風が語りかけます… 「うまい、うますぎる」
「うまい、うますぎる」 とは、人が作ったものを褒める際の常套句のひとつです。 食べ物のおいしさを指す使い方がオーソドックスですが、絵 や イラスト などその他の創作物に用いることもあります。 「うまい」 に加えて 「うますぎる」 ですから、ほぼべた褒めの最上級な称賛ということになりますが、おたく用語 や ネットスラング でもあるため、ネタ やシャレとして気軽に使われることも多いでしょう。 逆に 「ひどい、ひどすぎる」 みたいなアレンジがされることもあります。
フレーズ自体はありふれた日本語表現ですが、直接の 元ネタ は埼玉県が誇る銘菓 「埼玉銘菓・十万石まんじゅう」(株式会社十万石くさや) のテレビCM のナレーションから来ています。 いわゆるローカルCM のひとつであり、各地域の面白CM を語る中でよく触れられる 鉄板 もののひとつでしょう。 ちなみにテレ玉 (テレビ埼玉/ TVS) においても 昭和 の時代から頻繁に流れる、お茶の間でおなじみの存在となっています。
CM 自体はシンプルで、尺八の音色と共に画面に竹林や鹿威しの竹筒から水が流れる様子が描かれ、合わせて男性ナレーターによる 「風が語りかけます」 との語りが入った後、画面がまんじゅうを頬張る女性 (まんじゅう姫) を描いた板画 (棟方志功さん作) に切り替わり、合間に雀のチュンチュン声を入れつつ 「うまい、うますぎる」 と決め台詞が登場します。 そのまま商品や店舗の画面になって 「埼玉銘菓・十万石まんじゅう」 と続くものとなっています。
板画家 棟方志功さんと 「うまい、うますぎる」
この言葉のルーツは、CM にも描いた絵で登場する世界的な板画家 棟方志功さんと、当時行田名物として十万石まんじゅうを販売していた同まんじゅうの考案者で創業者の横田信三さんが、書道家 渥美大童さんの仲介で 1953年に出会ったことに始まります。
横田さんはさっそく自慢のまんじゅうを棟方さんに差し出したところ、そのあまりのおいしさに次から次へと5つも食べ、6つめに手を伸ばした際に 「うまい」「行田名物にしておくには」「うますぎる」 と語り、これが行田名物から行田銘菓へ、ひいては埼玉銘菓へと育ち、そしてまた 「うまい、うますぎる」 になったきっかけなのでした。
また一般にまんじゅうを漢字で書くと 「饅頭」 ですが、棟方さんは 「このまんじゅうが全国に広く知れわたる事を願ってこの字にした」 とあえて 「幔頭」 とし、同社の地元にある忍城のお姫様をイメージして描いたのが CM に登場する 「まんじゅう姫」 の板画ということになります。 このエピソードは 「うまい、うますぎる」 誕生秘話として同社によって紹介されています。
行田市 (旧忍藩) と10万石
埼玉は武蔵国 (現在の東京や神奈川の一部も含む) と呼ばれ、江戸時代には江戸のおひざ元にあって川越藩の一部地域が小京都と呼ばれるほどの繁栄をしていました。 同社が存在する行田市 (旧忍藩) の10万石という石高も、全国に200ほど (時代によって数が変わる) もあった大名家の中では大きな方で、城主大名で、かついわゆる大大名と呼ばれるランクでした。 ある意味地元自慢の誇らしい名前であり、おたく や ネット においてもナレーションのインパクト、一方で10万石以上の大藩地域出身者の ツッコミ が入れやすいなど、笑えるネタとして愛される存在でもあります。
ちなみにこの地にあるお城 「忍城」 は室町時代の文明年間に成田家によって築城されたとされ、1590年の秀吉による小田原征伐 (北条征伐) の際に秀吉に命じられた石田三成による2万の大軍に攻められ、攻めあぐねて大規模な土木工事までして行った水攻めにも耐えながら、城兵農民合わせてわずか3千ほどで守り抜いた城として有名です (小田原落城後に開城)。 関東7名城のひとつに数え上げられることもあります。 マンガ や映画にもなった大人気歴史小説 「のぼうの城」(2007年/ 和田竜さん作) の舞台としても良く知られています (面白い作品ですよ)。 同作に登場する成田家当主 氏長の娘、甲斐姫 (映画版では榮倉奈々さんが演じた役) は、さしずめ まんじゅう姫に当たる存在でしょうか。
その後同地は豊臣政権時代から徳川幕府の江戸時代となり、松平家を中心に一貫して譜代や親藩で老中職といった幕府に近い重臣らが藩主を務めています。 石高は時代によって変化しますが、阿部家藩主時代に10万石で安定。 その後は松平家 (奥平家) へ引き継がれ、そのまま19世紀後半の明治維新を迎えています (戊辰戦争時には新政府側で参戦)。 家格の高さ故か無理をしがちで藩財政も厳しく、借金も多かったようです。 なお忍城は明治時代に取り壊されてしまいましたが、1988年に忍城御三階櫓など一部を再建。 忍城址・行田市郷土博物館として公開されています。
実際の元ネタCM 見ると感動するよね
ちなみに 筆者 は東京住まいなので UHFも受信できますし、家にケーブルテレビが入っていてそれで見ることもできました。 行田に友人もいて、何度か訪れたこともあります。 とはいえ、あたしが若い頃は埼玉や UHF だけでなく、東京の VHF にも深夜帯を中心に 普通 にインパクトのあるローカルCM がいくつも流れていたのでさほど印象に残らず、ネットで流行り始めた頃に改めて見て 「あ、やっぱインパクトあるなこれ」 みたいな再評価をしたりもしました w
コミケ やら埼玉の イベント やらで他地方から 遠征 してきて、宿泊 したホテルのテレビにこれが流れて 「おお、これがうまい、うますぎるの元ネタか」 とテンションが上がる人も結構いるようです。
なおテレビCM が元ネタで、同じような表現を二度重ねることを 「大事なことなので2度言いました」 と表現するフレーズもあります。 こちらは2008年に放送された小林製薬の入れ歯用洗浄剤 「除菌ができるタフデント」 の 「タフデント いいですか編」 に由来します。
美味しさの表現で有名なものでは、「美味しんぼ」 を元ネタとする なんちゅうもんを や 「まんが道」 の藤子不二雄Aさん (安孫子素雄氏) や様々な 作品 で広く使われている ンマーイ、「サザエさん」 から派生した びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛ などもあります。
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