すると、「ふーん、ご立派ですねえ」 とナレーションが応じて2分半ほどの特集ビデオは終了。 この 「Q.普段は何してるの?」「コンビニでアルバイト」「ふーん、ご立派ですねえ」 の一連のやり取りが、直接の元ネタとなります。
開発元の関係者ブログで 「お詫び」 が掲載される異常事態に
10月14日のテレビ放映に関しましてご報告とお詫び |
この特集ビデオでは、冒頭にドラマ 「電車男」 のOPでも使われた音楽 「TWILIGHT」(Electric Light Orchestra) がBGMとして使われ、また 秋葉原 の街頭インタビューから始まるなど、いわゆる 「アキバ系」 を強く意識した内容となっていました。
その後 開発・発売元のクリプトン・フューチャー・メディアの担当者へのインタビュー、ソフトの説明、そしてユーザーの自宅取材と続くのですが、クリプトン社のインタビュー内容は 「モー娘。のつんく♂さんのようにアイドルをプロデュースするソフト」 という首を傾げたくなるような内容でした。
この意味不明な説明については、番組側からインタビュー内容の指示が台本の形であったと後に同社の公式ブログで コメント が出されましたが、「10月14日のテレビ放映に関しましてご報告とお詫び」 と題した声明では、取材に協力したユーザーに謝意を述べる一方、番組内容そのものには 「番組を見た初音ミクファンの方々を不快にさせてしまったことを謝罪します」「取材を甘く考え、このようなことになってしまい本当に情けなく、また申し訳ない」 と詫びるなど、異例のエントリーとなっていました (このエントリーには、同社への激励とTBSへの批判コメントが殺到)。
肝心の初音ミクの歌声などはほとんど流れず、TBS側の初期プロットでは、初音ミクの音声データを提供した声優の藤田咲さんとユーザとの 「どっきり対面コーナー」 が予定されていたなど、局側の 「初音ミクというソフト」「それを愛用するファン」 に対するあまりの無理解、勘違いぶりも露呈。 その幼稚で軽薄な発想が怒りとともに失笑を招くものとなっていました。
一方、放送終了後数十分で番組の動画が 「ニコニコ動画」 にアップされ、掲示板 2ちゃんねる には関連 スレッド が乱立。 問題となったユーザー本人も、とあるスレッドに現れて状況の説明などを行いました (元々持っていた音楽データは不採用となり、急遽新しいオリジナル曲を用意することになって準備不十分な取材となった、またあらかじめ演出についてある程度の脚本や指示があった…などの説明と、その証拠として取材用書類をキャプチャーした 画像 などがアップされました)。
しかし初音ミクファンらの 「ミクの初めてのテレビデビューがこのような形になったこと」 への怒りは収まらず、その日のうちにTBSを批判する MAD などが 動画サイト に登場。 そのまま大きな お祭り へと発展することになりました。
あまりに非常識な 「札付きの放送局」 TBSの対応
近年凋落著しいTBS |
確かにマスコミ対応などに不慣れだとは云え、多数の製品ファンを持つ発売元の担当者が取材を受ける際に、安易に相手の言うがままになってしまったのは落ち度があったのかも知れません。 大手メディアに注目されて舞い上がったり、製品知名度のさらなるアップへの甘い打算もあったのかも知れません。
また面白おかしく放送されることがある程度予想されたにもかかわらず、取材を受けて取材班の要望に頑張って応えすぎてしまったユーザーにも、もしかしたら責任の一端はあるのかもしれません。
しかし、何か悪いことをしたわけでもなく、ただ一所懸命に仕事や 趣味 に打ち込み、それが世間で評価されて話題になっただけの一般人、それも番組側からの取材申し込みに快く応え、時間を割いて番組つくりに協力してくれた人を、このような形で裏切り嘲笑する形で扱うTBSやスタッフの放送局以前の一般企業、社会人・人間としてのモラルのなさ、常識のなさ、異常な悪質さは、奇行が目立つマスコミの中でも特筆すべきものがあります。
かねてから TBS が批判されていたこと、そして 「画像検索からミクが消えた」 事件
この問題がこれほど迅速にまた大きく広がったのには、初音ミクが話題となっていたこと以外にも、いくつかの理由があります。 まず第一に、かねてからTBSのおかしな報道姿勢や、あるいは過激派輸送やオウム事件への関与、石原都知事発言捏造や不二家捏造バッシング報道を始め、不祥事の数々がネットで問題となっていたことがあります。
とりわけこの放送のあった直前の10月11日夜には、TBSが全面的にバックアップし、同番組でも盛んに宣伝していたボクシングの亀田親子の次男、亀田大毅選手と、WBC級王者、内藤大助選手とのありえない試合 (亀田側の常軌を逸した反則だらけの試合) がありました。 この試合後初の放送となる 「アッコにおまかせ!」 に、「いったいどう言い繕うつもりなのか」 と、TBSに批判的な人たちの好奇の目が集まっていたことがあります (ちなみに亀田側にはあまり触れず、内藤大助選手を絶賛する内容でした)。
またもうひとつの要素としては、この放送の直後に 「ネットで初音ミクでイメージ検索しても無関係な画像ばかりでてくる」 という 「事件」 があり (これは単なる検索エンジン側のインデックスの遅れだと思いますが)、「既存の音楽業界にべったりのテレビ局や広告代理店が、初音ミクをバッシングし潰そうとしているのではないか」 との憶測が、大きな騒ぎとなった点もあります。 これらが相乗し、騒ぎは大きくなり、「ご立派ですね」 という言葉も各地に伝播。 その後しばらくは TBSやマスコミの不祥事や問題などが起こるたびに、「ご立派ですね」 などと揶揄することが流行る結果となりました。
ちなみにこの 「お祭り」 の最中に出てきたネットスラングとしては、この他に 飽きた寝る や ひっくり返るよ、当然、胸が熱くなるな などがあり、ミクがらみの言葉では他に、振り込めない詐欺 や ただでさえ天使の○○が などもあります。