青少年に有害なものは作ったり売ったりしたらダメとの法案です
「青環法」「青少年有害社会環境対策基本法案」(青環対法案) とは、1999年から自民党の参議院議員などが中心となった グループ が取り組んだ法律案で、3年間で法案の形にまとめ、2002年には国会への法案提出を予定していたものです。 その段階では反対運動によって提出断念に追い込まれたものの、2004年に一部内容を変更して参議院へ提出。 しかし賛同を得られず審議未了で廃案となりました。 ただし同グループは法案提出を諦めておらず、次の提出機会を伺っています。
この法律案では、現在は各自治体などが独自に設けている 青少年健全育成条例 などの有害図書規定による 有害図書 や 「有害情報」 などの未成年対応を国の レベル まで引き上げ法律で規定。 総理大臣と内閣が青少年の保護に関する 「基本方針」 を策定、閣議決定し、官民あげて有害図書や情報を封じ込めるというものでした。
従わない出版社やテレビ・映画制作会社、新聞社やそれぞれの制作者などは指導・勧告・事業者や責任者名の公表などの罰則付きで取り締まったり規制できるという内容で、表現の自由 への著しい侵害、「検閲の禁止」 に反する行為に当たるのではないか、「全メディア規制法案ではないか」 との反対意見の強い法案でした。
メディア規制3法の1つとして、猛烈な反対運動に晒され廃案
こういった規制のいつものパターン通り、「有害情報」 のきちんとした定義そのものはほとんど明らかにされず、法律の可決成立後に、将来決まる 「基本方針」 に従うものとされました。 またその方針に異を唱えたり、勧告や指導、取り締まられた側が内容を不服として反論、抗弁する機会は制度として作られず、出版や放送、ひいては自由な言論への強い萎縮・抑止効果をもたらすと強く危惧されていました。
メディア規制3法 | ||
個人情報保護法案 | ||
人権擁護法案 | ||
青少年有害社会環境対策基本法案 |
また同法案 第21条 では、出版社や放送業者などの事業者は業界ごとに 「青少年有害社会環境対策センター」 を設置するよう義務付け、他の事業者に対して加入を奨励。 あたかも互いに監視し合うことを推奨するかのような文言まで入っていました。
また業界団体などが存在せず、個々人が 趣味 で行っている 同人 などの自費出版活動では、こうしたセンターの設置が現実的に不可能で、「自由な自費出版やその配布が、将来閉ざされる危険性があるのでは」 との強い危惧を抱かせるものともなっていました。
この種の情報類の取り扱いでは、出版社やビデオ制作会社、ゲーム会社などの業界団体などが独自に行う 自主規制 (レイティング) や販売自主規制 (ゾーニング や年齢確認) で対応してきた問題でした。 しかしこの法律案ではそれら過去の民間の取り組みを一切評価せず、また既存の自治体の健全育成条例を廃止する訳でもなく、国と地方自治体、民間とで2重3重に表現規制を行うものだとの反対派の意見にはもっともなところがあります。
結局、批判されたメディア規制3法のうち、この青環法と 人権擁護法 は廃案に。 成立したのは比較的批判が少なく国際的にも制定が求められていた 「個人情報保護法」(個人情報の保護に関する法律) だけでした。 こちらは 2003年5月23日に成立し、2005年4月1日から全面施行され、その運用が始まっています。
民主党の対案も反対意見が強く提出見送りに
なお野党 民主党でも、精神科医の水島広子衆議院議員 (栃木県第1区) らが中心となって、「青環法」 への対案の形で、「子ども有害情報からの子どもの保護に関する法律案」 という類似の法律案を党独自に作りました。 しかし民主党内での反対意見が根強く、国会への提出は見送られています。
また 2005年9月11日の総選挙で、この法案に熱心だった水島議員は落選。 2009年8月30日投票の選挙にも出馬せずそのまま議員活動から 引退 し、民主案はほぼ停止した形となっています。 ただし水島氏は2009年10月より民主党政権の元、総務省の顧問として政治活動は行っています。