昔からチャーミング・変顔の代表のような目の表情、寄り目
「より目」「寄り目」(よりめ) とは、目の瞳 (目玉) を顔の中央 (目頭の方向) に寄せて作る目の表情のひとつです。 「ヨリ目」 とも書きます。
通常目の瞳の動きは、「物を見る」 ためのものですが、この 「寄り目」 は、自分に対する他人や、あるいはカメラなどに向かって 「愛嬌があり、独特の表情を作る」 のを目的としたもので、「睨みつける」「視線をそらす」「下向きになる」「目を細める」「目が回る」「ガンを飛ばす」 などと同様、感情を表に出したり表現するための動きとなります。
なお、顔のまん前にあるもの、目の中央付近にあるものを見る時にも、もちろん寄り目状態となります。 転じて、物が近づくことを 「寄り目になる」 などと表現する場合もあります (英語圏なんかはそんな ニュアンス が強いですね)。
また極端に緊張したり、あるいは精神が集中した時に自然に目が寄る…という表現をされることも多く、マンガや創作物である種の 「狂気」「極度の興奮」「情熱や精神の昂ぶり」 を表す場合にも使われる、内面を外に出すための表情としての 「記号」 だったりもします。
寄せ方やその程度で、表情が様々に変化、目は口ほどにものをいう…
左画像は、様々な寄り目状態の再現図です。
「寄り目の再現図」
これは再現図です。下のサムネイル画像へマウスオーバーすると、左側に大きな再現図が表示されます。 回線の状態によっては、表示までに少々時間がかかる場合があります。 | ||
チャームポイントとして認識される 「寄り目」
寄り目の元祖、あるいはルーツは、文化的観点、創作物の歴史などに限ってみても、当然ながらほとんど特定不可能です。
しかし目の 病気 や怪我などの障害で先天的、もしくは後天的に 「寄り目」 になってしまう人を除けば、本人の意思で意図的に目を寄せる 「寄り目」 は、かなり昔からある種の 「チャーミングな目の表情」「仕草」 として認識はされていたようです。
とりわけ女性がする 「寄り目」 には、ある種の性的な魅力、エロチシズムを感じさせるものがあるようで、おどけてみせる 「寄り目」 に弱い男性はかなり多いようです。 これは女性の側も心得ているのか、写メールやプリクラなどの撮影では、ユーモラスな 「変顔」 の意味も含め、「より目」 は非常によく見かける撮影パターンのひとつともなっています。
これはひとつには、例えば男性が恋人の女性とキスなどをして至近距離で見詰め合ったり、ベッド上でピロートーク (枕元の秘話) などをすると、対象物の顔が目の前にあるだけに完全に 「より目」 状態となり、そうした顔を見ることができるのは、限られた男性 (恋人や夫、あるいは家族) だというのも、潜在的にあるのでしょう。 「寄り目の距離」 などといった比喩表現もあります。
なかでも艶かしい 舌 の動きとヨリ目、鼻水 などとのコンビネーションは最強で、俗に アクメ顔 とか アヘ顔 などと呼びますが、顔の表情だけで強い性的魅力や興奮、極めてエロチックな 雰囲気 を作ることすらできます。
歌舞伎役者の見得、浮世絵の大首絵の 「寄り目」
激しい寄り目となっている役者の大首絵 これは東洲斎 写楽の代表作のひとつ、 「三代目 大谷鬼次の江戸兵衛」 |
ところで日本人が 「寄り目」 といって真っ先に思い浮かべるのは、やはり歌舞伎での見得、大見得の寄り目でしょう。 現実の歌舞伎役者さんも大舞台の晴れやかな見得で披露しますし、写楽などの浮世絵師による役者絵 (大首絵) に描かれる役者も、その多くが激しい寄り目をしています。
歌舞伎の名門、市川団十郎に代々伝わる見得に 「不動の見得」(不動明王を象った見得) というものがあります。 この型では、両目を中央に寄せるのではなく、片目だけを寄せる型となっています。 これは陰陽をあらわすために、右目が月、左目が太陽として、それぞれが別の動きをして、目と体全体で、宇宙をも表すものとなっているそうです。
不動明王と云えば、密教の根本尊である大日如来の化身、もしくはその内心の決意、象徴のようなものですから、曼荼羅の中心、すなわち宇宙の根本、そのものを、人間の瞳の型で表しているわけですね。
ただし実際に歌舞伎のような精神性の高い演劇ですと、他の舞台以上に役者の精神集中が激しく、結果、目がある種の 「イき方」(逝き方) をする、半分狂気じみた寄り目にまで至ってしまうケースもあるのでしょう。 一般に神経を極端に集中すると目が寄るとも云われていますから、不動明王や歌舞伎に限らず、緊張感のある舞台での寄り目は、役者の宿命なのかも知れません。
ジョゼフィン・ベーカーの登場で、寄り目がキュートなセックスシンボルに
1920年代のヨーロッパで、ある女性黒人ダンサーのエキゾチックな踊りと瞳のキュートな表情、つまり 「寄り目」 が人気爆発し、一世を風靡したことがあります。
パリを中心に活躍していたジョゼフィン・ベーカー (Josephine Baker/ 1906年6月3日〜1975年4月12日) という黒人ダンサー (アメリカ出身の黒人歌手) なのですが、バナナを腰の周りにぶら下げただけの衣装で野性的なセクシーさをアピール、しかし顔はあどけなく、またユーモラスな寄り目をし、激しいエロティックなダンス 「Banana Dance」 を踊って人気を得ていました。
NHK スペシャル 「映像の世紀」(映像の世紀 第3集/ それはマンハッタンから始まった) にもそのシーンが紹介された人物なので、実際にその踊り、表情を見た方も多いと思いますが、彼女がパリのシャンゼリゼ劇場でセンセーショナルなデビューを果たし、ブームを巻き起こしたのが1925年でした。 その後ヨーロッパ中を旅して各地で踊りを披露し、爆発的な人気を得て、ヨーロッパの伝統的なダンスに大きな影響を与えるだけでなく、女性のチャーミングな仕草のレパートリーに、かなり明白に寄り目が組み入れられるきっかけにもなったようです。
こうした傾向は女性ばかりではなく、男性にも見られます。 例えばアメリカのロックシンガー、エルヴィス・プレスリー (Elvis Aron Presley/ 1935年1月8日〜1977年8月16日) なども、セクシーな表情として、歌舞伎の見得さながらの激しい寄り目の表情を持っていました。
エルヴィスの寄り目と歌舞伎の見得とに大きな関係はなかったと思いますが (腰をふるダンスや R&B への傾倒からして、音楽や立ち居振る舞いは黒人文化の影響が強い印象)、空手の黒帯 (8段) を持ち、日本神話などへの造詣も深い親日家だったと伝わるエルヴィスですから、どこかで通じ合うところもあったのかも知れません。 こうしたエルヴィスの寄り目は、後に似顔絵や物まね芸人などによってことさらに誇張される場合もあり、それで強い印象を持つファンもいるようです。
表情と感情をダイレクトに伝える 「目」
セックスで絶頂に至った表情を、俗に 「白目をむく」 などと呼びますが、寄り目には狂気や集中、さらに快楽や絶頂といった、独特のムードがあります。 目は人の表情、あるいはその裏にある感情を表すもっとも大きい体のパーツのひとつですが、それが 「通常ではありえない形」 になることに、その異形さからインパクトや感情の揺さぶりを見た人が受けるのでしょうね。
創作物である マンガ や アニメ の世界でも、目は キャラ や登場人物の豊かな表情の大きな立役者として、寄り目に限らず、様々な使われ方をしています。 ただし少女漫画や美少女漫画では、現実の人間にはありえないほどの大きさに目が描かれますが、これは目の表情とはほとんど関係がありません。 必要以上に目が大きくなると、逆に表情をつけるのは難しくなります (目よりも、眉毛や顔全体でなんとか表情をつける感じですか…)。
一方で、江戸時代の浮世絵などは、目を極端に小さく、また切れ長にデフォルメして描きますね。 これは当時、こういう目の形が 「絵 のデフォルメ」 として人気があったのでしょう。 目の描き方は今と昔で大違いですが、「写実を超えて極端なデフォルメで理想の人物を描く」 という精神はまったく同じです。
風刺画などで権力者などを醜悪に描いたりコミカルに描くのは洋の東西を問わず普遍的に見られる絵画手法ですが、理想形の美化でここまで極端なデフォルメをするのは、日本人の美意識とも関係があるのかも知れません。
寄り目の反対は…
なお反対に目の瞳が左右に離れている状態、それぞれが目尻に向かっている状態 (逆に内斜視/ 斜視/ 意思ではなく寄り目になってしまう人も含む) は、寄り目のような 「魅力」「チャームポイント」 とされるケースは極めて少ないようです。 また寄り目のように、自分の意思で目の位置を決めるのが非常に難しいものです (片目ずつ指を使うなどして表情をつけるとやり易いです)
こうした目の状態 (左右の眼位の大きな差異) は、俗に 「ひんがらめ」「ロンパリ」(目の瞳がパリとロンドンほども離れている、転じて片方はパリ、片方はロンドンを向いているの意味)、略して 「ロンパ」 などと呼びますが、現在は差別語、放送禁止用語として、表舞台で使うのは、はばかられる言葉となっています。
原因に関しては、瞳を支え動かす筋肉、もしくは筋肉を動かす仕組みに トラブル がある場合が多く、外傷性のショック、極度の近視や乱視などによる目の酷使による障害、先天性の原因など様々あり、それぞれに治療法や手術による改善法などがあります。 斜視に関しては、治療法がかなり発達していると云えますが、必ず完全に治療できると云うわけでもなく、悩んでいる人も多いようです。
親御さんが心配な、乳幼児のより目…
また本人が意図して作る 「より目」 と違い、子供 (赤ちゃん/ 乳児) などが無意識に 「より目」 になったり、そうした目の動きを頻繁にする場合に不安感を覚える親御さんも多いようです。 眼科や小児科でなるべく早くご相談されるのが良いと思いますが、子供の頃は目の動きが不安定ですので、あまり心配しすぎないことも大切です。