一度でいいから恋愛とやらをしてみたい… 「〇〇いない歴=年齢」
「〇〇いない歴=年齢」 とは、生まれてこの方一度も〇〇がいたことがないという意味の言葉です。 もっぱら恋愛関係で使われることが多く、〇〇部分に言葉を入れて 「彼女いない歴」 や 「彼氏いない歴」「恋人いない歴」 になることが多いでしょう。 その場合、生まれてから一度も恋愛をしたことがないという意味になります。 ネット においては 自己紹介 として 属性名乗り とともに記されることが多い表現でしょう。
それに加え、男性の場合は 自虐表現 として 趣味 のもの、例えば アニメ の 好きな キャラ とか ゲーム とか車とかバイクなどを恋人 (あるいは 俺の嫁) だと書いたり、シンプルに 非モテ とか 喪男 (モテない男の略語の 誤変換当て字) と表現したりします。 女性の場合は併せて 「生物学上は女」(一応女だけどもう女を捨ててますとか恋愛対象にならないような人間です、みたいな意、ただし ボク少女 のように 中性的 な個性をアピールする目的の場合もあります) が続けてつけられることもあります。 モテない女なら 喪女 です。
「ねるとん紅鯨団」 の出演者の恋愛歴を紹介する中で
言葉としては 普通 の日本語表現であり、意味もすっきり通るものですが、こうした言い回しが広まった直接的な発端は、1987年10月から1994年12月までフジテレビ系列で放送されていたバラエティ番組 「ねるとん紅鯨団」 でしょう。
この番組は前番組である 「上海紅鯨団が行く」 の1コーナーとしてお笑いコンビ とんねるずが司会の集団お見合い企画の人気を受け独立し新番組化したものです。 内容は、番組で募った複数の一般視聴者の男女が出会い (ご対面)、それぞれが自分の特技などを紹介 (アピールタイム)、フリートークタイム (男女複数人の グループ タイムと男女2人だけのツーショットタイム) を挟んで最後に原則として男性側から意中の女性に右手もしくはプレゼントなどを差し出して交際を申し込む (告白タイム) という内容でした。
この際、出演する一般視聴者の プロフィール を紹介するパートで、名前や年齢、特技、好きな芸能人などに加えて過去の恋愛経歴などを紹介する部分があり、「彼女いない歴=7ヶ月」 とか 「1年」 といった表現の中で、一度も恋愛をしたことがない人を 「〇〇いない歴=年齢」 と紹介。 それが一種の流行語のような形で広まり、定着したものなのでした。
ただし類似の言い回しは若者向け雑誌などにも先んじてあったとの話もありますし、この番組でのそれが言い出しっぺや直接の造語元だったのかどうかは不明です。 しかし番組が人気となる中で 「生まれてから一度も〇〇したことがない」 を表現するあまりに使いやすい言葉でもあり流行語に。 その後は恋愛関係だけでなく、人生初であるのをアピールする定型句、テンプレ として機能している部分もあります。 もはや新しい日本語や定型句だと云っても良いかもしれません。
なお男性側の告白を受けた女性は、それを受け入れるならそっと手を伸ばして男性の手を握り、拒絶するなら 「ごめんなさい」 と頭を下げてお断りすることになります。 もしその女性に心を寄せる男性が複数いた場合は、「ちょっと待ったー」 と横やりを入れて、女性にいずれかの男性を選んでもらうという形になります。 誰からも告白されなかった女性は、女性から拒否された男性と共に消えていくことになります。
1980年代、恋愛至上主義の象徴の一つでもあった 「ねるとん」
この番組の放映当時はバブル経済が盛り上がり空前の好景気がやってきたタイミングでしたし、若者の間で男女の出会いや恋愛にまつわる様々なブームや文化が、主にメディア主導で活発化していたタイミングでした。 この番組はその時代を象徴するものの一つであり、番組が大ヒットしたのみならず、広く男女の出会いや恋愛の言葉にも影響を与えるものでした。
その影響は多岐に渡りますが、番組中で男女が二人きりになることを 「ツーショット」 と呼んだり、カップル成立に予想だにしない波乱の展開があった場合の 「大どんでん返し」 は流行語となり、さらに合コンやお見合いパーティーを俗に 「ねるとん」 や 「ねるとんパーティー」 と呼んだり、出会い系サービスや複数の (もっぱら男女の) 電話回線を結ぶサービスを 「ツーショットダイヤル」 や 「ねるとんダイヤル」 などと呼ぶようにもなっています。
これらの言葉は2000年代になっても生き残っているものが数多くあり、さすがに 「ねるとん」 は使われなくなっていますが、ツーショットとかちょっと待ったー、〇〇いない歴=年齢あたりはまだ若者言葉として通用するでしょう。 番組の人気と時代を超える影響力の強さを感じさせるものと云っても良いでしょう。
なお彼氏・彼女ができたことがあるかどうかは本人の資質や姿勢もさることながら、時代性や地域性、友人知人らとの人的ネットワークの有無やその内容によっても大きく変化するので、かなりのところ 「運」 次第ではあります。 もちろんある程度の積極性は必要ですが、1980年代から1990年代あたりにかけての恋愛至上主義みたいな 雰囲気 は結構大きく、別に ナンパ だの出会い系だのといった極端に積極的な行動を取らなくても、なんだかんだいってこの年代に適齢期だった人は、出会いや交際がしやすかった部分はあるかもしれません。
そうした世相の中、周囲に彼氏・彼女持ちがいれば自然と自分もその気になりますし、彼氏・彼女持ちの人間も周囲に交際相手がいない友人がいると、あれこれ世話を焼いたり紹介したりも起きるでしょう (でないと、グループで遊びに行くのも飲みにいくのも難しくなりますし)。 逆に云えば、周りに彼氏・彼女がいない人ばかりならば、俺も私もでそのまま時が過ぎ去ってしまったりもします。
別に恋愛だけが人生ではなし、いてもいなくてもどうにでもなることではありますが、男女が気軽に出会ったり恋に落ちることができる期間 (年齢) はそう長くありません。 少しでも未練があるのなら、なるべく早く活動した方が後悔を残さずに生きることができるかもしれません。