何をするのも面倒くさい… 「ダル/ ダルい」
「ダル」「ダルい」 とは、言葉としては 「たるい」 の変形あるいは 「かったるい」 の後半部分のみの略語の変形から生じた言い回しです。 意味は 「疲れる」「面倒くさい」「煩わしい」「付き合いきれない」「しんどい」「ウザい」「やる気がでない」 といったもので、ネットスラング や おたく用語 ではなく、昭和 の時代からあるくだけた若者言葉として 認知 されています。
よくある使い方としては、何か面倒な状況に陥った、思った通りに事が進まないといった際に 「ダル〜」「タリィ〜」 とけだるい感じの不満表明として使ったり、何らかの言葉に接頭してダルいことを示したりします。 例えば面倒な相手に 絡まれる、トラブル に巻き込まれることを 「ダル絡み」 と呼ぶなどです。
ありあまる体力と元気がある若者ほど、疲れるって不満を言いがち
元々 「かったるい」 は、腕が疲れて動かすのが億劫といった意味の 「腕弛し」(かいな (腕) だゆし) が口語化する中で変形して 「かったるい」 となり広く使われるようになったものです。 古くからある言葉ではあるもののあまりお行儀のよい言い回しではありませんが、庶民や若者の間で広く使われ続け、さらに 「たるい」 と省略されて改めて広まったようです。 なお 「だゆし」 は古語の 「たゆし」(弛し・懈し) のことですが、これがそのまま現在の 「だるい」 や 「たるい」 にそのまま全て変化したというわけではないでしょう。
広がり始めた 1980年代あたりの時点では、「ダル」 のみで使うことは少なく、「かったるい」 の略語であるのが明白な 「たるい」「たりぃ」 あるいは発音が変化しただけの 「けったしい」「けったりぃ」 なども用いられていました。 1970年代頃から増え続けた 「ナウい」 などと同じ、いわゆる 「○○イ」 系統の言葉の一つともされますが、言葉の成り立ち自体はちょっと特殊な印象です。 その後徐々に 「たるい」 から 「たりぃ」 などに変形し、「タリ〜」 みたいな言い回しが増えることに。
一方 「ダル」 も同時進行で広まりますが、むしろこちらが中心となって広く使われるようになったのはかなり後になってからのようです。 語感や意味が似た言葉に 「ダラダラ」「ダラ」 がありますが、これはやる気がなく怠けている、だらしがないような状態を指すもので昔からあるものの、1990年代初めころに人気テレビ番組の名称などから再脚光を浴び若者言葉として流行すると、ダル・タリなどとも一部混ざりながら使われるようになっていったとも考えられます。
「ダル〜」 といった言い回しの直接的な発祥地域は不明ですが、関西弁の影響が強く感じられ、不良・ヤンキーマンガなどの影響や、同じ頃に起こった漫才ブームにおいて、ちょっと汚い若者言葉を使って会話口調で進行する漫才コンビなどが多用していたことから、発祥はともかく広く若者言葉として全国に定着したのはそこからだと考える人もいるようです。 一方で、かったるいの略語であるのが明白な 「たりぃ」 などは、関東地域が発祥との話もありますし、「た」 に濁点が着くことで強調されたような ニュアンス を感じる人もいます。
濁音になるかならないかといったほとんど同じ言い回しで意味も同じ、古語的な語源も同じくしつつも、微妙に違う。 あちこちに伝播して変形して相互作用してるっぽいのが、ちょっとおもしろい言葉ですね。 それにしても体力気力が充実し元気が有り余っている若者ほど、「疲れた」「面倒だ」 という不平不満っぽい言葉を発しがちなのも面白いです。 一所懸命に頑張るみたいな真面目・熱血漢的な価値観から距離を置き、本心はともかく少なくとも対外的には 無気力でクール・やや 露悪的 で冷ややかな醒めた態度やポーズを取りたがるお年頃ということなのでしょう。
口癖のように多用され、またネガティブ・ポジティブどちらの意味にも
「キモ」(キショ) や 「ウザ」 など他の若者言葉全般がそうであるように、本心から疲れる、面倒だと思った際に使われるだけでなく、ちょっとしたことでもほとんど口癖のように多用されるのが 「ダル」 の特徴でしょう。 また通常は ネガティブ な使われ方がされますが、文脈やタイミング、シチュエーション によっては、肯定的・ポジティブ な意味でも使われるのも、その他の若者言葉と同じです。
例えば誰か大切な人に頼まれごとをされた際に、「よっしゃまかせとけ!」 ではなく、「だる〜」 などと悪態をつきつつ助けてあげるなどは、善行に対する照れ隠しとか思いやりを口にすることにはばったさを感じてあえて避けるようなシャイでポジティブな使い方でしょう。 また助けた結果がいまいちだった際の言い訳にも使えて一石二鳥でもあります。