ブームになった、いけない趣味、ロリコン
「ロリコン」 とは、「ロリータコンプレックス/ Lolita Complex」 の略で、同人 の世界では、可愛らしい少女を扱った 趣味、作品ジャンル の事を指します。 1982〜83年頃からブームとなり、マンガ や アニメ、その後は ゲーム などにも濃くなり薄くなりながら、多大な影響を与えました。
ただし厳密には心理学用語としても存在するロリータコンプレックスと略称としてのロリコン、あるいは ロリ・ロリータ とロリコンは、当然の事ながらそれぞれ分ける考え方があり、主に男性向けの 「エロティックな内容」 を含むものをとくにロリコンと呼んでいるようです (日本語で 「少女偏愛症」、欧米では逆輸入され 「RORIKON」 とも)。
なお心理学用語としてのロリータ・コンプレックスは、アメリカの心理学者ラッセル・トレーナーが1969年に著した 「ザ・ロリータ・コンプレックス」 を元にした言葉として存在しますが、意味は正反対 (少女が中年男性に思いを寄せる) となっており、これがそのまま今日のロリコンの初出として扱われているわけではありません。 これに影響を受けたのか受けてないのか、1970年代に漫画家らによる現在の ニュアンス に近い使用例がいくつか見られますが、それが定着し急速に広まったのは1980年代前後になってからでしょう。
元々 「○○コンプレックス」 という言い回しは、「マザコン」「ファザコン」 といった言葉が広く使われて浸透していましたし、アレンジした俗語などもたくさんありました。 後に派生語も様々生まれ、さらに 「○○コンは○○歳から○○歳までで心理学用語」「□□コンは文学用語」 といった言葉としての出自を断定した意見や コピペ が雑学として出回りますが、元々があいまいな使われ方をする用語なので、どこまでその通りなのかは議論の余地があります (というか、たぶん個人の思い込みによる誤った情報が独り歩きしているだけな気がします)。
似て非なる 「ロリコン」 と 「ペドフィリア」
またより深刻なもの、例えば現実に女児や児童に性的な虐待を加えるような衝動を示すものは ペドフィリア (Pedophilia) (ペド/ Pedo)、もしくはその 性癖 があるものとして ペドファイル (Pedophile) と呼びます (実際に虐待を行うに至った場合は、チャイルド・マレスター (Child Molester/ 小児性犯罪者) などと呼びます)。
これらは傾向や趣味嗜好という以前に、明白に性倒錯あるいは性嗜好障害の一種と考えられていて、趣味としてのロリやロリコンとはまた全く別のものと考えるのが妥当であり一般的でもあります。 こちらは心理学や医学の世界で使われる言葉であり、趣味の世界で使うロリコンなどとは全く異なる言葉です。
なお 「ロリータ」 は、少女愛を扱ったロシア人 ウラジミール・ナボコフ (Vladimir Nabokov/ 1899-1977)の小説、またそれを原作とするスタンリー・キューブリック監督 (Stanley Kubrick/ 1928-1999) の映画作品 “ロリータ (Lolita/ 1962/ 脚本はナボコフ自身)” の題名からきた言葉です (小説の日本語訳は 1980年に新潮文庫他より刊)。
ブームとなった事で 「ロリコン」 はいくぶん一般化し、極端な性的嗜好としての側面は目立たなくなり、“幼い感じの可愛らしさ” の 「記号」 として使われる場合も増えています。 「ロリコンの ファン」 や 「ロリコン作家」 の全体が、いわゆる実在の幼女のみに性的興味を持っていると紋切り型に考えるのは乱暴でしょう。
とりわけマンガやアニメ、ゲームの キャラ などの 2次元 のロリキャラを好むファンと、実在の少女 (3次元) を好むファンとはかなり明確な意識の違いが見られ、また実在の少女を好むファンであっても、偶像として見たり応援して楽しむことと、ある種の性衝動に任せた犯罪行為とはほとんど埋めがたい大きな溝があるものです。 しかしその一方で、幼児に対する性的虐待がクローズアップされるにつれ、性嗜好障害の一種としての 「ペドファイル」 の行為による深刻な実態も表面化するケースが増えています。
ブーム黎明期から絶頂期にかけて細かいカテゴリ分けも
ところでロリコン黎明期には年代をもっと細かく区切った分類もあり、当初は12歳から15歳程度の少女を対象とするものを 「ロリコン」と呼んでいました。 よりローティーンである7歳から12歳程度は アリコン (アリスコンプレックス)、7歳以下を ハイコン (ハイジコンプレックス) とした別のジャンル分けでしたが、暫く前から一部のこだわり派を除いては、ほぼ 「ロリコン」でひとまとめとなっているようです。
その為か、元々は中学生程度の少女を守備範囲としていた 「ロリコン」は、全体として対象年齢を下げる (具体的には小学生高学年一歩手前程度まで)傾向にあります。
その意味で、かつて 「アリコン」と呼ばれた カテゴリ が、現在の 「ロリコン」の中心を担っているとの見方もできそうですね (アリコンのアリスは、ルイス・キャロル (Lewis Carroll/ 1832-1898) 作の “不思議の国のアリス (Alice's Adventures in Wonderland/ 1865)”、“鏡の国のアリス” の 主人公 名を由来としています)。
なお “幼い感じの可愛らしさ”に特化した場合には、ぷに と呼ぶ場合もあります。 この場合、人によっては幼女だけでなく、少年 (これは ショタ と呼びます)や小動物、小物類にまで、その活動範囲が及ぶ場合も少なくありません。
ロリコン黎明期の区分(1970年代後半〜1980年代初頭)
対 象 | 名 称 | |
12歳 〜15歳 | 中学生 〜小学生高学年 | ロリコン(ロリータコンプレックス) |
12歳 〜7歳 | 小学生高学年 〜低学年 | アリコン(アリスコンプレックス) |
7歳 〜 | 小学生低学年 〜幼女 | ハイコン(ハイジコンプレックス) |
〜0歳 | 幼女〜赤ん坊 | ベビコン(ベビーコンプレックス) |
初期のロリコンは、性の対象と云うよりはナチュラルな少女の美しさをアーティスティックに表現する芸術然とした、ある種 画集のような写真集といった 雰囲気 でした。
当時から賛否両論あったとは云え、一般紙に大きな写真つきの広告が掲載され、文芸欄で取り扱われるような感じです。 こうした写真集は、時代の表現者として確固たる地位を築きつつある若手のカメラマンなどが意欲的に手がけ、1970年台後半には一般からも大きな支持を得るに至っていました。
カメラマン主体の芸術作品から、モデル主体の実用品へ…
やがてそれらが、ロリコンブームとまで呼ばれるほどのムーブメントとなって行くわけですが、やがて 読者 の興味はカメラマンよりは被写体である少女に、また 商業的 に成り立つことが誰の目にもはっきりすると、より世俗的でセンセーショナルな作品が次々登場するようになります。 カメラマンのタッチではなく、被写体の少女、その雰囲気や 「年齢」 で鑑賞者から消費者になりつつあった読者が選ぶような時代になって行きます。
現在でもチャイドルとか ジュニアアイドル、年齢で区切ったネーミングである U-15 (Under 15歳)アイドル、JS (女子小学生)、JC (女子中学生) などの名称でグラビアアイドルやアイドル ユニット が多数ありますが、こうしたモデルの年齢での区分けが始まったのがこの頃でした。
ロリコンマンガと、3次元ロリと2次元ロリ
Lolita/ Vladimir Nabokov |
写真集はその後、自動販売機で売り出されるようなものが頻発するようになり、警察の取り締まりや規制が厳しくなって消えてゆきました。 ロリコン写真集や雑誌などでは、「写真」 を減らしてマンガに差し替えたり、雑誌そのものをマンガ雑誌にリニューアルするところもでてきました。
児童ポルノ法が可決した現在では、こうした実写を使った写真集のようなものは、売買が厳しく禁じられた文字通りの裏本となっています (単純所持までは禁じられていないものの、奈良県など一部の自治体では条例で所持そのものを処罰の対象としているケースもあります)。
マンガなども実写なみに規制された時期 (それによる 自主規制 が主でしたが) もありましたが、対象となる少女が存在しないので、性器の 露出 などで猥褻表現に触れなければ自主規制の範囲での販売は認められています。 ただし同人やマンガ市場が拡大して行く中で見れば、純粋なロリコンやロリータものは、全体の割合としては数を減らしているような気がします。