事後検証が不可能に…情報を丸ごと消し去る 「ブロッキング」
「ブロッキング」 とは、特定のウェブサイト (ホームページ) やそこで触れられている情報 (文字や 画像、動画類) を一定の条件に基づいて抽出・選別し、接続を遮断して排除してしまうことです。
同人 や 「表現」「創作」 の世界では、インターネット 上にある特定のウェブサイトや情報をブラックリスト (アドレスリスト) によって区分けし、ふるいにかけて利用できないよう排除するような意味で使われます。 強制遮断、フィルタリング (利用者の 同意 がある場合) とも呼びます。
実際に運用する仕組みや方法には色々あり、個人や企業が自主的に個別で行うものや、検索エンジンが独自に行うもの、さらにはISP (インターネットサービスプロバイダ/ 接続業者) が、サイトのドメインごとに全ての利用者に対して全体的に行うものもあります。 また情報統制の一環として、国家ぐるみで特定情報を丸ごと排除している場合もあります。
「児童ポルノをブロッキングする」 との大義名分の中で
児童ポルノ の ネット での流通を抑える目的で、2000年代中頃より欧米の一部でこうした取り組みが行われるようになり、日本でも 2008年頃から、児童ポルノ法 の改正問題や、アメリカなど一部の国からの要請、国内の人権団体などが声を上げ、国で網羅的に全体を規制すべきだとの強硬な意見が多く聞かれるようになってきました。
基準を設け、排除すべきリストを作ることは レイティング、区分して実際に制限・排除するのは ゾーニング とも呼びますが、ブロッキングには部分的に行うもの (一部の利用者、例えば未成年) と、全体に行うもの (未成年・成年問わず全員、ひいては全国民) の2つがあり、後者の場は、一部の制限に留まらず、その情報が日本国内からは一切利用できなくなり、国民にとっては、事実上ネットの世界に存在しないのと同じ状態になります。
「恣意的運用」 と、「オーバーブロッキング」 の問題
ウェブサイトの数やネット上の情報は膨大であり、リスト作りに公平性を持たせるのは極めて困難で、結果的に恣意的、もしくは極めて杜撰で大雑把な運用が行われ、特定の言論のみが排除されたり、排除する必要のないものまで排除される危険性があります。 また一部の規制ではなく全面規制では、規制後に規制された情報がどのようなものであったのか、本来規制すべき情報だったのかの第三者による公正な検証も非常に難しくなります。
そもそも違法行為と知りつつ児童ポルノを流通させている業者は、法や仕組みのスキをついて流通させ続けるでしょうし、イタチゴッコとなり 「ブロックされるのは無実のサイトや情報だけ」 になりかねない、実効性が期待できない危険性があります。
無関係な情報やサイトが次々にネットから姿を消す…?
実際にブロッキングが行われたイギリス (WF/ Internet Watch Foundation) などでは、Wikipedia をはじめ児童ポルノとは無関係のサイト (成年アダルトサイトや、アダルト要素がないサイトなども) が多数ブロッキングされています (2008年12月)。 フィンランドでは、9件の児童ポルノサイトをブロックするために、37件の判断不明サイト、925件の無関係なサイトをブロックする状況となっています。 実効性がわずか1%のブロッキングは、得られる利益と損失のバランスがとれているのでしょうか。
中には、人権団体による児童ポルノ根絶を目指すための問題提起サイトや、児童ポルノ規制に名を借りた不必要な表現規制に反対する市民団体のサイトまでが児童ポルノサイト扱いされて排除されたというケースもあり、喜ぶのは規制をすり抜けたポルノ業者だけという皮肉な事態も招いています。
「This domain name has been seized by ICE」 DHS (アメリカ国土安全保障省) に所属する ICE (移民・関税執行局) による、 差し押さえでのブロッキング表示画面 |
「児童ポルノの広告や所持は犯罪であり、 初犯であっても最高30年以下の懲役、 250,000ドル以下の罰金が厳しく課せられる」 などと書いてあります |
アメリカでも、児童ポルノサイトや違法コピー商品の販売サイトなどに対し、国 (アメリカ国土安全保障省) や裁判所がウェブサイトの DNS 差し押さえの手続きを行い、度々大規模なブロッキングを実施しています。
しかしドメイン単位での大雑把なブロッキングを行っているため、そのドメインの下 (サブドメインやディレクトリ下) で 運営 している数多くの無関係の善良なサイトを巻き添えでブロッキングする状況となっています。
ブロッキングした場合、それを示す画像が表示され (右図) 接続は遮断されますが、児童ポルノや違法コピーと無関係なサイトを運営している個人や中小企業がサイトを止められ、自分たちのサイトに訪れブロッキング画像を見た利用者らへの釈明に追われる状況ともなっています。
その多くのケースで、数件から数十件の違法サイトを止めるために、数千から数万もの無関係なサイトを巻き添えにしていて、2011年2月には、10件の違法サイトの差し止めのために、実に84,000件ものサイトを排除。 苦情が殺到し順次復旧させるという社会問題の事態ともなっています。
日本でも年齢フィルタリングでオーバーブロッキングが発生
こうした状況は日本でもあり、過去に、goo の子供向け検索サイト、「キッズgoo」 において、アダルト情報や犯罪有害情報とは無関係なサイトが数多くフィルタリング対象とされ、問題となったこともあります。 この程度のリスト精度では、本来ブロッキングすべきサイトの数より、オーバーブロッキングにより巻き添えになるサイトの方がはるかに大きくなってしまうでしょうし、抜け穴だらけで違法業者の暗躍を許す土壌ともなります。
さらにこうした杜撰さを悪用し、自分にとって都合の悪い情報が書かれている 掲示板 や コメント機能 のある ブログ に悪意のある有害な情報の 書き込み を行い、ブロッキングリストに入るよう誘導する恐れもあります。 またそもそもそうした機能があるサイト (wiki なども) を、内容に関わらず網羅的に全て排除しているとするリスト作成業者などもあります。
2011年から日本でも導入が検討…?
「ブロッキング」 は、「検閲の禁止」 やそれを含む 表現の自由 を無視し、「通信の秘密」 をも侵す可能性が極めて高くなるので、国や法律で規制するのは憲法違反ではないのか、児童人権以前に国民全ての人権をないがしろにするものではないかとの反対意見も多くなっています。
先行したドイツでは 「検閲にあたる」 として強い批判が国民やジャーナリストらから巻き起こり、後に反対していた野党が与党に入ったことで、ブロッキングを取り下げています。
日本では 2009年になり、民主党政権においてブロッキングが検討され、総務省が中心となって当初2010年10月から、その後は2011年から実施する方向で検討している状況ですが (その後実施/ 後述します)、欧米とは児童ポルノの定義すら異なり、状況が全く違うのをしっかり念頭に入れておく必要があります。
しかもこの検討では、「有害情報」 や 「女性への暴力」 など、定義があやふやな 「児童ポルノ」 をも超える無関係で範囲の広い不要な項目が入っています。 知らない間におかしな規制や法律を作られないよう、しっかりと注視して声をあげてゆく必要があるでしょう。
2011年4月21日から日本でも一部で実施
日本の一部のプロパイダも、一般社団法人 インターネットコンテンツセーフティ協会による ブロッキングを実施 (2011年4月) |
2011年4月21日より、日本でも児童ポルノを扱う一部悪質サイトを、9つのプロバイダが協力する形でブロッキング処置することとなりました。
ブロッキングの基準は児童ポルノ流通防止対策専門委員会 (2010年12月20日に発足した民間団体) が承認したものを用い、一般社団法人インターネットコンテンツセーフティ協会 (ICSA) がサイトごとに個別に判定。 作成した児童ポルノアドレスリストを利用して、以降は一切のアクセスが遮断されています。
なお実際にブロッキングされた場合には、右図のような画面があらわれ、閲覧が一切できなくなっています。 説明では、「このサイトは、児童への著しい権利侵害である児童ポルノを掲載しているサイトと判定され、児童ポルノアドレスリストに掲載されているためブロックされました。」 となっています。
児童ポルノ流通防止対策専門委員会には、児童ポルノ法問題ではおなじみの市民団体も参画していますが、恣意的かつ杜撰なブロッキングにははっきりと反対を主張していたインターネット関連企業の担当部署の名前も見えます。 実施が不可避なのだとしたら、せめて業界としてしっかりと対応して欲しいと心から願います。