人間どもはこんな顔を傑作と呼んでいるようだな… 「マスピ顔」
「マスピ顔」(マスターピース顔) とは、いかにも画像生成AIで生成された イラスト のような画風の、やたらと美しく整った顔や キャラ のことです。 後には実写にも用いられ、自撮り写真で修正加工がされたような整いすぎた顔のことも指します。 似た言葉として、ありふれた陳腐な顔とか整形顔や加工顔があります。 いずれもそつなくキレイに整ってはいるけれど、どこか人工的で不自然で、また似たような顔ばかりだ (量産型)、ワンパターンだといった揶揄の ニュアンス を強く持っています。
言葉の元となるマスピとは、英語のマスターピース (masterpiece) の略であり、傑作や名作、代表作といった意味で使われる言葉です。 この言葉自体は昔からあるものですが、とくに近年になって流行り始めたのは、いわゆる画像生成AI からです。 とくに日本でも大きなインパクトを与えたアメリカの 「NovelAI」(NovelAIDiffusion) の公開 (2021年6月β版、2022年10月正式版公開) からでした。
画像生成AI にプロンプト (指示文)「masterpiece」 を入れると…
生成AI を利用してイラストなどを出力する際には、どんな 絵 を生成するのかをプロンプト (指示文・呪文) で指定します。 例えば女の子なら girl、水着 なら swimsuit といった感じで、欲しい画像内容に合う言葉をおおむね複数用意して入力します。 その際、描かれる対象そのものの指定だけではなく、対象の傾向や画像そのものの画質や品質を上げるための言葉も合わせて入力すると良好な結果が得られやすくなります。
ありがちなのは高画質や高品質を指す best quality、ultra quality、high quality、あとは hyper detailed (高精細) などですが、様々な言葉がキーワードとして試される中で NovelAI に デフォルト で用意されていたこの masterpiece が注目を集め、質の高い整った画像を出力するための 「定番 のプロンプト」 として広がることとなりました。 これは生成AI が生成に用いるモデル (画像を学習したデータ) の学習過程において、過去に傑作とか優れていると判定された画像の特徴を生成に反映させるためのもっとも基礎的なプロンプトとされているからです。
実際にどのような顔や画風がマスピ顔に相当するかは、この言葉がおおむね批判的に用いられることが多いことから、類似の画風の 絵師 の仕事に間接的に異を唱えるようなことになりかねないため具体例は差し控えますが、近年の人気ソシャゲの美少女絵や Vtuber の 立ち絵 を集大成したような絵柄が多いといった感じでしょうか。 これらの画風は生成AI が登場する以前からも、「似たような画風ばかり」 と批判されがちなものでしたが、実際人気のある顔や画風であり、また人気があるからみんなが模倣して同じような絵柄が増えるわけで、生成AI とマスピ顔という 概念 は、これをより明確化しただけといった部分もあります。
ただしイラストの生成AI に関しては、「絵師の仕事を奪うのではないか」「自分のイラストが利用されるのは嫌だ」 などとして否定的な立場に立つ人がかなり多く、これら旧来の 「流行りの絵柄ばかりだ」 といった意味を超えた強い拒否感や嫌悪の感情があります。 主に反生成AI の立場の人からの 「AI絵」 に対する反発は、マスピ顔イラスト制作者に対する 「生成AI を使って描いたものではないのか」 といった疑念やレッテル貼りにも発展し、その部分での ネガティブ なニュアンスを持つ言葉でもあります。
整った顔は美しいが、ただ美しいだけになりがち
生成イラストに対する言葉は、その後実写風画像 (フォトリアル) な部分にも波及します。 とくに日本人が日本人顔 (東アジア系の顔) のフォトリアル画像を生成しようとすると、どこか韓流・K-POP アーティストと呼ばれる美容整形をした韓国人タレントの容姿に強い影響を受けたような画像が生成されがちなため、これを批判する文脈でも使われるようになります。 またこれは、一部の コスプレイヤー やネットで 顔出し で活動する人たち (活動者) らがスマートフォンによる自撮りを行う際に 盛る ために使う海外製の写真加工アプリによる実写加工顔写真でも、おおむね同様の傾向があります。
いずれも均整の取れた美しい目鼻立ちでつるつる美肌になりますが、どこか不自然さを感じるものであり、とりわけ流行りのラインを押さえた結果、似たような顔やメイクの量産のようにもなっており、好意的に見る人もいれば拒否反応を示す人もいます。 このあたりは個人の好みの問題だったり、反K-POP や嫌韓といった 宗教上の理由 とか、今どきの若いもんは同じ顔で区別がつかん的な感覚が個々人の評価に作用しているのでしょう。
K-POP 美人や美男子に似ていることに関しては、単に見た目だけでなく、日本の大手メディアが韓国に関する ネタ を ゴリ押し で伝えてくることへの反発も加わり評価もやや厳し目です (いうほど同じ顔ばかりではないと思いますが)。 これは初期の生成モデルの学習において、優れたアジア人の顔として評価されるものに K-POP タレントのそれが多かったことが影響しているのでしょう。 その後は様々なモデルが登場し、なかには日本人顔に特化したモデルも登場し、いかにも K-POP タレントみたいな顔ではない、日本人ぽい (あるいは日本のアイドルや 一般人 っぽい) 風貌の生成も可能となってきています。
自撮り用写真加工アプリを通すと、みんな同じような顔になったり
一方、自撮り写真用の加工アプリはものの見事に同じような顔に加工しがちで、「せっかくの自撮りなのに個性がなくなってもったいない」「実物と似ても似つかないほど美化されていて、思い出の記録としての写真として意味がないのでは?」 などと疑義も出されがちです。 まぁこれはこれで、それ以前にも本人とはまるで違う顔に盛って写す自撮り術とか奇跡の一枚、古くは実物とかけ離れたお見合い写真なんてのがあるので、せっかく残すならよりキレイには当たり前ではあるのでしょうけれど。
とくに一部の顔加工アプリは、構図や画角が似た顔写真なら顔の形や髪型どころか性別すらも無視して同じように整った顔に加工というよりまるごと変換したように変化させるものもあります。 一重まぶたで細目なのに、自動的に二重まぶたデカ目で涙袋ドーンみたいな。 結果、目鼻立ちや 肌の色 などは全く違うのに、同じような角度で撮影した写真を同じアプリを使って加工すると限りなく同じような写真となり、加工した自撮りを アップ した女性が同じく加工した自撮りをアップした男性の写真を見て区別がつかず、「私の自撮り写真がパクられた」「キモイ」 と大騒ぎし、その後再現実験を経て間違いに気づいて謝罪撤回の上で和解するという事態まで起こっています。
いずれにせよ、その時代その時代で 「人気のある顔」「流行りのメイクや髪型」 はありますし、それに従えば多くの人が似たような姿になるでしょう。 こうした状況は別に 生成AI だけが持つものでもないのですが、ネット や SNS、スマートフォンの普及に伴い、それまでは目にすることも少なかった 「自分とは縁もゆかりもない一般人の顔写真」 を日々膨大に目にするようになった結果、「みんな同じ顔やん」 が強調され、より強烈に可視化されるようになったのかなという気はします。
中高年者のいう 「近頃の若い子はみんな同じような顔だ」「個性がない」 というのは、単にその人の分解能というか 解像度 の低さによる勘違いだと思うのですが、生成AI や顔加工アプリの場合は文字通り同じような顔ばかりになりますから、その感覚も強化されがちです (もちろん使い方にもよりますが、ネットには 「こうすれば盛れる」 みたいなノウハウもあって、なるべく同じにしようという意識が醸成されやすいです)。
ちなみに加工された写真と無加工の写真、動画、および実物との比較については、これらとはまた全く別の感覚も見る者に要求されるので、並べて評価できるようなものではありません。 しょせん 二次元 のモニタ上に表示される写真や動画は、目の前にいて息遣いまで感じられる実物が持つ圧倒的な存在感や情報量には全くかないません。 美しい写真を見た後に実物を見て落差にがっかりという人もいるのでしょうが、逆に実物を見て 「おおおお」 と思った後に写真を見て 「あれ?思ったほどかわいくないぞ」 と思うことも存外多いような気がします。
これは二次元になった瞬間、実物が持つ存在感やある種のオーラが消えてしまうという部分もあれば、芸能人やらアイドルやらのポートレートや生成AI と同列のスマホ画面という土俵に上げられてしまい、無意識に比較してしまうという部分もあるのかもしれません。
ちなみに実物にもメイク・化粧した顔とすっぴんとの落差がありますが、男性が女性のすっぴんを見る機会など、家族や子供のころを除けば相手とよほど親密な関係になった時だけなので、それが恋人や配偶者ならともかく、赤の他人のそれをいちいち気にする方がどうかしています。 痘痕も靨と云いますが、身の回りにいる人みんなに可能な範囲で好意や敬意を持つようにすれば、目に入る人がみな可愛く見えて人生がより楽しくなるでしょう。