東京都表現規制で話題に…意味不明な 「漫画児童ポルノ」
産経ニュース、2010年3月23日 【主張】漫画児童ポルノ 子供に見せないのは当然 |
「漫画児童ポルノ」 とは、現実の児童が存在せず、架空の未成年の キャラクター が登場して性的行為を行う様を描写した マンガ (アダルトコミック) のことです。 広義で 「二次元児童ポルノ」 と呼ぶ場合もあります。
こうした表現による用語は、かねてから 児童買春・児童ポルノ処罰法 (いわゆる 「児ポ法」) のより強い表現規制を求める人たちや団体によって、しばしば使われていた言葉でした。
しかしこの言葉が ネット や 同人 などの 界隈 で大きく話題になったのは、2010年の東京都の 青少年健全育成条例 の規制強化問題 (いわゆる 非実在青少年 の規制を巡る騒動) のさなか、産経ニュースなど一部マスコミが報じてからでした。
問題となった産経ニュースのコラム (右図) やその後の報道では、東京都の青少年健全育成条例の改正案を 「漫画児童ポルノ規制」 と呼称。 規制されてしかるべきものだとの論調を貫いています。
コラム中では 「18歳未満の小中高校生らに見せないようにするのは当然ではないのか」(すでに未成年に対する規制はされている) や、都小学校PTA協議会の会長の コメント として、「子供が持っていたかわいい表紙の漫画を開いてみたら児童ポルノだった」(児童ポルノが書店で売られることはありません) などと、事実誤認やミスリードが記事中に満載で、ネットでは大きく 叩かれ ることとなりました。
事実誤認やミスリードが満載、杜撰で悪質な産経ニュース報道
児童ポルノとは? |
児童ポルノとは、現実の児童 (日本の場合は、18歳未満の未成年) が、性的行為 (セックスやそれに限りなく近い行為) を行い、その様子を撮影した実写映像、画像 のことです。 すなわち 「被害者が存在」 する 「犯罪行為の記録」 ということです。
ただし日本以外の国でいう 「Child Porno」 と、日本でいう 「児童ポルノ」 では、同じような言葉であっても、国によって 「児童」(Child) の年齢的な定義や、「ポルノ」(Porno) の法律的・文化的な定義が異なり、「同じものだ」 とは云えない状況となっています。 こうしたことから、より子供の人権擁護に積極的な団体などでは、定義と目的をはっきりとさせた 児童虐待画像・児童虐待動画 といった直接的な表現に言い換えているケースもあります。 |
本来の 児童ポルノ とは、現実の児童が性的な暴行を受けている様子を撮影した実写の写真や動画を指します。 これが許されざる忌むべき存在なのは、その製造に児童への性的虐待という犯罪行為、児童への人権侵害という許されない行為を必ず伴い、現実に被害者が存在するからです。
従って、実在しない架空のキャラクター、作者 が頭の中で考えて描いた 絵 やマンガとは根本的に違うものですし、当然ながら 「漫画児童ポルノ」 などは存在するはずがありません。 絵に描いたキャラクターは人間ではありませんし、被害者になることもなければ、守るべき人権も持っていないからです。
しかしこの 「漫画児童ポルノ」 という言葉は、それを意図的に混同させ 読者 の錯誤を誘い、あたかも創作物であっても児童ポルノが存在するのだと、あり得ない前提を自明のこととして表わし刷りこんでいる点が特異で悪質な言葉と云えます。
「漫画児童ポルノ」…どういう言語感覚で、こういう言葉が生まれるのか
「児童ポルノの漫画」、すなわち 「児童ポルノ漫画」 は、場合によってはありえるかも知れません (例えば児童ポルノ動画を写実的に漫画化した場合など)。 では 「漫画の児童ポルノ」、すなわち 「漫画児童ポルノ」 はどうでしょうか。 結論から述べれば、絶対にあり得ません。 それは、児童ポルノという言葉を他の言葉、例えば 「窃盗」 とか 「殺人」 に当てはめて考えてみれば誰でもわかるでしょう。
窃盗犯が登場する 「泥棒漫画」 や、作品中で人が殺されて死ぬ 「殺人漫画」 はあり得ても、「漫画泥棒」(漫画それ自体が窃盗の違法性を持つ) や 「漫画殺人」(漫画それ自体が殺人の違法性を帯びる) はあり得ません。 また窃盗や殺人が法律で禁止されているからと云って、それが漫画や映画、小説の作中表現で登場した事実を持って、「窃盗罪」 や 「殺人罪」 で禁止され処罰すべきでしょうか。 何度でも申し上げますが、そこに犯罪事実や被害者は存在しないのです。
しかし産経ニュースや産経新聞は、一連の問題をその後も 「漫画児童ポルノ条例案」「(漫画児童ポルノの規制を求める)青少年健全育成条例の改正案」 などと呼称し、この珍妙な言葉を使い続けています。
定義があいまいな上に、似たような言葉のオンパレード…
表現規制を行おうとする人たちにより、子どもポルノ や 準児童ポルノ や みなしポルノ、疑似児童ポルノ などなど、分かるような分からないような言葉がたくさん作られています。
児童ポルノは被害者が必ず存在しなければなりません。 そして日本の児童ポルノ処罰法は、被害者を救済し人権を守るための法律です。 被害者が存在しないマンガや アニメ や ゲーム、および児童ではない成年が登場する実写作品は、児童ポルノではないという当たり前の事実を、強く確認する必要があります。
また本来は無関係であるはずの未成年が性的虐待の被害者となる児童ポルノ問題と、未成年者にアダルト要素のある 18禁 の作品を見せないようにする 有害図書 の ゾーニング や フィルタリング、ブロッキング の問題とを、あたかも密接な関連性があるかのように抱き合わせて無理やりひとまとめで論じるやり方には、強い警戒をしなければならないでしょう。