アニメやマンガをしっかりお勉強…?「履修」
「履修」(りしゅう) とは、本来の意味は大学などの教育機関で単位を取るために定められた講義を受けて学ぶ (学科や課程を修める) ことです。 一方で おたく や 腐女子 の世界では、アニメ や マンガ などの 「話題作」 や 「おたくなら知っていて当然の作品」 を見たり読んだり、おたく的な知識や雑学を調べて内容を押さえる、という意味となります。
使い方は 「見た」「読んだ」「調べた」 などのシンプルな言い換えとなり、「アニメ〇〇を履修した」「今期アニメの第一話は全部履修済み」「単行本8巻まで履修した」 といった感じになります。 なお単位を取ったことは 「修得」 となりますが、こちらの言い回しをする場合もあります (単に見たり読んだりしただけでなく、深く内容を理解して 同人 での 二次創作 などアウトプットできる状態だ、みたいな意味になることも)。 まだ見ていない場合は 「未履修」 となります。
履修という言葉はもっぱら大学などの専門的な高等教育の場で使う言葉なので、大学生や20代の社会人など若い人がしゃれっ気で使う場合が多く、その後ある種の おたく用語 や ネットスラング のような言葉として 認知 されると、他の年代にも広がるようになっています。 ただし中学生や高校生はこうした言葉をよく知らないか、知っていても学生生活を通じて身につまされる自分の言葉とはなっていないからか、あまり使われることはないかもしれません。
類似の言い回しに 読了済 や視聴済もあります。 マンガを読み終えた、アニメを観終えたといった意味で使われます。 「もうその作品は見たので ネタバレ しても大丈夫」 みたいな意味になります。
友人との共通の話題作りのために、半ば義務感で作品を履修する
本来おたくにとってアニメやマンガ、あるいは ゲーム や ラノベ を楽しむことは 「娯楽」「趣味」 であり、見たければ見ればいいしそうでなければ スルー すれば良いだけの話です。 しかし人気があったり話題となった作品を押さえていないと友人との話にもついていけませんし、親しい友人から勧められた作品を何度も無視するのも気が引けます。 またおたくがらみの雑学や知識のあるなしやその深さが、しばしば友人間のちょっとした格付け・マウント の ネタ ともなったりするので、半ば義務感で作品に触れざるを得ないケースも多いものです。
作品をただ作品として楽しむだけでなく、友人との共通の話題の供給源、コミュニケーションツールだと見做す考え方は昔からあります。 とくにおたくの場合、個々人の私的な情報よりは 「何を見たか」「何が好きか」「推し は誰か」「ジャンル は何か」 といった部分がコミュニケーションの中心になりがちなので、これは切実でしょう。 相手が好きなものを知らなければ、相手が分からない場合だってあるかもしれません。
加えて2010年代以降は ツイッター などの SNS が広がり、日々のあれこれを友人 (リア友 や ネトモ を含む フォロワー) と 共有 するので、作品選びそれ自体で特段の自己主張をしたいのでなければ、みんなが見ている作品を無視するのはちょっとした勇気が必要かもしれません。
時間がなくて履修できない… 切実なおたく・腐女子の生活
もっとも、今はアニメだけでも膨大なタイトルが制作されていますし、やたら時間がかかる ネトゲ やソシャゲをやったり、ネット で話題になったネタや話題にも付いていかなければいけないとの強迫観念も人によっては生じているかも知れません。 一昔前までは 「国民的アニメ」 のようなメジャーな作品がメインストリートにいて、それを押さえていれば最低限なんとかなったかも知れませんが、おたく市場が拡大し、趣味の細分化や多様化が進んで、時間がいくらあっても足りない状況かも知れません。 コスパ ならぬ、タイパ (いかに短い時間で作品をたくさん見るか) が求められる時代です。
見るべき作品が山積みとなり、アニメなどは1.5倍速とか2倍速で見てとりあえず内容だけ頭に入れるみたいな視聴方法をする人もいて、それはそれでその作品の熱心な ファン からは 「ちゃんと見ろよ」 と思われたりして、なかなか辛そうではあります。 まぁ若いうちは自分の興味関心が広がる一方ですし、そのうち年を取って自由な時間が減れば自分が触れる作品数も絞られてくるものなので、体力にモノを云わせて片っ端から履修しまくる時期があるのも、それはそれで楽しいのかもしれません。 実際の大学生活でも、興味のある別学部の講義に勝手に潜り込んで受けるなんてことがよくありますし。
また当然ながら、世間で高く評価されているような作品はなんだかんだいって優れたものも多いので、そこで得た知識や感動が、その後の充実したおたく・腐女子生活の血肉になることだってあるでしょう。 別に無理をして流行を追いかける必要はありませんが、その時代を代表する作品をその時代に リアルタイム で押さえるのは、時代の空気感ごと味わう点で後々メリットがあったりもします。 いや、たいしてなかったりもしますが。
履修すべき作品とは何か?
筆者 も 「あれを観ろ」「これを読め」 とあれこれ指図されるのが好きな方ではないので、ここでもあまり具体的にお勧めの作品名を挙げるつもりはありません。 ただ時代を代表する作品とか、一世を風靡・覇権 を取って目印・指標となるようなメルクマールな作品はおのずと絞られてきますから、それらの第一作目くらいは押さえておくと、何かと 捗る かもしれません。
またこれは筆者や友人らの実体験でもありますが、特撮にせよアニメにせよゲームにせよ、ずーっと長く続くシリーズものは1つ押さえておくと、それが時系列を整理する物差し・メジャーになるということはあります。 例えば特撮ならスーパー戦隊ものやライダーシリーズ、アニメならプリキュアシリーズといった10年以上続くシリーズを継続して観ていると、「アニメ〇〇は 「フレッシュプリキュア!」 と同じだから2009年か」「てことは侍戦隊シンケンジャーの頃だな」「ちょうど自分が社会人になった頃だ」 みたいな情報と記憶を繋げる物差しになったりします。
いくら名作で有名とは云え1タイトルで100話を超えるようなアニメ作品 (銀英伝とかセーラームーンとかワンピースとか)、あるいはかなりの ガチ勢 でも OVA や小説・マンガまで含めると膨大すぎて全体が把握できないガンダムシリーズとか、一部を把握するだけでも一大事業となりかねない巨大すぎる作品もたくさんありますが、楽しめる範囲で少しずつ履修するのは、それはそれで楽しいものです。 ちなみにこうした長い作品の履修を目指すのは 「マラソン」、履修を終えることは 「完走」 と呼ぶこともあります。