児童歌謡から若者の歌へ…? 進化するアニソン
「アニメソング」 とは、アニメ作品 の主題歌 (OP曲、ED曲) や劇中で使われた挿入歌、その他アニメ作品全般に関わるイメージソングやテーマソング、キャラソン (キャラクターソング) などの楽曲全般をあらわす言葉です。 「まんがの歌」(テレビまんがの主題歌) とも呼びます。
カラオケでは盛り上がるアニソン |
言葉としてのアニメソングは、アニメーション (Animation) の略語であるアニメ(Anime) と、歌を意味するソング (Song) という2つの英語を組み合わせた造語ですが、略語となるアニソンともども、日本特有の呼び方 (和製英語) となっています。
ただし後には海外での日本製アニメの人気とともに略語のまま言葉が外国に伝わり、こうした カテゴリ の楽曲全般を Music in Japanese animation とする一方、アニソンそのままに 「Anison」 とする表記も一部で見かけます。
海外ではアニメ主題歌などに比べると日本の一般歌謡曲があまり広まっていないこともあり、実質的に海外で視聴される 邦楽、J-POP とのくくりの中で、その中核的な位置をアニソンが占めている場合もあります。
定義が難しい 「アニソン」
商業 音楽の世界におけるアニソンの取り扱いは独特です。 数十万枚以上をセールスするような大ヒットがあまりでず、かつてはビジネスとしての旨みもあまりなく、商品・楽曲としての ジャンル が単独で成り立つほど市場が大きくなかったので、レコードや CD などの楽曲定義、流通上の分類が、あまり整っていなかったのですね。
その結果、購買層や元となるアニメの視聴者層が近い特撮番組の主題歌 (特撮ソング、特ソン)、童謡などと同じジャンルや近いジャンルとして扱われるケースが長く続いていました。 特撮と複合して 「アニメ・特撮」 となったり、それらを全て含めて童謡や児童歌唱曲、サウンドトラック盤 (サントラ盤) とされる場合もあります。
その後は アニメ本編とは独立していたり、アニメ化していない マンガ や ラノベ の キャラ のイメージソング、ゲーム に関する楽曲や、ラジオドラマ、CDドラマ、さらにはもっぱらアニソンをメインに手がける歌手や声優、アーティストなどの楽曲全般をもひとまとめとしてアニソンと呼ぶようにもなっています。
厳密に云えばアニメ番組と無関係の楽曲はアニソンではありませんし、ドラマやサントラは、あくまでドラマやサントラです。 しかしレコード店や CD ショップなどで売り場を分けるのが難しかったり、細分化してもセールス的に不利になるだけなので、わかりやすいように一緒にしているケースが多く、それが慣習として定着しているからでしょう。 また学年誌 (小学◯年生のような、児童向けの月刊誌) の付録としてついてきたソノシート (安価で簡便なレコード) に、それらの楽曲が長年詰め合わせの状態で作られてきたという歴史もあります。
なおこうした状況は、1980年代頃にガラリと変わります (後述します)。
おたくな人達だけでなく、若者から広く支持されるアニソン
当然と云えば当然ですが、いわゆる オタク な人達との親和性が極めて高いのが、こうしたアニソン楽曲の際立った特徴です。 アニメ作品によって音楽そのもののジャンルは多岐にわたりバラエティに富んでいますし、子供向けがベースとなっている初期のアニソンは曲調も明るく分かりやすく、また場を盛り上げやすく歌いやすいものが多いため、カラオケ などが若者の間で広く利用されるようになると、好んで歌われるようにもなっています。
また 歌ってみた 動画などが盛り上がるニコニコ動画などの 動画共有サイト では、サビのフレーズ部分に コメント が殺到。 その様子から 弾幕ソング と呼ばれる場合もあります。
歌詞に関しては、一般的な歌謡曲や流行歌 (J-POP) などが男女の恋愛を歌う楽曲に極端に偏りがちなこともあり、戦いや運命、正義、勇気、友情、不条理、下ネタを含むギャグや ネタ、ちょっと危ない 電波ソング な内容などをわかりやすい言葉で表現する楽曲も多いアニソンは、とても魅力的に思える人も多いのでしょう。
初期の頃は、そのアニメ番組のためだけに作られた楽曲で作品の単なる一部、あるいは宣伝材料 (番宣用の宣材) として扱われるケースの多かったアニソンですが、その後は音楽作品としてアニメ終了後にも単独で演奏・発売されたり楽しまれたり、アニメの市場が広がるとともに、本来アニメとは無関係な楽曲の タイアップ やメディアミックスなども盛んに行われるように。
また耳に馴染み郷愁を誘うアニソンはテレビCMなどでリバイバルすることもあり、若い人達が昔のアニソンだとは知らずに楽しむといった状況も生まれています。
背景に 「物語」 を持つ音楽の強みと弱み
アニメオリジナルの楽曲については、アメリカのディズニーが制作したアニメ短編映画、「Mickey's Follies」(ミッキーのフォーリーズ/ 1929年8月28日公開) において、ミッキーマウスが歌う 「Minnie's Yoo Hoo」(ミニーのユー・フー!) がそのルーツともされます。 日本においては、1931年1月に公開された約2分間の実験的アニメ映画、「黒ニャゴ」 において、ビクターの童謡のレコードを音源として使ったレコードトーキーがその最初とされます。
また1944年にアニメ映画 「フクチャンの潜水艦」 で使われた主題歌 「フクちゃん部隊出撃の歌」 と劇中歌 「潜水艦の台所」 は人気を受けてレコードが作られ (当時はSPレコード)、アニメのためだけに作られた楽曲のレコード発売としては、日本で最初のできごととなっています。
ただし映画に主題歌や劇中歌が登場するのはずっと以前からありましたし、映画以前のマンガ、さらにマンガの原型だとも云える絵本や昔話、童話を テーマ にした、いわば現代のキャラクターソング的な歌も、昔から存在していました。 初期のアニメは漫画映画、活動漫画やテレビマンガなどと呼ばれていましたが、これの原型は紙芝居でしょう。 紙芝居では紙芝居師が軽妙な口上と共に演目の歌を歌うケースがありましたから、ある意味でアニソンの直接的なルーツとしては、紙芝居などが近いのかも知れません。
これらの楽曲の特徴としては、背景に明確な物語を持っているという点でしょう。 歌詞にも物語の名前や登場キャラクターの名前、ストーリーの説明などが多かれ少なかれ入っていて、実際に歌を歌っている歌手の存在は全面に出ず、物語のキャラクターやストーリーがなにより重要視されます。 こうした特徴は、一方で物語と結びついた強さをその作品が好きなファンに持ちますが、一方で実際に楽曲を作ったり歌う人達のイメージをぼかしてしまう弱さもあります。
宇宙戦艦ヤマトと銀河鉄道999、アニメ・声優のブーム
アニソンにおける日本での大きな転換点となったのは、1974年に放映されたアニメ 「宇宙戦艦ヤマト」 の大ブーム (再放送から映画化にかけ、空前のアニメブーム、声優ブームが発生)、それに続く 「銀河鉄道999」 などの人気でしょう。 アニメを子供のものから中高生、若者にまで本格的に広げることにもなったこのブームでは、様々なアニメ関連商品などが発売されました。 まだ映像を映像として販売することが無理な時代 (ビデオ普及前) だったこともあり、書籍類と共に盛んに作られ買われたのが、レコードによる音楽作品でした。
主題歌のレコードの他、映画を追体験できるようなサウンドトラック盤 (劇中GBMなどをまとめた音楽レコード) が発売され、中でも1977年に日本コロムビアから発売された 「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」(Symphonic Suite Yamato) は話題に。 宮川泰さんによるヤマトの音楽が非常に優れていたこともあり、当時3,200円という価格だったにもかかわらず良好なセールスを記録 (筆者 ももちろん買いました…)。 他社からも相次いでアニメや特撮をテーマとしたレコードが発売されることになりました。
前後して、1979年8月4日に公開された長編アニメ映画、「銀河鉄道999」 のゴダイゴによる主題歌 「銀河鉄道999」(作詞/ 奈良橋陽子/ 山川啓介/ 作曲/ タケカワユキヒデ/ 編曲/ ミッキー吉野) は一般歌謡曲を押しのけ空前の大ヒット。 当時ゴダイゴは、特撮のあるテレビドラマ 「西遊記」 のエンディングテーマである 「ガンダーラ」 や主題歌 「Monkey Magic」、および 「ビューティフル・ネーム」 などが相次いで大ヒットしており、ゴダイゴ楽曲がアニメファンのみならず一般の間でも人気を得ていました。
こうした状況もあり、「アニメの主題歌 = 子供向けのもの = その他の楽曲に比べ一段低いもの、お金にならないもの」 との認識を大きく変える決定的な影響をこの時代が与えたといって良いでしょう。
プロモーション優先でアニソンらしいアニソンが減った…?
これはアニソンが新しい時代に入ったことを示す出来事でもありましたが、その後のアニソンのありようを大きく変える出来事でもあったため、賛否は両論ともなっています。 それ以前にも、ささきいさおさんの 「宇宙戦艦ヤマト」 の主題歌や、堀江美都子さんの 「キャンディ・キャンディ」 の主題歌などは、当時のレコード販売枚数の平均値から言えば十分に大ヒットのうちに入る好セールスをあげていました。
もちろんその前にもヒットしたアニソンなどはあるのですが (童謡や児童歌唱曲として)、1980年代以降は、主題歌が頻繁に変更されたり (その都度レコードが売れる)、その作品とは全く関係のない内容・アニメと関係のないアーティストによる一般歌謡曲の タイアップ (とくにエンディングテーマ曲で顕著) が生じることに。 オタク系と相性の良いアイドルよる音楽も次々に投入され、「アニメの作品名や物語やキャラクター、世界観 などをダイレクトにあらわす楽曲」 は相対的に少なくなってしまいました。
これについては、「アニソンらしいアニソンがなくなってしまった」 と嘆く人もいますが、一方でアニメの音楽だからと不当に低い評価がされていた作品が再評価されたり、その時点その時点でもっとも人気のあるアーティストが関わり、アニメと時代性とが強く結びつく効果があるなど、評価する声もあります。
なお1990年代をピーク (成長は1996年、CD 生産量では1998年頃がピークでしょう) として、音楽産業全体は CD の売り上げが激減するなど、極端な縮小傾向が続いています。 しかし一方で、アニソンについては、「音楽」 であると同時にファンのためのグッズとの位置づけも持っています。 初回特典としてアニメグッズがつくなどの後押しもあり、2000年代に入ると音楽産業全体の中では、アニメ楽曲のウェイトが上がり続ける傾向にあります。 一般的な歌謡曲と違い、オタクや熱心なファンの 「物欲」「所有欲」 を、アニソンの CD などが持ち続けているからでしょう。
2000年代中頃からは、いわゆるオリコンチャートの総合ランキングなどにも、アニソンが度々ランクインすることが少なくない状況になっています (正直言って、2000年代のオリコンチャートに意味があるのかどうかはわかりませんが)。
圧倒的な歌唱力と表現力、魂を揺さぶる声…アニソン界の四天王とは…?
アニソンらしいアニソンを語る上で避けて通れないのがアニソン歌手 (スタジオ歌手) やアニソンにも参加しているそれ以外の楽曲の歌手。 そんなアニソンの歌い手のうちでも、とくにたくさんの楽曲を担当し、絶大な人気と影響力を誇る歌手4人を称して、俗に 「アニソン四天王」 と呼びます。 ただし誰がその4人なのかについては定義や聞き手の年代によって諸説あります。
アニソン界の帝王、アニキ (ニキ) とも呼ばれて日本のみならず海外の ファン からも慕われている水木一郎さん、大ヒットアニメの楽曲を手広くレパートリーに持ち、アニソン界の大王とも呼ばれる ささきいさおさん、アニソン界の女王とも称される堀江美都子さんあたりは 鉄板 でしょう (アニソン御三家とも)。
最後の一人については活動歴の長さ、レパートリーの豊富さから大杉久美子さんを支持する人が多くなっていますが (以上の四人でアニソン四天王として活躍していた時期もある)、子門真人さんを推す人も多くなっています。 他には担当楽曲数は及ばないものの、アニソン界のプリンス、影山ヒロノブさんや、時代を象徴するような名曲を数多くレパートリーに持つ前川陽子さんを挙げる人もいます。
いずれも実力については折り紙つきのアーティストばかりですが、アニソン以外の楽曲を広く手がけヒットした歌手はアニソン部分については評価が低くなりがちだったり、楽曲そのもののクオリティだけでなく、歌手にとっては偶然の要素が強いアニメ作品のヒットの有無などが影響しているため、それぞれを押す人にそれぞれの根拠があり、まとまっていないのが実情でしょう。 うち子門真人さんについては、1993年に 公式 に事実上の 引退 をしており、新しい楽曲が増えていないという事情もあります。
ちなみにどうでもいいですが、筆者が初めて買った (買ってもらった) レコードは、アニメ 「キューティーハニー」 の絵本 (ブックレット) と一緒になったEPレコードでした (1973年のもので、主題歌の 「キューティーハニー」 とED曲の 「夜霧のハニー」 が入ってました)。 歌は前川陽子さん。 正直すり切れるほど聴きまくりましたが、未だに購入当時のことを、かなり鮮明に覚えています。 親にはキューティーハニーは少女漫画だと見えたらしく (まぁ実際そうなんですが)、何だか肩身が狭かった印象があります…。
またタイムボカンシリーズなどの軽妙な中にも熱さを感じる山本正之さんなどは、熱狂的なファンが数多くおり (友人にも2人ばかりいます…)、テレビなどのアニソン特番みたいな番組で歌声を披露することはないのですが、しぶとく強い支持者が大勢いて独特の存在感を持っています。