初めて使った時、「プロみたいじゃん…」って感動しますよね、トーンって (^-^)
「スクリーントーン」(Screen Tone) とは、マンガ や イラスト、デザイン用の 画材 のひとつで、糊のついた透明なフィルムに模様 (トーン) が 印刷 されたものです。 マンガ原稿に直接張り付け、影付けや模様付けに使われます。
ごく初期のものは糊面と印刷面が同じ裏側であったため、切り張りのみにしか使えませんでしたが、後にトーンが表面に印刷されるようになったため模様の 「削り」 が行えるようになり、またフィルムが薄くなった事により 「重ね貼り」(カケ) も可能となって、一気に表現力が高まりました。
ちなみに 「スクリーントーン」 は、元々 レトラ社の商品名称です。
現在は各メーカーから様々な種類が発売されていますが、我が国の 同人 の世界でもっとも普及しているのは (株)I・Cさんの 「I・C SCREEN/ アイシースクリーン」(ICトーン) でしょう。 ちなみに 筆者 は子供の頃 (80年代頭くらい)から MAXON社の 「MAXON SCREEN/ マクソン スクリーン」 を愛用していますが
他には 「DELETER SCREEN/ デリータ スクリーン」 や 「Jトーン」「テクノ トーン」 なども、利用者を見かけるトーンとなっています。 また使ってる人は少ないような気がしますが、インスタントレタリング (インレタ) のように、トーンを転写するタイプのものもあります (いわゆるスクリーントーンではありませんが、得られる画面効果はそれに近いものになります)。 切り取る手間がなく擦って転写するだけですので、細かい部分に適していますが、印刷効果、品質に関しては、スクリーントーンに劣ります (ドットがかすれたり、脱落しやすい)。
様々なスクリーントーンのタイプ
トーンには大雑把にいって、「網トーン」 や 「グラデーショントーン」「線トーン」 のような、網 などで 「明暗」 を表現するためのものと、柄トーン のように 「模様」 を表現するものとに分類出来ます。 最近ではこのほか、本来はペンワークで表現するようなもの (集中線や速度線、掛網や点描模様のようなもの) をプリントした、効果トーン (柄トーンの一種) も多く使われるようになりました。
価格はモノによって、あるいは購入先 (画材店はもちろん、最近では イベント会場 で安くセット売りされている場合も多いです) によってまちまちですが、近頃では随分と安くなり、B4サイズで一枚 350円くらい、B5サイズで250円程度が相場でしょうか。 ただしあまりに安いモノはトーンが薄かったりムラがあったりで、同人誌にする際、印刷屋さん からクレームがつく場合もあります。 上記メーカーなど、ある程度きちんとしたトコから出ているトーンを使うのが賢明でしょう (後で泣かない為にも…ね (^-^;)。
印刷に適さないスクリーントーンもあります
また種類豊富なトーンですが、実際に印刷に使えるものには、ある程度の制限があります。
印刷方法や印刷機材、技術力にもよりますが、網トーンの場合、きれいに印刷に出るのはせいぜい濃度 10% 〜 40%程度くらいでしょう。 これより薄いと飛んで消えてしまい、濃いと潰れてベタ塗り状態となってしまいます。 また網トーンの網点 (ツブツブ) があまりに細かくぎっしりなものも、敬遠した方が無難です。 これも潰れて真っ黒になってしまいます。
ツブツブの細かさは 線数 (網点密度) で表しますが、通常は 60線 (60ライン) あたりを使います。 線数が大きい (1つ1つのツブツブの密度が低い) と、より潰れにくくなりますから、心配なら50線などを選ぶのも手です。 見た目でツブツブがはっきり見えても、印刷の際に縮小したり、印刷面で点太り (紙にインクがしみこんでドットが太くなる) するとやっぱり潰れますから、印刷所に依頼する場合には、きちんと担当者に尋ねたり、入稿マニュアル を調べるようにしましょう。
自分でコピー機やプリンターなどで印刷する場合には、原稿すべてにトーンを貼ってしまう前に、買ってきたトーンをスキャンしていろいろ出力して試しておきましょう。 比較的有名なスクリーントーンのメーカーのものでも、消えたり潰れたりする場合もあります。 印刷や原稿の状態がそれぞれで違うからです。 「専門の道具なんだから大丈夫なはず」 と勝手に思わず、きちんと確認しましょう。
マンガブームと新規企業の参入により、低価格化
ほんのしばらく前、1990年頃まではトーンの価格はとても高いもので (現在の倍くらいの値段でした) 社会人はともかく、学生にとってこの価格はけっして安いモノではなかったようです。 いわゆる 「同人サイズ」 の原稿用紙 (A5版同人誌、あるいは実寸印刷によるB5版同人誌用のB5版の原稿用紙) が生まれ一般化した背景には、このトーンの価格もあるようですね (絵 を描く 原稿 の実サイズが小さければ、それだけ少ないトーンで済むため)。 この頃はスクリーントーンを使う人も少なく、手に入れる場所も限られていました。
1990年代末になると、無地のトーンフィルムにパソコンのプリンターで出力した 「自作トーン」 を使っている作家さんもよく見かけます。 幾何学的に複雑な グラデーション のトーンも自在ですので、使い慣れるとかなり強力な表現力アップになります。 ただし削りは原則として出来ません。 また主にデザイナーやイラストレーターが使う、カラー作品用の 「カラートーン」 も、昔からあります。
様々な種類があるトーン、あまりに頼りすぎるのは考え物ですが (手抜きをごまかす トーンマンガ になってしまいます…)、自由に使いこなせるようになると、これほど心強い味方もありません。
パソコン内で完結する原稿作りが広まると…様変わりするトーン
2000年代になり、パソコンのソフトウェア上で マンガ の原稿を描くケースがとても増えています。 それ以前にも、表紙 用のカラー原稿をパソコン上で作ったり、データの形で入稿すると云うのは一部のパソコン使いの間ではポピュラーでしたが、色付けだけでなく、ペン入れや 下書き まで、全てをパソコンと ペンタブレット で行う人が増え、トーンに関する 環境 も様変わりしています。
初期の頃は、Photoshop などを使って作っていましたが、その後相次いで発売されたマンガ原稿作成用のソフトが徐々に普及。 トーンなどは、そのソフトの機能を使い、あらかじめ登録されたトーンを範囲指定して塗りつぶすような扱いに変わってきていますね。 いわゆる 「削り」 は少なくなり、グラデーションで明暗の境目を表現する作品が増えてきました (それしか方法がない、もしくはそちらの方がずっと簡単)。
職人技の冴えるトーンワークってのもありますよね
筆者が使っていた 「MAXON SCREEN」 はフィルムの透明度が非常に高く (糊の 粘着 力も極端に強い)、重ね貼りにとても強いトーンでした。 2枚3枚どころか、4枚重ねでも結構キレイに印刷にでるので、キャラクター の服を柄トーンで表現した後に、影を2重3重につけるようなトーンワークが可能でした (やりすぎると モアレ が出て大変ですが)。 重ね貼りは凝りだすとキリがなかったですね。
代表的な網柄のスクリーントーン |
スクリーントーンの重ね貼り |
角度に変化をつけると出現するモアレ |
一方、技術力とセンスが物をいったのが、「削り」 ですか。 デザインカッターを自在に操り、自由自在にトーンの削りで絵を描ける人が、昔は大勢いましたね (今はパソコンで簡単に再現できてしまうので、需要 が減ってるんでしょうね)。 夏の空の入道雲、逆光でキラキラ輝く水面、車やバイクのエンジンや車体の質感表現など、その道のプロが作業しているのをそばで見ているのはとても楽しかったですね。
ちなみに細かく切り貼りしていると、デザインカッターの使い方次第でせっかくカットしたトーンがどこかに飛んでいってなくなることが良くありました。 部屋の模様替えの時に家具の奥から見つかったり、お風呂に入ると湯船に浮かんだりしましたね。