名曲もあっという間に電波な歌に…電波ソングと似て非なる 「電波歌」
「電波歌」 とは、既存楽曲 (一般歌謡曲など) の歌詞を変えて、面白おかしい別の歌にしてしまうこと、いわゆる 「替え歌」 の中でも、ブッ飛んでいて笑えるような歌詞となっている歌のことです。 「電波替え歌」 とも呼びます。 場合によっては歌詞などが存在しない音楽 (映画の主題曲やクラシック音楽など) に、勝手に歌詞を付ける場合もあります。
電波歌でカラオケ熱唱 |
歌詞改変の傾向としては、訳の分からない狂気じみた歌詞 (いわゆる 電波 な歌詞) になっていたり、内容が犯罪行為や事故事件などを モチーフ とした不謹慎ネタになっていたり、日常生活の 「あるあるネタ」 やお色気話だったりします。
既存作品を使う点で、オーディオテープによる音声や動画における MAD に近い扱いの、ジャンル としては 二次創作 にあたる作品となります。
こうした作品類は、同人誌 の形で 頒布 されたり、SF大会などのコンベンション大会や 同人誌即売会 などの イベント で、ちょっとした余興、有志のショーのような形で発表されたり、パソコン通信 の OFF会 や おたく が集う カラオケ などで、よく披露されていました。
替え歌のモチーフとしては、ノリ の良い特撮ヒーローものの主題歌や、スーパーロボット系、勇者シリーズ系のようなアニメのOP曲はとても人気がありました。 しかし一方で、ドラえもんやオバケのQ太郎などの児童向けアニメや、少女漫画、魔法少女系アニメなどの主題歌もよく ネタ になっていましたね。
ただし一般向けのカラオケは 1971年に登場したものの、それが若年層にまで一気に広まり本格的に普及したのは、1985年にボックスルームタイプの専用施設 (カラオケボックス) が登場してからですから、それ以前までは音楽好きな人やイベントなどに足繁く通う人でないと、これらの作品に触れるチャンスは少なかったかも知れません。
初期の極めて有名な作品としては、日本SF大会などで使われた 映画 「スター・ウォーズ・シリーズ」 の 「帝国のマーチ」(ダース・ベイダーの テーマ/ The Imperial March/ Darth Vader's Theme/ 1977年〜 (ただし同マーチが登場したのは旧3部作2作目、1980年) に合わせた 「帝国は〜とても強い〜 皇帝は〜とても偉い〜」 との岡田斗司夫氏作詞による帝国の歌があります。
また映画 「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」(インディ・ジョーンズ シリーズ/ 1981年〜) の 「インディーのマーチ」 にあわせた 「遺跡を〜壊せ〜宝を〜奪いとれ〜土人は〜殺せ〜」 なども、おたくの 界隈 ではとてもよく知られた歌でしょう。
「電波歌」「電波替え歌」 と 「電波ソング」、語源はどこにありや?
こうした電波な替え歌を 「電波歌」 と呼ぶようになったのはかなり後年で、一説にはラジオ番組、「伊集院光 深夜の馬鹿力」(1995年10月10日〜) において、リスナー など素人が 投稿 した珍妙な替え歌ネタをさかんに番組中で 「電波歌」 と呼んでいて、これがそのまま言葉として定着したとも云われます。 1996年には、「輝け!紅白電波歌合戦」 などの企画も実施されています (この他、番組テーマから 「馬鹿歌」 などとも)。
伊集院光さんがおたく系のネタをよく披露し、サブカル系、おたく系からの支持も大きかったことから、この電波替え歌にはアニメ主題歌 (アニソン) なども扱われていて、中でもマジンガーZの主題歌を使った 「強いロボ」 シリーズは、大きなインパクトを持っていました。 歌詞中の 「パイルダーオン!」 をどう活かして盛り上げるかが肝にもなっていましたね。 こうしたネタはおたく界隈では前述のとおり昔からありますから、これが波及して 「電波歌」 との呼び方が広まるひとつのきっかけともなっています。
一方、替え歌ではなくて元々の楽曲自体が意味不明な歌詞や異常な ノリ で構成されている楽曲を 電波ソング などとほぼ同じ頃に呼んでもいますので (1980年代末から1990年代初頭にかけてのバンドブームの末期に、一部の色物バンドの意味不明な曲などを指して使うケースがあった)、このあたりの言葉がどう相互作用してどう使われるようになったのかは、少々込み入っていて分かりづらくなっています。
そもそも MAD = キチ○イ = 電波 ですから
前述したオーディオテープによる 「MAD」(初期の コミケ で登場) が 「狂ってる」「キ○ガイ」 との意味ですし、その後こうした言葉は使いづらい時代となって登場した隠語が 「電波」 ですから (罪を犯した精神に病を持っていると思われる人などが、しばしば 「電波が頭に入ってくる」 などと供述するところから)、言葉としての 元ネタ がどこにあるにせよ、同じような認識と同じような カテゴリ の人間 (おたくか、サブカルチャー系の人たち) が、作って広めた言葉だとは云えそうです。
1970年代末から1980年代以降にかけ 「電波歌」 と同じ作品は多数発表されていました (筆者 の周りでも、宇宙戦艦ヤマトや機動戦士ガンダムはじめ、様々な アニメ の主題歌が、無茶な替え歌になって発表されていました) から、言葉として 「電波歌」 が使われる以前から、「変な替え歌」 はネタとして一定の レベル に達したものが、不特定多数に広められる状況とはなっていました (というか、流行歌の替え歌遊びなどは、誰でも一度はやったことがあるでしょう)。
こうしたものはその後、パソコン通信時代を経て インターネット の時代となり、ネット で 空耳 などと混ざり合いながら、様々な笑える作品を今も作り出しています。