刹那の刺激に身をゆだね…? 「ドパガキ」
「ドパガキ」 とは、「ドーパミン中毒のガキ」 を略した ネットスラング のひとつです。 スマホを手に常に新しい刺激による快感を過剰に求めて TikTok といった SNS や 動画サイト のショート動画を見続けたり、イントロがなくサビから始まったりせわしなく転調やメロディ変化を繰り返すテンポの速い楽曲を好みがち、射幸心を 煽る ガチャ や過激な表現・演出を多用した ゲーム に ハマ るなど、短時間かつ刺激が強い ネット の コンテンツ をひたすら次々と消費する忍耐力がなく飽きっぽい人たち、状態を揶揄する言葉として定着しています。
2024年12月28日に X で バズ った神谷幾何さんの 投稿 が 元ネタ となっており、そのポストでは、Mrs. Green Apple の人気楽曲 「ライラック」(2024年4月/ アニメ 「忘却バッテリー」 主題歌) に触れ、集中力がないZ世代が再生を止めないよう工夫していると論評する中で 「ドーパミン中毒のガキ相手の商売って大変だ」 と述べています。 なおドーパミン (dopamine) は 脳内 の神経伝達物質のうち幸福感や満足感、達成感といった報酬系活動の中心的な役割を果たす物質です。 脳内幸福物質とか、俗称として 脳汁 と呼ぶこともあります。
この言葉や 概念 が多くの ネット民 の共感を集め、また支持されたのは、お手軽に得られる強い刺激と安っぽい快感への依存や、それに伴って読書や一本の映画といったまとまった時間がかかり 地味 で地道なコンテンツ、あるいは勉強や思索を深めるといった忍耐を要する作業に若者の一部が集中できなくなっている点を憂いたり皮肉ったり、そうした若者や 視聴者 らに迎合したようにも見えるメディアやコンテンツ産業への反発の感情があるからでしょう。
またその少し前から タイパ (時間対効果) が注目を集めており、それに対する冷ややかな視点との連続性もあります。 アニメや映画、ドラマを倍速で観たり、面白いところだけを 切り抜い た 動画 や誰かにまとめられた情報ばかりを見る、自分で調べずに AI に答えを求めるなど、落ち着きがなくすぐに結果を求めて我慢ができないインスタント志向のお子様・キッズ を見下すような感覚です。
人気アーティストの人気楽曲に関する話題でもあり、当然ながら ファン らによる単なる曲の好みの違いだとの反論もあり、この言葉に対する評価は様々です。 とはいえ2020年代中頃の日本のネット、あるいはメディアや娯楽のありようについて、やや 露悪的 ではあるものの大勢のネット民に支持され流行語となった状況も含めて、独特の示唆や意義を持つ存在感のあるものでしょう。 比較的大きい パワーワード のひとつと云って差し支えないと思います。
なお英語圏にも同様の意味のスラングがあり、Dopamine junk (ドーパミンジャンキー) や、低品質なショート動画を見すぎて脳が腐った、ダメになった状態や人を指す Brain rot (ブレインロット/ 脳腐れ) などがあります。 うち Brain rot は、オックスフォード大学出版局が2024年の 「Word of the Year」(今年の言葉) に選出しています。 小さなうちから タブレット の動画漬けになっている子供を揶揄する iPad kid (アイパッド・キッド) もあります。 こちらは面倒な育児や子供の機嫌取りをタブレットやスマホに丸投げしている親の態度を皮肉る表現でもあります。 ドーパミン中毒という言葉そのものも、ランナーズハイやギャンブル中毒者、なかでもパチンコファンを批判する文脈で前述した脳汁ともども以前から一部で使われているものでもありました。
下の世代への偏見か、それともスマホ依存症の自虐か
そもそも人は、自分と違う世代、とくに下の世代には厳しい目を注ぎがちです。 それは 「今どきの若いもんは」 といういつの時代にもある感覚であり、ドパガキと同じ世代とされたZ世代 (1990年代半ばから2010年代前半までに生まれた若者) はもちろん、それ以前にもY世代 (ミレニアル世代) とかX世代 (ジェネレーションX/ 未知の世代)、ゆとり世代 とか団塊ジュニアとか新人類とか団塊の世代とか、あるいは デジタルネイティブ やバブル世代、氷河期世代、マニュアル世代などに対する上の世代から見た子供扱いの感覚もおおむね同じでしょう。
とはいえドパガキは言葉として広く 拡散 する中で、必ずしも若い世代だけを指すものでもなくなり、年齢に関係なくドーパミン中毒全般に対して、ひいては時短的・短絡的な娯楽を求める社会に対する風刺の意味を持つようにもなっています。 これは 「世の中全体がZ世代とたいした違いのない レベル になってきている」 という、より深い見下しの感覚もありますが、スマホ依存症的な自分を含めた 自虐 としても意識されるものでしょう。 ネットでは非常識で 生意気 な中学生を 誤変換当て字 で 厨房や厨 と呼びますが、これが実際の中学生 (リア・JC) 以外の大人への罵倒や内省的な自虐、社会風刺にもしばしば使われるのと同じです。
ネットや SNS が登場し普及すると、若い世代を中心にいわゆる バイトテロ が生じて 炎上 が起こり、これを上の世代が バカ にする意見がしばしば見られますが、当の若い世代からは 「そんなのはごく一部だ」 とした上で、「おっさんの若いころにネットや SNS がなかったから可視化されなかっただけだろ」 との反論も見られます。 ドパガキも同じで、したり顔で批判する上の世代が若いころにスマホや SNS やショート動画がなかっただけだとの意見には傾聴する価値が十分にあるでしょう。 またかつての軽薄短小への批判も含め、いつの時代も世代間で繰り返されるものでもあります。 ちなみに年下の世代から見た年上の場合は〇〇世代といったくくり方はあまりせず、おおむね おじさん・おばさん・じじい (GGI)・ばばあ (BBA)、あるいは 老害 でひとくくりです。
なおドーパミンがらみの言葉にはこの他、刺激に依存している状態、今まさにドーパミンがドバドバ出ている状態を 「ドパる」、刺激の強いジャンクな食べ物ばかり食べる人、あるいはそうした味覚になっている 舌 を 「ドパ舌」、ドーパミン中毒を 「ドパ中」 と呼んだりします。 ドパガキの派生語として 「アドガキ」 もあります。 こちらはアドレナリン中毒のガキの略で、ネット上ですぐ興奮したり激昂して他人に論争や バトル を仕掛けたり、イキっ てオラつくような人物や態度を指して使ったりもします。





