筆者が子供の頃は、全てのマンガが有害図書でした
「有害コミック」 とは、18禁 本とほぼ同義で、青少年の健全育成にとって有害だと一部の人々によって思われている、コミック (マンガ) の総称です。 分かりやすい言葉で云えば 「エロ漫画」「ポルノコミック」 でしょうか。 有害コミックという用語自体は 1990年に一主婦の訴えにより全国的な展開となった 子供向けポルノ追放運動 によって、広く一般化しました。
ちなみに “有害なコミック” と云う考え方は比較的新しい考え方とも云え、ほんの 30〜40年程前 (昭和20年代末〜30年頃) までは、あらゆる全てのコミック・マンガが子供にとって有害なもの、すなわち 有害図書 と呼ばれていました。 性的表現はもちろん、作品の中で何回人が死んだか、刀やピストル、殴打や出血のシーンが何度出てきたか、雑誌 (少年誌など)、作品ごとに事細かに数字としてリストアップされ、それを元に出版社や書店への強硬な抗議活動が活発に行われていたものです。
1955年前後に盛り上がった 悪書追放運動 では、刺激された複数の小学校で学童たちからコミック本を集め (もちろん、子供達が自主的に持ち寄った事になってますが)、教師や PTA、市民団体立ち会いの元、校庭で焼却処分にしたケースも当時は見かけられました (ようするに焚書ですね)。 PTA の活動はその後も 「不良マスコミ対策」 として、次第にメディアをコミック本などからテレビ番組、アニメ や ゲーム へと移しながら続いています。
ところでこうした 「有害図書 (コミック)」 追放運動は、前出の例を始め何かの事件などを契機に数年ごとに “運動” として繰り返し盛り上がると云う特徴があります。 たいていは特定の市民・政治団体が音頭をとり、それにマスコミが乗ると云う図式です。 多くは作品を作る (売る) 側の 自主規制 で沈静化していますが、こうした運動の繰り返しで以前に比べてコミック表現や質がより高まった様子もなく、不毛な印象を持つ人も少なくありません。
何かを消し去れば世の中が良くなると云う考え方
「表現の自由を守れ」 との 憲法第21条 的主張には手垢が付きすぎている印象もありますが、コミックに限らず、ある種の作品やカルチャーに対する魔女狩り的で一方的なレッテル貼りには、個人的にも強い反感を覚えます。
云い古された事ですが、やはり 「悪書が弾圧される時には良書もまた弾圧される」 と思いますし (悪書・良書の基準なんて人によって違う訳ですから)。 また救いようのない作品やカルチャーがあるのは認めますが、富士山の頂が気高いのは、膨大な “裾野” あっての事だと思いますし (ある程度までは量が質を担保すると思うでし)、峰と裾野を明瞭に区分できない以上、検閲まがいの手法で一方的な規制を掛けるのは反対です。
「書物が焼かれる時には人もまた焼かれる」 と云ったのは詩人のゲーテですが、う〜ん、とりあえず、「○○がなくなれば、世の中が全て良くなる」 って単純に考える人には、困りものです。 個人的な印象では、ほとんど 電波系 の方々と同じ論調なんですがねぇ…。
購入者の年齢制限を厳格に行うこと、売り場でアダルトの カテゴリ として分離をきちんとやること、要するに ゾーニング である程度以上は未成年者のこの種の書籍を手にする機会は制限できると思いますが、最終的には未成年者の 「親のしつけ」 が、特効薬ではないでしょうか。 子供のしつけができない親が、ビデオ店や書店にばかり文句を云うのは、学校で暴れまわる不良学童の親がその責任を学校に押し付けるのと同じ醜さを感じるんですが、どこが違うんでしょうかね。
新しい動きも少しずつ出始めてはいるが…
誰にとっての有害図書? |
2003年1月17日、日本文化の国際交流の方策を検討してきた文化庁の 「国際文化交流懇談会」(座長/ 平山郁夫東京芸術大学長) が、日本映画やマンガ、アニメーション、コンピューターグラフィックスなどを重要な日本文化芸術として位置付け、積極的に海外に発信することなどを提言した中間報告を作成、3月をめどに最終案をまとめると発表しました (座長の平山郁夫氏って独特な日中史観の持ち主で、一部から猛反発受けていたりするんですが…おまけに文化庁文化部長は、あの寺脇研さんで
また同年12月25日には、総務省の情報通信ソフト懇談会 (座長/ 長尾真京都大学前学長) がアニメやゲーム、コミックなどのポップアート、ポップカルチャーを国の政策として伸ばすことが日本の経済競争力強化にもつながるとする報告書をまとめ、世界中で高い評価を得ていながら国内では低い評価と関係者の劣悪な就業 環境 となっている現状を見直し、改善するべきだと提唱しています。
翌 2004年2月には、通常国会に議員立法の形で国が率先しアニメやマンガ、ゲームなどの制作環境を 整え、また人材育成や知的財産権の保護などに取り組もうとの法案も提出されました。 前後して、野村総研はじめ各シンクタンクも軒並み、おたく文化の市場の大きさと 「産業としての価値」 を見い出す調査結果や提言を発表しています。
これが過保護になりすぎず、日本マンガ、アニメなどの適度なバックアップになってくれれば嬉しいんですけどね。 つかむしろ、逆に変な自主規制を盛り込むみたいな形になって、邪魔をしなければ良いのですがね。 「次世代の人材育成を図る」 なんて云ってヘンな専門学校とか 箱物 を適当に作って、それを所管する天下り先の団体を作って終わりになっては、やらない方が余程マシです。
あるいは知的所有権保護は結構ですが、違法コピー対策の名の元に、同人など二次著作権までも急造の著作権管理団体あたりに任せて取り締まる一方では、マンガ文化の裾野を踏み荒らすだけになるでしょうし。 「プロデューサーの発掘と育成」 なんかやらない方がマシです。
ただ、「大人がマンガを読むのは日本だけ」「マンガやアニメそのものがダメ」 なんて実情を知らないにも程がある噴飯ものの現状認識は、世界を席巻する日本アニメや芸術作品として世界的に賞レースを総なめにした宮崎駿監督 「千と千尋の神隠し」 効果もあって、これで少しは改められるんでしょうか。 期待したいものです…。